自給自足の山里から【161】「原発に頼らない社会づくりを」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年7月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
あっ、キツネ!
「お父さん、キツネがぁ!」と居間の方から、あいの悲鳴。
私も3日前、居間で、キイロの大きなシッポのキツネに出くわす。この数日、夕暮れ時になると、我が家にやってくる。
あいが電話中にも訪問があり、「今、側にキツネがいる」と言うと、相手の若菜さんは、「ウソ!ホント!もう、あ~す農場は動物園!?」と電話のむこうで叫ぶ。
隣町の知人の猟師は「きのう、山でかわいい5匹の子ギツネを見た。キツネは、人の家の中に巣作りして子を生むことがある」と言う。
トリにエサやりしていた「百姓体験居候」の一成君が、目を白黒させて、ボーっと立っている。
目の前に、網にはさまっている青大将(ヘビ)!「卵を食べにやってきたんだ」と言うと、びっくり。おそるおそる罠をはずす彼は、沖縄から歩いて、故郷の北海道まで帰る途中。
「歩いていると、いろんなことがよくみえる」という。
よみがえるホタル・モリアオガエル
畦草を鎌で刈り、モグラの穴を掛矢でふさぎ、水を引いて、鍬で土を練って、畦塗りし、代掻きし、水田に成る。
一方、我が家の前の7枚の田んぼは、稲刈り後の冬も水を貯え、生きとし生けるものの動きでトロトロである。
村の25枚、1町3反の田んぼを、あ~す農場、あさって農園、くまたろ農園、まるがく農園、の4軒で、それぞれ2~4反を管理する。
全く農薬、化学肥料を使わない、なかには、不耕起のお米づくり。おいしい。
26年前に移住した時、13軒が農協(JA)指導の農薬・化学肥料で米作りをしていた。
その人たちは、今、老い死に、子ども(といっても60代)は、誰も米作りをしない。
日本の4半世紀(25年)後の農山村の姿をみる思い。
皮肉にも、その結果、我が村は自然環境がよみがえる。6月10日、村の畦が白いあわのかたまりで真っ白になる。
モリアオガエルが、梅雨入りのこの日、一斉に産卵したのである。圧巻である。
また、田んぼでしかみられない平家ホタルの乱舞である。ちなみに、源氏ボタルは川で見られる。近くの高校の生物教員は「田んぼの平家ホタルの乱舞はすばらしい」と目を輝かす。
昔の風景がよみがえる田植え
5月初めに大地におろした我が種籾が、苗代で40~45日経って苗になると、田植えである。
今年は、6月6日から始めて、6月15日に終わる。1本1本手植えである。
村の若い4家族の田んぼを、共同作業で行う。大人8人(幼い子7人)と「百姓体験居候」の3人に、都会(東京・大阪・神戸・愛知など)、外国(インドネシア・アメリカ・ネパール)から、初体験の人たち20数人。
連日、10人近い人たちで田植えする。祭りである。ときに、田植え歌も出る。
田植えをした田んぼの家の者が、ごちそうを用意し、畦道で都会・外国の人たちと交流。
お年寄りに「あの人ら、早う上がってもらいねぇ」と言われたが、翌日、私は、浮き苗・深苗らの植え直しに追われて疲れ切る(笑)。
熊本の菊池市にある「アンナプルナ農園」から便りが届く。「この村で30年前まで、田植えは“結い”といい、村人がみんなでやって、十戸が各家の田を次々と植えていく。家の人は、村人にご馳走するのが役割で、毎日が祭りのような騒ぎ。そんな昔にもう戻ることはないかもしれないが、人と人、人と自然のつながりに、一つの文化をつくりだしていきたいと思う」(チコ)。
田植えの写真を撮りにきていた人が、「あっ、大きなカエルがいる!」と言う。見ると、田んぼの亀である。
早速、子どもたちは、田んぼに入って追いかける。「亀って速いですね」なんて言いながら、さかんにシャッターを押す。
東京からの吉岡志郎さんは「田植えは、ひもで等間隔に8~10人並んで、後ろに下がりながら植えていった。苗2・3本を人差し指で浮かないよう気を付けながら。4家族と「居候」が加わって、昔の風景がよみがえる。田んぼの食事も、自然の食材使ってとてもおいしく、夜は酒を酌み交わしながら、深夜まで、様々な経歴をもった人たちと色んな話をする。これもあ~す農場の魅力の一つ」とおっしゃる。
愛知からの百姓音楽家を志す中井さんは、「人生初の田植え、昌也さんの“イネの気持ちになればわかる”というのが印象的でした」と。
私たちの日常生活は変わってしまった
野田首相は福井大飯原発を再稼働すると言う。来訪の若者たちも参加して、首相官邸らへ連日デモを行う。
マスコミは伝えない。警察権力で弾圧。ある警察官は、兄弟のデモ参加を知ると、「極左の反原発デモに参加しないで。職を失う」とメール。親兄弟の間を裂く洗脳に怒り。
我が農場では、カマド・風呂場・パン釜などからたくさんの灰が出るが、その灰を贈る。
「ありがとうございます。自然と共にある生き方が一番汚染を受ける放射能。内部被曝が数値として出てきて、親として、生産者として、消費者として苦しみ。立ち向かう相手は大きく、近場の対立―親と学校、市民と行政、生産者と消費者―を生み、私たちの日常生活が変わってしまった。山のマキが、ストーブの灰が使えない、草をニワトリにやれない、販売の前にまず測定。
灰は、草地や農場に撒いて、測定した結果をみんなで共有し、大地の汚染を減らす実験に使わせていただきます」(可奈)
との便りが届く。
「毎月、MKタクシー車内のMK新聞で読んでいます。MK新聞が“あ~す農場”を載せてくれている限り大丈夫、なんて」(幸子)。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)