エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【380】|MK新聞連載記事

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エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【380】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2019年12月1日号の掲載記事です。

表紙

表紙

本だけ眺めて暮らしたい

日本酒が好きなので、焼酎はたまにしか呑まないが、焼酎ならやはり米焼酎がよい。
ただ、焼酎は酒屋にしろ呑み屋にしろ、芋や麦が主流で、米焼酎など置いてないところが多いのが難点だ。
酒粕で造る焼酎を特に粕取(かすとり)焼酎と言い、近年、一部の酒好きのあいだで再評価、注目されつつあり、清酒を醸造している酒蔵で上質な粕取焼酎を新たな銘柄で売り出すところもあらわれている。
一方で、第二次大戦直後に闇市などに横行した粗悪な密造酒も「カストリ」と呼ばれていた。
それで、戦後にどっと数多く創刊された低俗な雑誌を「カストリ雑誌」と言う。カストリは三合(さんごう)も呑めば悪酔いで潰れる。つまり、三号(さんごう)で廃刊になりそうな粗製乱造の雑誌というわけだ(諸説あり)。その内容はエロを基調とした煽情的なものが多かった。
というわけで、紙幅の半分を使った長い前置きはこれくらいにして、前回に引き続き古雑誌をご紹介。そう、今回はカストリ雑誌。『巷談』(B5判百六頁、八十円。発行・近畿図書)。
私が所有しているのは「艶趣読物特集」の昭和二十六年十月号(通巻第二号)。いかにも妖しげな表紙(絵は長谷川小信、カラー口絵も)で、実際に艶っぽい内容だが、執筆者や作品の選択は意外に文学的また芸術的。
個人的に一番の注目点は、なんと稲垣足穂! の文が載っているところ。題は「WC美学」。
WCはもちろん公衆便所のことで、妄想的なスカトロ談義。足穂ファンなら横光利一や川端康成が評価したという異色作「WC」をご存じのことだろう。これはそのヴァリエーションか。
ほかにも東郷青児が挿し絵を描いている林房雄の小説、また東郷自身も「巴里夜話」という文を書いていたり、江口清と堀田善衛が訳したモーパッサン、青柳瑞穂訳のヴェルレーヌ、杉浦明平訳のバンデルロ、奥野信太郎による聊斎志異、横山泰三のマンガなど。
こんな豪華な顔ぶれなので、稲垣足穂は目次の扱いも小さく、名前も目次には出ていない。
私にはどれが新稿で、どれが転載・再録なのかわからないし(雑誌にも記載がない)、調べてもいないが、研究者なら何かおもしろい発見があるのかもしれない。
編集後記は言う。大衆娯楽誌が存続するのが大変な時代。エロでもバクロでも読者をつなぎとめるのは難しい、と。いつの世も同じ、ですね。

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事

1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)

本だけ眺めて暮らしたい バックナンバー

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