自給自足の山里から【125】「自然に寄り添い良き時代を」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【125】「自然に寄り添い良き時代を」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年5月16日号の掲載記事です。

大森好美さんの執筆です。

自然に寄り添い良き時代を

自然に寄り添って

急に初夏のような暑い日があったり、また冷え込んだり。今年の春は暖かいのか、寒いのかどっちなんだと言うと、どうも寒いような感じである。一つは桜がまだ咲いていること。もう一つは、毎年タケノコ掘りに来る老夫婦が「まんだだわっ!」と言って帰っていったこと。
そんな中、今年も変わらず、私たちは目印の桜の木が咲いたら塩水選(塩水にお米の種籾を浸け、浮き沈みで良い種籾を選別する)をする。そして山桜が散り始めるころ、苗代(田んぼの中に苗を育てる畝を作る)に種籾を蒔き、田んぼの準備を始めるのだ。

夫(大森ケンタ・30歳)は「毎年同じ年なんてない。毎年毎年違うんだ。百姓はそれに合わせてやっていくだけだ」と言う。こういう言葉が当たり前にサラリと出てくる夫の感覚が面白い、そして尊敬するところだ。
自然次第、自然に寄り添って生きている。それが当たり前だから出てくる言葉だなあと思う。おじいさん、おばあさんの言いそうな言葉だ。
最近、この夫の感覚がにじみ出た面白い出来事があった。昨年の秋、収穫して天日干しして、貯蔵していたお米の干しが今ひとつだた(水分率が高いと長く持たない)ので、シートの上に広げ太陽に当て干していた時のこと。土蔵からベビーカーを引っ張り出してきて、四ヵ月になる娘を乗せ、日に当てているのだ。何でと聞くと、「たまには明るいところで日に当ててあげないと、暗い子になっちゃうからな」と言う。確かに冬の間、ずっと室内に居させていた。わかるのだけど、娘とお米を並べて日に当て、一緒なんだって言うのが面白いなあと思ったのだ。

あ~す農場に研修居候し山村に暮らして4年

私がこの山村に夫と暮らし始めて四年目の春を迎える。わたしは大学を卒業後、夫の実家あ~す農場(注1)に半年余り研修居候(注2)させてもらい、様々なことを教えてもらった。
田畑、パン焼き、炭やき、猟、蒔き作り、石組み、山に道を作ったり、竹で杭を作ったり、道具や農機具が壊れたら直し、挙げたらキリがないほどたくさんの生きる術、百姓の術を教えてもらった。教えてもらったと言っても未だにどれも“あ~す”の皆がするようには全然できない。まだまだ勉強中だ。
研修中はただ横で実際一緒にやってみて、それを後でノートに書き留めておいて何となくの暮らしのリズムを肌で感じ取るのが精一杯だった。ノートに書ききれないことがたくさんあった。
それぞれが必要だと思うことを、それぞれの判断でちょこちょこやっているのだ。とても把握しきれない。研修居候を終えた後、あ~すの長男である夫と結婚し、同じ村内の古民家に修理しながら暮らし始め、今に至っている。もちろん百姓をしながら。

メェ~メェ~、ブーブー、コッコ

この間、私たちは二人の子供に恵まれた。息子のみのり(2歳)と娘のなお(5ヵ月)だ。二人とも山の中ですくすく、のびのび育っている。子供は自然の中にいるのがとても似合う。山の小道を棒を持って歩いている姿、田んぼで泥だらけの姿、水路でびしょびしょで遊んでいる姿、煤がついた顔・・・。
みのりは、遠くで犬が吠えていたら、「わおうっ、わおうっ」と叫んで返している。まだ言葉を覚え、話し始めたばかり。親の言葉の真似をして話すのと同じように、犬の吠え声を真似して話しているのだろうか。家に居る時は「ごはん」「お茶」「抱っこ」「電気」とか人の言葉を発している。
けれど、“あ~す”に行くと「メェ~メェ~(山羊)、ブーブー(豚)、コッコ(鶏)しか言わない」と、あいちゃん(19歳)は言う。どうもこの動物の声は、あ~すのお父さんが教えたらしい。本当にのびのび育っているなあと思う。

養老孟司さんの著書に、少子化問題についてこうあった。概略して書く。「少子化ということは、多くの人が子供はいらないと思っていること。子育てに適切な環境がないという意見もあるが、戦後、今より現実ははるかに悪いにもかかわらず、むやみに子供は増えた。それが団塊の世代である。そもそも子育てをしなければ、人類は存続しない。日本人は自分たちの存続をあきらめたとしかいいようがないではないか。つまり、現代のわれわれは、日本の将来について悲観的なのである。子供たちは、我々より悪い時代を生きる。大人が未来をそれだけ悲観的に見ていれば、子育てに人気が無くて当然である。」
月並みな言葉だが、子供たちに、子供たちが生きていける地球、自然を残したい。近い将来、水を奪い合う時代が来ると言う人もいる。既に穀物においては、そうなっている。どっかの国が、食べ物で車を走らそうなんてするからだ。

おじいさん・おばあさんから学びよき時代へ。

日本では、山村がどんどんなくなっている。田畑山がどんどん荒れていく。元に戻す(耕作ができるように)のに、どれだけ大変か!
たった三年放棄されただけの畑を元に戻すのに、土が固くなって耕運機の刃が入らないので、とうとう鍬で人力で全部起こした。下の町の広い田んぼは、どこにでもある大型店舗で潰されていく。
日本の自然は、長い間人が田畑を耕し、山に手を入れてきたもの。長い間人は、自然を巧みに活かし、自然に長生きしてもらえるように、共生してきた。そんな生き方を、子供たちに伝えたい。生きる術、百姓の術を伝えたい、学んでほしい。
そして私たちは、おじいさん、おばあさんから、もっと学ばなければいけない。おじいさん、おばあさんの生き方、それが良い時代を作れると信じている。

くまたろ農園
大森好美(28歳)

注1 自然豊かな山国日本の源山村が消えていく。 崩壊前夜のこの社会の立て直しを願って1987年設立。23年目をむかえる。この間同じ村にあさって農園、くまたろ農園生まれる。
注2 お米、野菜、木炭などつくり、鶏、豚、山羊ら世話して山村の暮らしを「研修」。その間の食料など不要のいわゆる「居候」「研修居候」の中から実際に山村に移住する若者が生まれている。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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