自給自足の山里から【88】「水牛と若者の群れ」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【88】「水牛と若者の群れ」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年4月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

水牛と若者の群れ

山村にも遅い春がやってきた。ホーケキョと一声。「お父さん、ウグイスが鳴いたよ。ちょっと頼りないが」と顔をほころばせるのはあい(16)。
今年は、三月末だというのに、まだ山間の田畑には、雪が白く残る。しかし畔には、雪の下耐えてきたふきのとうが、その耐えたあざやかな黄色で笑う。お山の樹々も薄赤く、恥ずかしげに顔を染めていく。年頃になり、親を心配させる双子のあい・れい(16)を思う。

春休み、都会から「体験居候」相次ぐ。姫路から小学生三人と親、千葉・東京の高校生、大阪の大学生、神戸のフリーター等、常に三~四人、多い時は八人も。二月から居る百姓志願の篤君(20)が指導者? ちなみに、あ~す農場はインターネット等コンピュータは使ってないので、口コミである。「大森は化石人間」なんて言う人もいるが、縄文百姓の心意気と言えるか。
母親とやってきて、「この子は、将来百姓になりたいと言うの」とのA君は、食事の手伝いをすすめるが、「自慢ではないが、食べ物作ったことない」と、洗濯は自分でやれと言うと、「洗濯機使ったことない」とおっしゃる。板に釘打たせると、五寸釘を使う。
炭やきにしても万事同じ。ケンタ(26)らあきれる。ちえ(19)がトリ捌きに誘うが、「気分が悪い」と部屋に閉じこもる。夕食のチキンカレーはおかわり。しばらく居ると親は言っていたが、「精神的に疲れた」と、四日目に帰る。その後、親からも何の連絡もない。
もちろん、「黙々と働くケンタさんを尊敬」と、百姓志し、懸命に働き学ぶ青年、篤君、崎君らもいる。

さて、そんな中、ケンタと行った東ティモールの農山村の人々のことを思う。
訪れた山村は、奥にはもう一つ村があるというが山間の村である。三十家族くらいで、自給用のとうもろこし、豆、野菜、果樹などつくり、採り、換金用にコーヒーをつくっていた。
お米は、下の市場で買うという。ちなみに言葉は、この山村地方の言語で日常生活は行い、市場に行った時はティトン語(ティモール)を使う。学校ではインドネシア語、ポルトガル語、英語という。
東ティモール日本文化センターの高橋さんは、日本で方言が標準語に飲み込まれ、山村などの地方文化が消えゆく反省もあり、学校で、日常生活の言語・ティトン語を学ぶより、教科書作りなどの活動を行っている。
コーヒー園といっても、畑一面にコーヒーの木が植えられているのでなく、密林の樹々の間に植えられ、いわば自然に育てられている。
日本と同じように、猿、鹿、猪らが実が熟した頃に食べに来るという。村に一人猟師がいた。槍を使う。わな猟のケンタと話がはずむ。村人とも。それは楽しい時であった。
あ~す農場と生きた交流。それにしても、多くの山の子たちの目の輝き、笑顔の美しさ、自分の身体の半分はあろうという子を抱っこする女の子のたくましさ。ヘソを出す子のお腹をさわっておどけると、子たちドッと笑う。明るさ朗らかさ。
これだから、ゲリラは生き残り、闘えたと実感を強くする。

川を下って、下流の農村へ行く。二百町歩はあるという広い田畑がひろがる。草屋根の農作業小屋が点在し、苗代が青く、田植えする人、林伐の音がし、一台の耕運機が動く。かけ声、歌声が耳に入り、水牛と若者の群れなどが目に入る。
人一人やっと歩ける畔を、タウル司令官と歩き、水牛に近づく。田んぼの代かきを水牛二十頭くらいでやっている。若者らがホー・ホォーイと調子をとりながら、細い棒で牛たちを追い、群れでぐるぐる回し動かしている。
人と牛による水田づくりである。そばで、耕運機(60年代三菱)が動いていたが、水牛の方が見事である。
苗代で苗を手にとり、少し植える。「日本、あ~す農場と同じ」と言うと「おお!」と嘆声。苗は成苗(三五日くらい)を20センチ間隔で植える。雑草の水草を手にしながら、「田草とりはどう?」と聞くと、「大変」の返事に、互いに納得。
手で刈り、脱穀は機械(これまた、60年代の日本製)、籾すりは木うすを使い手で行う。人々は、ゆっくり、一日、三~四時間働く。
耕作していない田んぼが多いので聞くと、「八割方耕してない」と言う。どうも、上方の水路をインドネシアが破壊したよう。まだまだ傷跡は深い。そして、なんと、ベトナムから安い米が輸入されていて、ティモール米は高くなり売れないとも。
その地方の農政担当者に会う。水路を直し、農薬・化学肥料使わないで自給したいと言う。
バイオガスも試み、カジヤさんに会う。とうもろこしを作り、池で魚を飼い、上で鶏を飼って糞をエサにし、魚、卵等売って必要な現金得ている農民にも出会った。
日本の青年、百姓との交流を願う。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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