自給自足の山里から【181】「悪魔のマント―詭弁」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【181】「悪魔のマント―詭弁」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年3月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

悪魔のマント―詭弁

20℃の温度差―山羊・アヒルの死

我が山村。お山の樹々、田んぼ、畑、家畜(ニワトリ・山羊・アヒルなど)小屋、母屋、パン焼き小屋などは、連日雪降り続き、“白い悪魔のマント”に覆われる。
生きとし生けるものたちは、じーっと耐えている。雪の中に音が吸い込まれていく静けさ。私は、深い静寂にただただ身を沈め、お酒をいただく。零下の世界で、大地は凍てつく。
昨日は、20℃近い温度で、ポカポカの陽気であった。それが、今日は零下3℃。なんと、1日で20数℃の温度差である。
山村に暮らして30年。初めて。身も心もオタオタびっくりの疲れ。我が山羊のと(・)も(・)え(・)は、横になり起きてこない。一晩中、メェ~メェ~と鳴き、悲しき死。アヒルのガー子も、雪の中に死す。

つかの間の春

この冬、3度大雪が降り、3層の積雪を示す。この上に4層5層と積もると嫌だなあと思っていたら、4~5月を思わせる陽気で、3層雪はほとんど消え、黒々とした大地が姿を現す。
ニワトリたち、小屋から飛び出し、土をついばむ。私も、カマとクワを手に畑に立つ。白菜、キャベツなど耐えての美しさ。玉ネギの苗はびっくりの表情。あっ! ふきのとうがにっこり。採って我が食卓へ。甘くておいしい! まだ大地に根を強く張っていない今だと取りやすい草を取って、トリ・山羊などに与える。
冬も川から水引いて貯えられている田んぼの水たまりの手入れをする。
雪解けての大地にあふれる春のような喜びにひたっての働き、仕事の幸せである。
ゲロッ、ゲロッと、私を迎えてくれるカエル。陽気の中の喜びの産卵である。田んぼに、白い小さな玉の卵がたくさん入った黒い寒天状の塊があっちこっちにある。
ぐぁ~、ぐぁ~となんとも、威嚇するような鳴き声が頭上に響く。コイをもひと飲みするクチバシを持つアオサギである。卵や、産み終えたカエルを狙っているよう。
家の中に、逃げてきたのか、やせ細ったミイラ状のカエルが何匹もいる。猫も食べない。

大地とともに、おひとりさま

私は今、築115年の古民家に、おひとりさま。家族で山村に移住して以来、ひとり暮らししたことがない。6人の子どもがいて、「百姓体験」の若者たちがいつも居候していた。6人の子は独立し、雪ということで農作業なく休みで、この2ヵ月はひとり暮らし。雪の中、凍てつく大地とともにある。若い頃、テント担いで独り山を登った時代を思う。
静寂の中、耳に浸み込むジィー、ジィーと響く小さな音たち。悪魔の白いマントの下、大地に小さな微生物のダニ、バクテリアなどが叫び鳴いている。かすかであれ、大地に、雪の隙間から射す太陽光に思いをはせる。
仏教学者・思想家の鈴木大(だい)拙(せつ)さんは、「人間は、大地によるが故に天日の恩を知ることができる。天照らす大日の力を大地なくては感じられぬ。大地は、人間のよびかけに直接に応えるが、天日はとおくして手がとどかぬ。祈りはささげられるが、それ以上は、人間の力はおよばぬ」「人間は、天に対しては絶対に受動的である。もし、天の愛に親しみ得られることがあるとすれば、それは大地を通してである」と申す。

戦争をしたい?!

音が欲しくなって、テレビのスイッチを入れる。国会中継をやっていた。しばらく聞いていたが、気分悪くなりスイッチを切った。
かつて、NHKに圧力かけて番組を変えさせた安倍は、経営委員、会長人事に介入し、「慰安婦は、戦争地域にはどこにもあった」「政府が右と言うのを左と言うわけにはいかない」の籾(もみ)井(い)をNHK会長に、また、3人の都知事候補者を「人間のクズ」などと言う者を経営委員として任命する。その言動が追及されても詭弁(きべん)を弄して開き直る。
オリンピック招致にしても「フクシマの汚染水が完全にコントロールされている」とか放射能の健康問題についても「何の問題もない」と、根拠なく平然とウソを言う。
特定秘密保護法案でも、慣例無視のごり押しをし、通してしまえばもうこっちのものとばかりに「反省している」「もっと丁寧に」としゃ~しゃ~と。あきれる。
相手の意見をきちんと聞いて返答、対応することなんかせず、ただ一方的に自分の意見を言い募って、理の合わない言い方ですり替える。人間としての罪悪感なんかない。
憲法にしろ、国会の3分の2以上賛成というのを下げるために96条改悪して過半数で発議できるようにしようとしたり、集団的自衛権を違憲とするこれまでの見解を変更させるため、内閣法制局の長官を代える。
なんだか、自分の思いの達成のためには、なりふり構わずのよう。いやはや。
戦犯祖父・岸信介の霊がとりついているのか(笑)。第二次大戦は、正義の聖戦で、敗戦のサンフランシスコ体制、東条裁判は認めない「歴史認識」を持ち、かつての「大日本帝国」を呼び戻さんとしているよう。
妄想だと思うが、「今、クーデターがおきている。全体としておこっているのは、戦争したいということだ」と作家の辺見庸(よう)さん。

(2014年2月5日)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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