自給自足の山里から【133】「いつもと違う冬」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【133】「いつもと違う冬」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年3月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

いつもと違う冬

貂の棲む家

晩冬の朝の冷気を打ち破るかのように“コケッ、コッコー”。やがて、薄らと夜明け。太陽が残雪を輝かす。樹木はぶるっと身を振って雪を落とす。蕗のとうが黄色く笑う。
灌水している田んぼは、少しゆるむ。お腹のふくらんだキツネがうろうろし、犬たちがワンワン。時間はゆっくり過ぎてゆく。
薪ストーブに火を付け、居間を暖め、鉄瓶でお湯を沸かしていると、「もう! 嫌や!」と娘たちの部屋からあい(20歳)の悲鳴似の声。「どうした!?」と声をかけると「貂のうんちが机の上に!」と。「えっ!」。台所の残飯の魚の粗なんかくったのか、臭いうんち!
夜中、屋根裏で柱などかりかりかじる音でよく目が覚めた。てっきり大きなネズミと思っていたが、なんと貂! どうも昨年、雪の降った12月頃から棲みこんだよう。
「昨日の夕方、私らの部屋で、貂とてき(オス猫)が睨み、呻き合いし、じーと見つめられ、プイと屋根裏の方に行く。そして、今朝のうんちや! 私をなめているのか!」と怒るあい。
貂は、イタチ科のほ乳類で、40㎝くらいの大きさ、四肢の先は黒いが他は黄色の毛で美しい。そもそも山林で単独生活しているはずなのに、山が住みにくくなってきているのか? 春にはかわいい子貂が屋根裏から顔を出すのか?

え! 冬にカエルの合唱!?

この時期、例年なら雪が降り積もり、白銀の世界で、都会の友と“雪見酒”を楽しむのだが、雪ならぬ雨が降り、気温も4月の陽気で雪も溶けて、黒い土に草々の世界。ついつい田畑に出て仕事をする。思わぬ急な働きに身体ついていけず、腰を痛める。
家の前の田んぼから、夕刻になると、低い音だが「ゲロゲロ、キャロキャロ」と戸惑い気味の蛙の声々。「えっ! まだ冬よ! なんで蛙が合唱しているの? 鳴いているの?」と、自給自足の百姓志す息子と来訪泊の奈良の小山さんはびっくり。
合唱といっても、春から夏の、山をも動かさんとする大合唱ではない。なんとも元気ない、不安げである。いつもなら冬眠中なのに、いきなり“春”である。動きはピョンピョン跳ねるのではなく、ヒョコヒョコである。
躍動するのは、我が貂とイタチである。「あいつら、田んぼまわりを跳びまわっている!」とちえ(23歳)。空からは、黒いカラスに、白いサギがやってくる。

自分が死んでも四季のめぐみの幸せは

長男ケンタ(31歳)の連れ合いの好美(28歳)は、「今年、雪が降りません。降って積もっても、その後、暖かい日が続き、溶けて無くなってしまいます。但馬(兵庫県北部)では、海雪、山雪、里雪と雪の降り方によって、3つの呼び名があります。単純に、海側にたくさん降るのが海雪。山側にたくさん降るのが山雪といった感じです。今冬は、海雪が多かった。いつもなら、ちょうど、今が冬本番。1mあってもおかしくないのに・・・。変な天気は、未来を不安に思ってしまいます」(「くまたろ農園便り」No.12号、2010年2月9日)。

『国民のための百姓学』の著者・宇根豊さんは、「『形見として 何を残さん 春は花 山ほととぎす 秋はもみぢ葉』―越後の僧・良寛の辞世の歌です。自分が死んでも、四季が繰り返されるだろうという確信は、人間に安心をもたらす。なぜなら、自分自身もそういう四季に包まれて生きてきたし、自分の死後も変わらない四季のめぐみに包まれて、家族や友人たちが生きていくことができるという実感が、人間を幸せにするからだ」と言う。

ハイチからの「研修生」は元気

ハイチで大地震が起き、20万人もの死者。5年前の夏、かの国からヨハネとアンドレの2人の青年が、百姓の「研修」にやってきた。「あ~すのような農場をつくりたい」と帰る。大丈夫かなと心配。なんとか“ハイチのマザー・テレサ”といわれる須藤昭子さんと連絡とれて、「畑はぐちゃぐちゃになったが、彼らは元気」と分かって、一安心する。
ハイチは、新自由主義・グローバリズムで“自給自足”の自立し共生してのむらの暮らしがこわされ、都市へ流れ、賃労働を強いられ失業者あふれ、治安悪化しているという。そんな中の大地震である。なんとか災いを転じて福ならんことを願う。
アメリカは軍の医療船など、日本は自衛隊を派遣する。キューバは10年以上前から医療・教育など協力してきていて、発生時に400人くらいおり、1月13日には60人の医療協力者が現地に入り活動、その時点での唯一の医療支援だったという。

中米のエルサルバドルにいる娘・れいから

一昨年の11月から、もう1年3ヵ月中米を旅し、今、エルサルバドルにいる娘のれい(20歳)から、ようやく便り届く。
「お父さんへ。元気にしていますか? この1年余り遊びすぎて、畑仕事やパン焼きしたくなりました。でも、別に遊んでばかりじゃなくて、ちゃんとたたかっていましたよ。苦しい時もあれば楽しい時もあった。他の国の言葉をしゃべれるようになることは大変のこと。この前、お父さんと電話で話したとおばちゃんに言ったら、『何て言っていた!!』と、とびついてきました。寒くなったら体冷やさず、酒はたしなむ程度に、仕事もちっと手を抜いて、孫たち息子たちと仲良く、冬を過ごしてください。
今、エルサルバドルにいる、あなたの娘Reiより」
元気なようで、これまたひと安心である。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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