自給自足の山里から【155】「電気より食」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【155】「電気より食」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

電気より食

木の枝にぶらさがった母親

2011年3月11日。天災大地震・大津波により、東北沿岸部はガレキの山となり、死者・行方不明者約2万人に達する。
完全な人災のフクシマ原発事故は、未だおさまらず、放射能を日本・世界に放出している。
放射能は生命続いていくための細胞分子・遺伝子の結合を簡単に切って、大量だと死に、少しでも癌など発症しやすくなる厄介なもの。被曝した人々は癌を恐れ、結婚妊娠に不安を抱え、差別に苦しめられている。
多かれ少なかれ、日本全土が汚染されていっている。こんな2012年を迎えるとは!

フクシマ原発事故現場では、放射能を浴びながら―すでに45万余の労働者が被曝―「唄も物語もない」(佐野真一)労働に、釜ヶ崎山谷・辺地・被差別部落の労働者が苦斗している。1日も早くおさまることを願う。
何もかも流され、残ったガレキの中、「木の枝にぶらさがった母親をぼうぜんと見上げていた少年」(石井光太)は、この正月をどう迎えているのであろうか。

 

枯れ葉作戦のベトナムに原発輸出

大地から掘り出したら、タタリがあると言い伝えられてきたウラン。悪魔を地上に呼んだ人間は、その報いを受けている。まさに、過ちを認め反省しなければならない。
ところが反省すらできない日本の政府官僚資本家たちは、アメリカの侵略戦争で全土が被害に曝された枯れ葉作戦の残酷な跡の残るベトナムに、原発を輸出する。
なんともこりない面々である。決して人として許されない。

2011年12月10日、一夜にして月が欠け満ちていく“月食”。晴れ澄んだ天空ショーである。この日、「大森がブラク」だからと移住を拒む妨害にもめげず、放射能から逃れて幼いこと自給自足の暮らしをはじめた若夫婦一家の歓迎会を、あ~す農場で、近くの若い百姓仲間11人が集って行う。
食べものらは持ち寄り。0歳から7歳の幼い12人はにぎやか。JAICAでウガンダに行っての帰り、百姓志願の若者5人も加わる。
天空の“月食”に「うあ~すごい!」と歓声。サベツにめげず、放射能屈さず、明日からの夢と希望として山村の山間に響く。

 

電気より食。若き縄文百姓で脱原発

いま、日本人そして若者たちの自殺が止まらない。アメリカ・イギリスの2・3倍である。
1人さみしく孤独死、無縁死が増え続けている。天下の東大病院では、3割が葬式しない。
本来“死”は、縄文以来みんなでたのしき再生であり、尊く敬うものである。しかし、今日のように、こんなにも死が無下にされ、尊厳を踏みにじられる時代があろうか?
ふと、テレビつけてみると、落語家三枝の弟子のカナダ人三輝が、日本の大地を歩いて旅して感想を求められ、「縄文以来の日本人の魂は素晴らしい!」と喋っていた。ほっとし、嬉しかった。

さて、ずーと脱原発を訴えてきた作家ジャーナリストの広瀬隆さんは、「原発事故の原因は地震。原発なくても電気は十分。なによりも、原発よりも、食べものの方が大事。農をやる若者を育てることだ」とおっしゃる。賛成である。
私は第一子のケンタが生まれた年に、スリーマイル島原発事故が起こり、日本でも起こることを恐れ、脱原発を訴えた。
当時都会西宮に住んでいた。人々の反応は冷たく、電気がなかったらやっていけないというものだった。改めて、原発電気に頼らない社会・生き方・暮らしが求められた。
そして、28年前、自分の食べるものは自分でつくろうと、自給自足のにわか百姓はじめた。
縄文遺跡のある山村の被差別部落のお年寄りから“縄文百姓”を教えられた。私の第一子・第二子は結婚し、同じ村で百姓やっている。
6人の孫がいる。近在にも若い百姓仲間が生まれている。脱原発の社会は、若き縄文百姓の手で成ることを期待したい。

 

縄文百姓! かっこいい! 農場見学・研修、百姓体験居候から百姓へ

私は、呼ばれれば学校や大阪・神戸らに出かけ、「自給自足の縄文百姓の暮らし」を話し、百姓への誘いをやっている。また、農場見学・研修、百姓体験居候を受け入れている。
2010年には農場備え付けの「来訪者名簿ノート」の見学・研修者は400人近く、「百姓体験居候(1~10日間)」は170人近くになる。居候は若者が多い。

エストニア・ドイツ・ネパール・インドネシアなど外国からの来訪・研修もある。「日本にもこんなところあって感動した」と。ノートから少しですが、感想の声を!
・生きる知恵が、ぎゅっとつまった場所で、ふんどしをしめなおして生きていきたい(しほ)
・あ~す農場で過ごした10日間は、人生観が変わり、自然と生きていきたい(しげみつ)
・自分の食べものを育てる大切さを知ることができた(けいすけ)
・農場でなく百姓について考え、進路悩みます(まこ)
・どこかに所属し、横に人に歩調合わせて生きている社会と、そこに落ち着いている自分自身に対して考えさせられる良い機会でした(ちか)
・3日間全てが新鮮。全てが楽しかった。大森さんの話もよかった(ゆう)
・ここの生活は、自分が求めているものだった(よし)
・皆さんの知恵や思いやりを忘れず百姓頑張ります(まり)
・僕もこれから自給自足に向けて頑張ります(けいすけ)
・自給自足的生活の実践者に会えて、自信とやる気ができました(とも)
若き縄文百姓が生まれ育つことに幸あれ!

高校生の感想に「限界集落再生と循環を目指しての縄文百姓の志としての考え方は、とてもかっこいい」というのがあった

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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