自給自足の山里から【134】「小国こそ平和の礎」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【134】「小国こそ平和の礎」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年4月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

小国こそ平和の礎

春、3月中旬、おもわぬ大雪。山村はまっ白の世界。梅の花のとまどい。淡く重い雪は樹木を折り痛々しい。雪を避けて我が農場へやってきた小鳥たちを狙うカラス。冬2月に生まれたおたまじゃくしはなんとか生きている。「ブゥー・ブゥー、メェ~・メェ~」と豚さん・山羊さんら、ふるえている。稲わらを切って、ふわふわベッドつくる。眼を細める姿はうれしい。
昨暮、1ヵ月余り「百姓体験居候」のO君が友人2人と来訪。「あ~す農場のお金盗みました。お返しします」と頭を下げる。聞くと、彼の友人のN君が、「私も経験あるので彼に問うと、認めました」と言う。そして、彼は「2度とこんなことはしません」と。
私の友人は「盗みは癖になる。警察に届けろ」と強く言われ、悩んだが、届けなくてよかった。
大地震にみまわれたハイチから「崩壊した都市から農山村へ移り住み、自立・自給自足の暮らしへの動き」が伝えられる。うれしい。

小国(地域共同体)こそ平和の礎――大崎正治さん

四半世紀前、トラックを運転して「安全な食べ物」を、山手の芦屋らに、毒ガス(排気ガス)をふりまいての配送労働を止め、過疎化の進む山村のブラク(被差別部落)に家族で移住。お年寄りから“縄文百姓”を知り学ぶ。
そして、その縄文百姓に依るムラ(地域共同体)を志し、ムラの鎖のように連がってのくにづくりに、今日の地球・社会崩壊の危機を止め糺すものとして、明日へ期す。

移住した時、かけつけてくださり、ともに農作業した思い出のある大崎正治さん(國學院大学教員)。以来、私たちを励ましてくださる。昨暮の京都での、日本平和学会の報告が送られてきた。
大崎さんは「小国(地域共同体)こそ平和の礎」(※注①)であり、「自給と自立が確立した小国があれば戦争を防げる」「実際に、江戸鎖国のもと300年間、東アジアの平和を築いてきた」「大正デモクラシーのなかで、三浦鉄太郎(東洋経済新報社)や石橋湛山は、“小日本主義”を唱え、満州・朝鮮・台湾などの植民地放棄を主張。日本国憲法第9条の意義は、老子の『小国寡民』(※注②)に論理付けされている」、そして「いま、世界の人類は、人種・宗教を問わず、精神的に“百年ぶり”の混沌・混迷に陥っている。この危機から脱出を図るために、老子の『小国寡民』のライフスタイルが大いに参考になる」と。全く同感である。

古代・封建以前からの独自のシステム

また、「人類史の最近の二百年間に現れた“社会主義”は、未来の理想とみられてきたが、妥協・腐敗・抑圧を重ねて、ついに崩壊。そして、それより古いと過小評価されてきた『共同体』『小国』が、かえって再度浮かび上がってきた。それは、古代奴隷制、封建制以前から存在してきた独自の経済社会システムであるが、表の国家的経済体制の影に隠れながら地域的に限られつつ、連続として続いてきた」と指摘。
その共同体は、もちろん中央集権国家でなく、搾取・不平等・市場制度・社会的分業の廃止された基本的単位としてのむらであり、縄文百姓の手による人間的解放を実感するものである。神戸新聞(正月号)の門野隆弘さんは、いみじくも、“自給自足の独立国”と指摘する。

「小国」の根拠

大崎さんは、この“独立国「小国」”の根拠を示す。
①地理学的・生態学的根拠!―イ人類は類的存在として、地球外に出られない。ロ地球上の地形・地質は、全て局地的に異なり、それぞれ個性をもつ。ハ生物・人間の生活の基は、棲み分け。ニ食物連鎖のなかで水は物質と熱の汚れをさばく。それは、「経済法則に」勝る「鉄の法則」である。
山間に在る我があ~す農場は、上方の巨大養鶏場(旧アサダ農産50万羽養鶏工場)と対抗しつつ、ホ微生物・水・その他の物質の域内循環、他品種生産、輪作、混植、有畜複合経営など、ささやかながら「小国」のモデルならんとす。
②人類学的根拠!―イ暦は、各地の人々が空を見上げての太陽や月の運行をみて季節や生業のリズムを知ったこと。天動説で生きて何ら支障ない。対し、地動説は科学の権威者、観測機械、教育を通じて信じるしかない。ロ地差によって、どの地域も平等。ハ言語の違いは人間性の発揮にプラス。
③歴史的経済的根拠!―イカントも日本の江戸期の鎖国を賢明と評価。ロ貿易は、実際には植民地制度を前提とし、それはかえって戦争の原因になるとしてフィヒテは、基本的物質の自給自足と貿易止揚の国民経済システムを提案。

(注①)
「小国」とは国(state)でなく、日本語のクニ、つまり地域共同体、村、邑、郷(くに)、英語のnationを指す。自立・自給を実現した小規模な社会をイメージしている。

(注②)
老子は中国の思想家。『老子』第80章「小国寡民」――
「小国寡民には、什伯(機械・兵器ら)有りても用いざらしめ、民をして死を重んじて遠く徒らざらしむ。舟輿(交通運輸機関)有りといえども、これに乗る所無く、甲兵(軍隊)有りといえども、これを陣ぬる所無し。・・・その食を甘しとし、その服を美とし、その居に安んじ、その俗を楽しましむ。隣国相望み、鶏犬の声相聞こえて、民は老死に至るまで、相往来せず」(小川環樹訳より・一部変更)。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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