自給自足の山里から【95】「ネット上の誹謗中傷」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【95】「ネット上の誹謗中傷」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年11月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

ネット上の誹謗中傷

秋は、収穫の季節。春にまいた種籾が、黄金色に輝く稲となり、刈り取られた稲束が、稲城に、澄んだ青空の太陽をいっぱい浴びて微笑む。
赤くなった柿・イチジクをくわえた黒いカラスが、青空に行く。茶色の栗が、痛いイガをはじく。自然薯の葉が黄色になり、体験居候の夏子さん(21)が、ツルハシとスコップで「うあ~、やっと掘り当てた!」と叫ぶ。
大根は、首は青くとも、引き抜くと、白い肌を見せ合う。大阪から来訪の「居候」の露乃さん(22)。
引き抜いた赤いニンジンを両腕に抱え、白く微笑むは17歳の青春のあい。双子のれいは、沖縄・北海道に旅に出ている。小豆・大豆(青豆)・ソバも赤・青・黒と実り、あんこ・みそ・そばが楽しみである。
そんな秋の実りを、ヒトならぬクマ・シカ・イノシシらも収穫を楽しむ。隣町の養父の山陰本線で電車にひかれて子グマが死んだ。
我が山村でも、柿の木がほとんど子連れのクマに食べられた。今年、山に木の実少なく、必死に生き抜く黒い姿に胸が痛い。シカが、げん(25)の畑の防御網にかかった。ここは猟師ケンタ(27)の出番である。鹿肉薫製になる。

夕食の主は、未だ新米ならぬ残り少ない昨年の籾すりした古米。なんでも天皇家では、古米を食べているとか。
我が家でも、この熟してなんとも言えない味わいの古米を玄米で食べる。友も「さすが天皇家。在庫を減らしたい企業の思惑に惑わされずというところや」と言う。
さて、食卓に座すは鍋である。露乃さんが初めて解体し捌いた鶏肉が入り、畑から採ってきた青いネギ・水菜・春菊・大根葉・白い大根・赤いニンジンらに、ケンタの同級生の康平君(自給自足の百姓)のサツマイモ、庭先の茶白色のシイタケなどである。最近知り合った隣の豊岡市の農家民宿の八平さんのドブロクのアテは、鹿の薫製と自然薯の短冊である。

山村の秋の夜、澄み切った空に三日月が輝く星を抱え、虫たちが名残惜しく鳴く。ケモノたちが静かな動きに目も耳も心も任せる。時にその一体感を味わい、響き合う。
そんな中、「大森さま、大変悩んでおります。“狭山事件の再審を求める署名”(注)ですが、こちらの地元のいわゆる部落の人たちと言われていた方々は、今、大きなスーパーや会社経営、不動産などで大成功して、そして、平和に暮らしているようです。
きっと今に見てろという気持ちでがんばったと思います。そのこちらの方々は、もう、そっとして欲しいとの気持ちだそうです。
きっと昔を思うとつらさ悔しさが甦ってきて、きっとつらいのではないかと思います。
私も狭山事件と聞いただけで、気が重く不快な気持ちになります。私はその当時東京に住んでいましたが、狭山に越してくるのはいやでしたが仕方なく未だに住んでいます。
善枝ちゃんがころされたのは、狭山市駅の東口間近です。その当時は森と田んぼでしたが、今は公園の巨大なマンションが建ち並び、昔の面影はありません。そんなわけでこちらの人々の気持ちもわかるし、大森さまの気持ちも考えて悩んでいます。ごめんなさい」との便りが届く。
私は署名を依頼して、知人・友人らに送る。たくさん集まると思っていたが、予想は外れる。とは言っても、直接高裁に送って下さった方もいるが。
どうも、今頃ブラクには関わりたくないという雰囲気が伝わってきた。この便りでも、ブラクは過去のこととし、今は「大成功」して、そっとして欲しいとブラクの者は思っているようと伝聞で納得している?

大阪のブラクの友人は、「今、ヤクザらの利権あさりを告発しているのはブラクの大衆であり、そうして初めてマスコミ、警察らが動いている」と言う。
2003年5月から10月にかけて、「えたのくせして、差別が嫌いだなんてふざけたこと言うじゃねェ。えたは差別されていればいいんだよ。差別されないえたなんて、家を作らない大工みたいなもの。差別されるのが仕事である。
厳しい毎日の日常生活の中で少しでもストレスを解消したり癒されたいと思う。その時にえたを差別することによって心を回復させることができる」と書かれた封書が部落解放同盟関係者に合計約四百件送られてきた。
犯人は逮捕されたが、なんと、直後から、被害者の浦本さんにネット上で、連日ざっと五百件の中傷誹謗が繰り返される。これなんか、そっとして欲しい。告発し、抗議・糾弾すると逆にとんでもない攻撃があると、そっと黙っておこうという気になる。

それにしても、犯人にしろ浦本さんを中傷誹謗する連中にしろ、ただただこの社会にブラクがあるとか、部落解放同盟という悪い奴らがいるという“情報”の中で理解しているだけで、何ら具体性がなく、ただただ社会が騒ぐのを楽しむ。生身のブラクの人間の心の痛みなんか全く気付かない。全く恐ろしい。
実際に自分の身体の感覚で感じない時、相手に対する“攻撃”は無限で、受けた者は、全く無防備、お手上げ状態になる。誰にも真実を話すことなく、そっとして欲しいとばかりに“自死”しての抗議。コンピュータ社会の恐ろしさ。
「大森さんは、百姓はブラクサベツを乗り越える力を持っていると言われていますね。ブラクサベツに限らず、自意識が抱える痛みを自然と一つになることによってしか解かれないと思います。繊細で美しい青年、ケンタ君が、未だサベツに晒されねばならないのか。まことに胸にしみ入りました」と千枝子さんから便り。
そのケンタは、この秋に結婚し、隣で暮らす。来春には子が生まれ、式も挙げる予定。

(注)鎌田慧・永六輔・鳥越俊太郎・佐高信・佐藤慶さんら三六名の呼びかけで「四三年間、無実を叫んでいる人がいます。疑問だらけの狭山事件。こんなに疑問だらけなのに30年以上も事実調べが行われていない! 東京高裁は狭山事件の事実調べを!」との署名協力。

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☆㈱北斗出版
℡03・3291・3258

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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