自給自足の山里から【104】「絵描き百姓の5年間」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【104】「絵描き百姓の5年間」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2007年8月16日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

絵描き百姓の5年間

埼玉からこの地へ来て、はや五年。今はすっかり山の生活に慣れ、夜も明るくにぎやかな都会へ行くと疲れて実家にも長居できなくなってしまった。
五年前の自分を思い返すと、若く、自分勝手で無鉄砲さにあふれていた。
絵では食べていけないが、したくもない仕事へ時間を売るのもおかしい。そんな生活ではいい作品は作れないだろう。誠実に、直感を大切にして過ごしていれば、きっと、ぴったりな何かに出会えるはず。
そう信じていて、美術大学四年の夏に出会ったのが「あ~す農場」だった。

山の空気、でこぼこの道、虫つきの甘いキャベツ、何て身体が喜びに満ちているのだろう。食べ物は買う物ではない、作る物なのだ!これだ、と思った。
卒業後、すぐに一年間の体験居候をさせてもらいに来た。半年経った頃には、この地に家を作り、絵描き百姓をしていきたい、と思い始めていた。
そんな時、今の夫である、あ~す農場の次男げんに「一緒に家を作り、百姓していかないか」と言われたのだ。
それからは、無我夢中であっという間だった。取り壊される家の廃材などもらってきて、小さいけれど私たちには立派すぎる家が建ち、素晴らしい結婚式をあ~す農場でさせてもらい、つくし(3)とすぎな(5ヵ月)というかわいい子どももできた。
多くの人たちに助けられ、学ばせてもらい、ここまで来れた。これはこの地でできた家族や友人、いつでも一肌脱いでくれるおっちゃん、おばちゃんたち、そしてこの朝日の山や山に棲む物たちからだ。

都会では、一人で働きへ行き、収入を得、何でも買って生活ができ、直接的に人や自然の協力を必要とすることが少ない。
ところが、この山での生活は、人はもちろん、山や空、土や水、虫などの生き物の協力がなくては生きていけない。皆に支えられていることを肌で感じ、物も思いも、巡りめぐっていることがよくわかる。だから、人間のしてきたことで自然が苦しんでいる思いもよく伝わってくるし、その苦しみは人間の苦しみになることもよくわかる。
山は削られ、杉・檜ばかり植えられ、自分の身を支えきることも、動物たちへ充分な食糧を与えることもできず、本来の美しさを失いかけている。
毎年秋になると特に、昔のような広葉樹だけの山だったら紅葉がどんなに美しいだろう、と思う。
空は現代において最大の問題である「地球温暖化」。昨年の冬は雪が少なかったので鹿が増え、稲も大豆の苗もかじられている。夜、山を車で走るとあちらこちらに鹿の群れ。
使える水は地球上の〇・一%にすぎないのに合成洗剤などでどんどん汚れていくし、土はアスファルトで埋まっているか、農薬や化学肥料で汚染されているかだ。

人間だって農薬や添加物、薬剤などで身体が処理しきれないほど毒物がたまり、アレルギーなど増えている。これからは、化学物質のシャンプーや壁紙、マジックペンの匂いだけでひどい症状の出る「化学物質過敏症」の人が花粉症の時のようにある日突然激増する、とも言われている。
それなのにまだ、不必要な道路、建造物が造られていくし、原発以上に放射能を放出する六ヶ所村の使用済み核燃料再処理工場を稼働させようとしている。
しかし、そういった地球の痛みに気付き、小さなことから変えていこうと表現している人も増えている。アーフデイ、フェアトレード、ウォーク9などである。

五年前の私は、自分にしか興味がなく、両親へもろくに相談も挨拶もせずに出てきてしまったが、百姓をしていく中で自然と多くのものを意識できるようになり、視野を広げることができた。
今は、とても五年前のような思いやりのない振る舞いはできない。少しは物事、一つ一つの重みを感じられるようになったように思う。最近、私の作品が自立してきた、優しくなった、と言われることがある。
それが、この山で過ごしてきた全てを現していると思う。私には百姓のみをすることも、絵画制作のみをすることもできない。土や草をいじり、身体を動かすことと、制作へ精神集中することでバランスがとれている。
つくしとすぎなもバランスよく、のびのびと育っていると思う。うちの子を見て、大抵の人が「穏やかねぇ」「どうしてこんなに落ち着いているの?」と言う。
私は、親が作った米や野菜を食べ、山の中で土と戯れ、そばには父も母もいる、という当たり前な生活が大事なのだ、と思う。現代の子はコンクリートの中で不自然なお産をし、すぐに粉ミルクや予防接種など不自然なもの与えられ、本来、その子の持つ力を充分に引き出し、育ててもらえない。
私は、まだ三歳にも満たない子が母親から買ってきたスナック菓子やジュースを与えられているところ見ると、子どもの身体が心配で見ていられない。

私はこれから、絵描き百姓をしながら、少しでも人間や自然、地球が本来の美しい姿へ戻っていくよう、感謝と恩返しの心で努力していきたい。
まずは、そろそろ田んぼからげんとつくしが帰ってくる頃、畑から野菜採り、かまどでお昼ご飯を作らなければ。今日はつくしも大好きな、玄米チャーハンでも作ろう。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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