自給自足の山里から【94】「れいのコンビニ体験」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年10月16日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
れいのコンビニ体験
朝、「家の中、あっちこっち、手と足と羽根だらけ」と一斉のあい・れい(17歳双子)。「あっ、蝮! 頭が無い!」とれい。「昨日、台所でちらっと見かけた」とあい。
「体験居候」の女性(22・28・29歳)、男性(19歳)は、寝ぼけ顔で呆然。我が猫たちの仕業である。「蝮に噛まれたら死ぬこともあるんだって。すぐ近くにいたんや。猫さんに命救われた」と「居候」たち。
今年は、カエルは少ないが、秋の虫たち―コオロギ・スズ虫ら―にぎやか。
「夜、虫の鳴き声で寝られないくらい」との露乃さん(22歳)は、穂の露とれた頃から、生まれて初めての稲刈り。田んぼにベタッと座り込んで、ガリガリと稲が痛そう。苦笑いしながら、ザクッ、ザクッと刈るのは、あい・れい。「田んぼの中でトイレでもあるまいし、腰を上げ、稲が刈ってくれてありがとうと思われるように、リズミカルに」と注意する。
晴れ続き、稲刈りも順調に進む。一息。そんな折、大阪の友人から「部落解放同盟の小西飛鳥支部長の行為は、解放運動を百年後退させるもの。大阪府連も同罪、徹底的に糾弾されなければならない。32年前、大森らは一ヵ月余り、ヤクザに抗したが負け、同盟支部をのっとられた当然の結果」と便り届く。
また「知人の息子さんが自宅で首を吊って自殺。享年27歳。4年前にも息子さんの友人が全く同じように首を吊って。動機が全く解らずじまい。しかし、二人の青年に共通するのは、祖父母の代に、ブラクを嫌って一般地区で生活しているということ。そして、もうひとつ共通するのは、自らの気持ちを全て封印したまま命を断っていること。祖父母、父母の時代では動機というものが見えておりましたが、今は全く見えない・見せない、親友ですら理解不能。今までとは、全く異なるパターンになってきているように思われて仕方ありません」との便りも。
朝日新聞の社説は「現職支部長の不正を長年見過ごしてきたのはなぜか」「差別の撤廃をめざす解放運動は、多くの人たちの共感を呼ぶものでなければならない」「原点に戻る気概を求めたい」(6/2)と書いている。
私は、ヤクザに同盟を追われ、結果として私利を求めうごめく都会から山村に移住し、原点ともいう“崩壊前夜のこの社会を立て直すのは、縄文・百姓”に戻ったと言える。
この山村で生まれ育ち、9月20日で17歳になったれいが、思いをつづった。
ついこの前、田植えしたと思ったら、もう稲刈り。山も少し色付いてきている。自然とともに流れていく私。都会には無いように思う。
六月に、コンビニのバイト帰りに事故。私は原付、相手は車。原付はペッシャンコになった。「身体の方は大丈夫なの?」と。今のところ、ちょっとキズがあったくらい。「骨折してもおかしくない。若いってすごい」と言われたが、ちがうように感じる。
三歳の子が、わずか10㎝の高さから落ちただけで骨折。げん兄貴の子つくし(2歳)は、2mの高さから落ちてもケロッとしている。
都会の子は、添加物・薬漬けの物ばかり食べているので、体もおかしく弱くなっている。
つくしは、あさって農園で採れた玄米・野菜で育っている。私もあ~す農場で採れた物を食べている(たまにアイスなど買う)。だから軽い傷で済んだのかもしれない。でも事故なので何があるかわからない。
コンビニでのバイトは面白かった。全く違った世界が見えた。でもそれはつらいことでもあった。
子どもが一人でコンビニ弁当買って食べていたり、同じ人が朝昼夜と弁当買いに来ていたり、はぁ、昼休みに何か食べようと思って、弁当など見ていたが、とても手が出なかった。
この八月、ぶらりと東京の方に一人で出かけた。本当に人が多いのにびっくり。都会の暮らしは便利というが、おかしい。
特に食事は、残したらポイッとゴミ箱。「もったいない」と感じない、感じても「仕方ない」。あ~す農場は残しても豚・犬・猫・鶏らが食べてくれる。ちょっと残してあげるという感じ。
私は17歳になった。高校(通信)は一年で辞め、今はパン焼き、家畜の世話、畑・田んぼ仕事している。
やってくる「体験居候」の人は、ほとんど大学生以上。すごく疲れる。タメ(注)で話していいのか?といつも考えてしまう。
けど、結局、うちらは教える側なのでなんか違ってくる。うちは学校行ってないけど、電気もガスも無くなっても生きていける。でも都会人は生きていけないだろう。
ある人に聞いた。「そういう時どうするの?」と。「その時は、あ~すに来るよ」と調子のいいことを言う(笑い)。
この前、居候の女性に「ニワトリの首をはねてみますか」と聞くと、「絶対嫌。そんなことしたらトリ肉が食べられなくなっちゃうわ」と。でも「見るだけでも見たら」と言ったが逃げた。
しかし、夜ご飯のチキンカレーはチャッカリ食べていた(笑い)。いつもニワトリの首をはねるとき、取材中クマに襲われ死んだ動物写真家の星野道夫さんのことばが、頭にうかぶ。
「人はその土地に生きる他者の生命を奪い、その血を自分の中にとり入れることで、より深く大地とつながることができる。その行為を止めた時、人の心はその自然から本質的に離れていくのかもしれない」
(編集部注)「タメ」は「対等」「同じ」を意味する俗語。「タメで話す」とは敬語等を使わずに対等な言葉遣いで話すことを指す。
あ~す農場
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兵庫県朝来市和田山町朝日767
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