自給自足の山里から【111】「あ~す農場への声、声、声」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年3月16日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
あ~す農場への声、声、声
企業に就職せず「さて、小生、三月でようやく六年という長い大学生活を終え、放免の身となるので、やりたかった畑探しに旅立とうと思います」と悠君から便り届く。
彼は、昨年の春と夏に「百姓体験居候」する。企業と合同研究し、そのまま就職するか、医者を目指すか、百姓目指すか迷っていた。
京都精華大学の槌田ゼミの学生たち
百姓体験居候には、フリーター、派遣などの不正規労働者が多いが、大学生も多い。昨三月には京都精華大学の槌田ゼミに人が来訪する。
「人もニワトリもブタも犬も猫も家もみんなイキイキ元気だなぁと感じた! トリ肉はじめて刺身で食べたり、今日生きていたニワトリを食べるということも初めてだったので、感動しっぱなしでした」(千賀)。
「すてきな家で、まるで自分の部屋にいてほっとするような感覚を味わいました」(堀家)。
「とても落ち着いた夜を過ごすことができました。いつもは、食べ物も、食べる時間もいけないなぁと罪悪感を感じながら食べること多かった」(松本)。
「とてもからだ軽く、気持ちいい、すてきな時間でした」(木村)。
「私の五感、いやそれ以上の感性を刺激してくれた場所・時間・人。大森家の人々の温かさ、強さに触れてよかったです」(植野)。
「にわとりさんありがとう。ちえちゃん、れいちゃん、いろいろ教えてくれてありがとう」(古内)。
「あまりに短い時間で別れてしまうのですが、これからもつながっていたいと感じています」(小宮山)。
「大森さんの父としての存在の大きさを見たような気がします。私もそんな父親になれれば良いと思いました」(宮田)
など感想を残す。
看護大学の学生は、「バイオガスの素づくり、苗代の草取り、鶏舎の排水路づくり、たきぎ拾いなど、太陽の下でポカポカしながたの作業はとても楽しかった。その後のごはんとお風呂も格別でした。いつか私も周りの人の協力を得ながらホントの意味での自立を果たしたいなぁ」(すがわら)と、
筑波大の学生は「この三日間ほど感嘆文(「えっ!」「いっ!」「すごぉーい」等々)を使った日はなかった。卒業までに、もう少したくましい日本の青年になれるよう、努力したい」(顕大)と言う。
ほかに、神戸大金沢ゼミの皆さん、東京大学農学部、鳥取大学農学部の学生など来訪。そんななかから、先の悠君のように企業に就職せず百姓志す若者が生まれる。
あ~す農場の面白さと百の仕事
ゼミの学生を連れてやってきた名城大の杉本さんは「1993年大学生だった頃、大森さんのところで稲刈り体験した。誰彼となくやってきて、何日か百姓仕事して、また帰ってゆくのは、当時と今も変わらない。大森さんはそうした人々を『体験居候』と呼んでいる。私たちも二泊三日仲間入りさせていただいた。ちなみに、大森さんは、宿泊費も食費もとらない。あ~す農場の面白さは、まずその外観に現れている。敷地の真ん中に水路が流れ、簡単な橋がひとつ架けてある。水路の左右には、斜面に沿って母屋、パン工房、農機具小屋、豚小屋、山羊小屋、ニワトリ小屋、木酢液蒸留所などが並んでいる。ピノキオQと名付けられた図書館は息子のケンタさんの作品。山の中腹に炭やき小屋がある。複雑な地形に、さまざまな建物が配置されているのは、自然の恵みを受けながら多彩な活動が行われている証拠だと思う。またそれは、山間地の農家に共通する特徴でもある」
「私にとって驚きなのは、そうした建物のほとんどが手作りだということ。大森さんは、自分のことを農業者といわず、百の仕事をこなすという意味をこめて百姓といわれる。実際多彩である。米、野菜ほか鶏、卵、豚肉、天然酵母パン、木炭、木酢液など、バイオガスプラントからメタンガスと液肥、水力発電もある。企業的農業経営だと利潤のため効率を求め生産品目は少なくなる。あ~す農場では、人が生きていくためにあらゆることが行われている」
研究・教育活動上での基礎トレーニング
杉本さんの文は続く。「かつての農業研究者は、外部の人間が農村に入ることは不可能と考えることが多かった。行政もそのように認識していたのではないだろうか。大森さんはそうした研究者や役人の通念をしゃにむに乗り越えてしまった人である。あ~す農場を訪れてから、このことは私の研究・教育活動の上での大事な基礎トレーニングになっている。忙しさにかまけて忘れそうになると、あ~す農場から宅配便がやってきて、農業や村のこと、健康のことなどを思い起こさせてくれる。うまい食材を運んできてくれるだけでなく、宅配便はいろいろな機能を果たしている」
甲田光雄さんから
月に一度のこの「自給自足の山里から」(もう111回も連載され感謝です)の記事を中心にして、年に三~四回「あ~す農場だより」(五二号まで発行)をつくり、近況報告として、お世話になった人や来訪した人たちに届ける。
「これを読むと本当に心が洗われるようにすかっとしてきますよ。実に素晴らしいです。この『あ~す農場だより』は、世界中の人に是非読んでいただきたいです。『ほんまもの』の生き方がここにありますよと言いたいところです。また、これは学校の生徒たち(小・中・高校)が授業を始める前にまず読んで、それから授業に入るという順序にするべきです。これを文部科学省に提案したいです。『ほんまもの』の教育はそうあるべきです。どうぞこの『ほんまもの』の生き方を貫いて、模範を示してください」と大阪の甲田医院の甲田光雄さんから便り届く。恐縮です。
甲田さんは、現在84歳。各種の民間健康法を自ら実践・研究し、これらを応用するユニークな健康指導医として開業。現代医学では難治とされている種々の疾患に挑戦して多くの治療例を挙げています。
あ~す農場
〒669-5238
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)