自給自足の山里から【173】MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【173】MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年7月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

今時、手で田植えなんか、時代遅れ?

今年の梅雨は、雨が降らない。100年ぶりかという空(から)梅雨である。「台風3号がやってくるというので期待していたが、期待外れ」と、近くの百姓は笑う。
「今年はどうも変だ。あのタイ米輸入した年みたいになるんじゃないかなぁ。自分のところで食べる分は、しっかり残しておかんとあかんよ」と、お年寄りから忠告される。
川の水も細くなり、田に水引くのに苦労し、水力発電も弱々しい。畑のカボチャやナス、キュウリなど夏野菜の出来ももうひとつである。それでも野山では、野イチゴやクワの実がたくさん採れて、ジャムが食卓に。梅も豊作で、梅干し、梅ジュース、梅酒、梅肉エキスづくりしたり、茶つみしてのお茶、紅茶づくりしたりなど忙しい。
今年も、我が山村は、4軒の若き百姓たちで、30枚の棚田(1町5反、各戸2~5反)を畦(あぜ)ぬりしての米つくりである。9日間かかって、“結(ゆい)”で田植えする。田植えは、横に赤い印(約40㎝間隔)のついたひもを引き、それぞれが並んで、一斉に植えていく。4戸の百姓に、4人の「居候」「研修生」。神戸から学習塾の小学生3人と友田さんらである。にぎやかな祭である。
昼食は、今日植えつけの家が用意する。自慢の“ごちそう”を畦道に並べて、幼い0歳から9歳の9人の子らも加わっての食卓である。
27年前、13軒が米つくりしていた。みんな60歳を過ぎていた。老い亡くなり、息子は「経済成長のおいしい味を知った」世代で、「こんなしんどいことせんでも、買った方が安い」とみんなやめた。田が荒れるのを見るのがつらく、できるだけ小作するようにしてきたが、不耕作田多く、無力さは避けがたい。
さて、そんなで、71歳の白いヒゲの私が、ひとり。若者、幼い子たちとともに、田に立つ。「そんなに深く植えたら、苗が首までつかって苦しんでいるやろ!」「あっ! 田んぼの中、歩き回るな! 足跡に植えることになり、浮苗になる!」と、口うるさい。
翌日、田に行くと、深植えされ、苦しそうな苗たち、浮き流れている苗たち。老体にムチ打って手直しである。これが気重く、大変な作業である。昔、お年寄りが私に「あの人ら(都会からの若者たち)、早う上がってもらいねェ(田んぼから出てもらいねェ)」と言ったこと思い出す(笑)。
それにしても、手で苗を植えていく田植え、“結”でワイワイ祭さわぎの風景は、どこに消えていったのか? 「今時、手植えなんて、時代遅れ」の声とともに、機械に奪われてしまった。

生まれながら檻(おり)の中の人に、万歳!

天皇も、老齢にムチ打って(?)、ひとり何本かの苗を、田に植えている優雅な様子をテレビで見た。若者、幼い子らとワイワイ、自分らの食べる分くらい植えたかったろうと、ふと思った。
その天皇も出席して、サンフランシスコ条約が発効した4月28日、政府主催の「主権回復の日」の式典があった。天皇退席の時、安倍首相は「天皇陛下万歳」を叫ぶ。
自分の生命(いのち)と引き換えに、アメリカに沖縄を売り渡した張本人の昭和天皇の子に、万歳とは。当然、沖縄をはじめ万余の人々の抗議の集会が行われる。
思うに、安倍首相の天皇陛下万歳は、天皇制万歳!である。今時、生まれながらに身分と職務(しごと)が決まっていて、それに従うように、教育、結婚など、生き方がしばられて、まるで檻の中に閉じ込められている階級が存在している。それが天皇制である。
こんな制度に万歳でなく、粉砕!を叫ぶ私がいる。私たちの真の自由と個人の独立のために!と思う。天皇制とともに、被差別部落差別を糺(ただ)すことが求められる。

幼い頃からエッタと付き合ったらいかん

ふと、コンビニで手にした雑誌で、被差別部落出身のルポライター上原善弘さんの“差別や貧困だけでは語れない、現代の被差別部落を旅する”の記事を目にする。
旅先で出会った人の話を紹介している。今回は、八鹿(ようか)高校差別事件(注)のあった我が但馬(たじま)・養父(やぶ)市八鹿である。
「部落で生まれ育った70代の男性は、『今は差別は感じんけど、結婚の時は、やっぱり、差別されます。次男の嫁は、他の町から。両親・親族は結婚式に来なんだ。今も付き合いない。嫁は明るくふるまっているが』」と。政府の調査でも半分以上の人が結婚に反対か消極的である。
さらに、「八鹿高校の卒業生で、一般地区に住む67歳の男性は、私の出身を知らずに、こう言った。『幼い頃から“あそこ(同和地区)にだけは近づくな”と言われて育ちました。この辺では、彼らのことエッタとか、ヨツと言いますな。エッタは我々にもわからないような言葉を使うんです。一応、愛想笑いして挨拶くらいしますが、同窓会のときも挨拶くらいしか交わさないようにしています。うちの子供も絶対に結婚させません』」。「幼い頃からエッタと付き合ったらいかんと、教育している」と……。記者は、身の凍(い)てつく思い。
私も、但馬に移住して30年。二度、「大森さんはこれ!?」と言って、そっと親指折って4本指を示されたことある。一度目は、隣にいたブラクのおばあさんが、「こらぁ、ゆるさんぞ!」と叱った。二度目は「帰ってくれ!」と叫ぶ。
それにしても、八鹿高校の女子高校生のハンガーストライキの身をていしての抗議を思うと、情けない。

(注)1974年。結婚差別事件に端を発して、本当の教育を求めて、女子高校生がハンガーストライキ。その思いに寄り添って闘われた。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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