自給自足の山里から【151】「自然と遊ぶ子ら」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【151】「自然と遊ぶ子ら」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年9月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

自然と遊ぶ子ら

フクシマの子ら27人来訪!

フクシマ原発事故から5ヵ月が過ぎたが未だ収まる気配はない。原発付近は廃墟と化している。廃村の危機の村にあって心は痛む。
この山村で、今夏、カナカナとひぐらし、ミーンミーンとミンミンゼミが一緒に鳴き、ホッケッキョーとうぐいすも山間に聞こえてくる。カエルの大合唱なく、早くも赤トンボ。季節に合わない生き物たちの戸惑いに、私の気持ちも乱れ、落ち着かない。8月1日に、左足第3中指骨折し、ギプスはめての傷もズキズキと痛い。

そんな折の、お盆の14日から2泊3日で、フクシマの母子10人、神戸の子ら10人、岡山の若い百姓7人の総勢27人やってきた。朝来市のたじ市長が、スイカ持って歓迎のあいさつ。夕暮れの中、農場に降り立った母さんびっくり。思わず「もう帰りたい」ともらす。
子どもたちは農場に飛び出し、山羊・トリ・アイガモ・犬・猫らに触れあいさつ。蚊帳を張った部屋はめずらしく、入って大はしゃぎである。
その日の夕食は、お米・やさい・パン・卵らと物々交換の日本海香住港の竹内さんからのカニ・魚がふるまわれる。障子をはずしてテーブル3つ並べて、我が家族・「居候」たち含めて、30余人の食卓は壮観である。

放射能被爆から子ども守る、フクシマの親たちに応えたい。

その夜、交流会を行う。岡山の百姓のアフリカタイコによる紙芝居は受けた。また、あさって農園工房のりさ子による脱原発の大きな紙芝居も好評。神戸の小学生の、フクシマへのはげましの歌声に嘆声があがる。
「放射能被爆から子どもを守る」ハーメルンプロジェクト代表の志田さんは、幼い子2人の父親である。放射能汚染を避けるための賢い3ヵ条①直ちに逃げる②疎開地でのんびりする③パワーアップして帰宅する――を掲げ、国行政らの無責任・無策の中、「自分たちのいのちは自分たちで守る」と、これまで600人以上を避難させている。

フクシマ・東北の者は、おとなしいといわれているが、目に見えない臭いのない放射能に、空気・大地・生きとし生きるもの汚染され、ふるさとを追われ奪われた人々の思いや悔しさ、怒りを、子どもたちが外で遊べず自然を怖がる人間に成長するこわさを直に聞く。我が身と心はふるえ、なんとかフクシマの人たちの思い、決起に心を寄せ、それに応じる者でありたいと切に思う。

いのちに感謝して

2日目の朝は、コケッコッコォーの雄鶏の鳴き声で目覚め、動物たちのエサやりをする。朝食は、あい(21歳)が石窯で焼いた天然酵母パンと、岡山日本原自衛隊演習地内で米・野菜つくり、また牛飼う内藤さんの“山の牛乳”である。
食後は早速川遊びである。ペットボトルで仕掛けを作り、魚をとったり、サワガニに指はさまれ泣く子も。不耕起冬期灌水の田んぼで、カエル・オタマジャクシ・バッタらを追いかけている。
遊び疲れた頃から昼食の準備。小麦粉をこねての丸い生地を足で踏む。少し寝かす。その間に、蒔きでお湯を沸かす。生地を棒でのばし、包丁で細く切っていく。湯上がりをすぐ食べる。「この太いのは誰の作品かなぁ」「こしがあっておいしい」と母親ら嬉しそう。
ひと休みのあと、川遊び。子どもたちは川遊びが大好きである。やがて、川で冷やしていたスイカを取り出し、スイカ割りに興じる。

そろそろ夕食の準備である。畑に行って、ナス・ピーマン・トマト・オクラなど採る。産まなくなったトリをひと騒動しながら捕まえ、おっかなびっくりの子、じィーと母親に掴まっている子らのなか、首をはねる。鶏頭は犬の好物。お湯に9秒つけて、羽根をむしる。“裸”になった姿に、しばし見とれる。「8歳の時から捌いている」あいの指導のもと、順次捌いていく。
お米をといで、カマドで炊く。火吹き竹を使って、懸命に火を熾している子どもの姿は、1枚の絵である。炊きあがったご飯に、トリ肉・野菜の入ったカレーを、30数枚の皿に盛っていき、テーブルに配っていく。
「採ってきた野菜を切って、トリさんの首をはね捌き、火を熾して炊いたご飯のチキンカレーです。みんな出来ることを手伝いました。都会では他人・機械まかせになっていますが、これが人間本来の姿です。全てのいのちに感謝して、頂きましょう」と、今企画者の田中英雄さん(神戸ちびくろ保育園長・神戸子ども学院長)の一声のあと、「いただきます!」が山間に響く。
食後は、花火にキモ試し。今日ばかりは鹿・猪・熊さんも遠慮して出てこない?

希望いただいてフクシマへ

3日目。あいが、母親たちと練炭を使って、土鍋で2~3時間かけて内部被爆の軽減に効ある籾つき黒焼き玄米をつくる。また、玄米・みそ汁・梅干し・しょうが・わかめらを灰汁であく抜きし、木炭・木酢を活用しての食を薦める。
到着後に絶望的な表情の見えたかの母親は、岐路に際し、「フクシマでは、子どもたち外で遊べない。ここで思いきり外遊びできて、おいしい空気、採りたての野菜など、催行に素晴らしい時を送ることができました。希望をいただいて、フクシマに戻ります」とおっしゃる。嬉し涙である。
8月3日に友人がガンで死す。その日、ケンタ・好美の第3子・ゆたか(男)が生まれる。フクシマの再生を願う。
(8月31日)

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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