山の一家*葉根舎「葉根たより」【53】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2021年5月1日号の掲載記事です。
大森梨沙子さんの執筆です。
葉根たより
光ほのかな夜明けや夕暮れ、ぽうっと白く、桜の花々が浮かび上がるように見える時間が好きです。
冬から寒暖差が大きかったためでしょうか。今年は山の桜と麓の桜がほとんど同じ頃に咲きました。そして春の到来は二週間ほど早く、熟しきらずに春がやってきてしまったようにも感じます。
「虹始見(にじはじめてあらわる)」「雷止出苗(しもやみてなえいずる)」
淡く消えやすい春の虹も次第にくっきりし、霜が降りなくなり、苗代で稲の苗が生長する頃。
こちらは種籾を水につけて芽出しをしています。苗代にする田んぼの畦塗りもいよいよ来週からです。
<早き目覚め>
野草たちもぐんぐん伸びてきました。今年の成長の早さに戸惑いつつも野菜の少ない季節、ツクシ、ミツバ、フキ、ノカンゾウ、アサツキ、ノビル、カラスノエンドウなど、食卓を助けてもらえてありがたく摘む日々です。
ツクシは摘んだら蒸して干して、干しつくしに。一年間保存でき、ふりかけにもできます。カルシウムとゲルマニウムがたっぷり。うちの子供たちも大好きなツクシ。
長男の名もツクシなので、「共食い~」と毎年からかう弟たち、微笑ましい光景です。
そして早いのはもちろん虫たちも。
天井から台所のシンクにポトリ…黒くて足のたくさんある人…どうやらシンクから出られない様子だったのできっと神様からの贈り物。
ありがたくごま油につけてお薬にしました。
ムカデや蜂に刺された時、錆びた釘を踏み抜くような怪我にも効きます。山の暮らしではあるとかなり安心なお薬。うちにはすでにあるので、この春、うちの村へ地域おこし協力隊で入ってきてくれた家族へ贈ることにしました。
そして、竈門の薪を取りにいこうと外に出ると、薪置場の隅に黄色と黒の細長いものが…こちらには近づかないことが一番。
みんなの早い目覚めに気が引き締まります。
<新緑と共に>
三月下旬に種まきした夏野菜の苗もすくすく育ち、ポットへ移植しました。
早い春に畑が乾くのも速く、じゃがいも、生姜も植え終わり、里芋の苗作りも始まりました。これらの作業は毎年子供たちと。
おかげで春休み、土日の晴れ間に作業がしっかり進みます。
お米の種籾は、まず脱芒機にかけ温湯消毒し、水に入れて浮いた分を取り除き、十~十四日ほど水につけて芽出しをします。その間、種籾を播く苗代の準備も。荒起こしをし、乾かしてから水をいれ畦塗り、苗の箱を置けるように準備をします。
お米の種まきは四月下旬、例年より数日早めに播く予定です。
こうしてどんどん忙しい季節になってきました。新緑の芽吹きと共に、私たちも勢いをつけてゆく、そうして周りの草木と共に進んでゆく季節がとても心地いいです。
<からだのーと>
4月17日から5月4日(立夏の前日)までの春の土用は、自律神経のトラブルが増えます。
イライラしたり、落ち着かなかったり…ヨモギやフキなどの野草料理を頂いたり、少食にして血液の浄化を心がけると精神が安定してきます。
「土用」は胃や膵臓が弱りやすい時期。特に甘いものの影響を受けるので、お米を噛みしめ、優しい甘さを楽しみましょう。
<空っぽ>
おかげさまで「森の展示室」たくさんの方にお越しいただきました。
広い森での展示なのでこのような時期ですが、みんな安心してのびのびと森の中で作品探しをしてくれました。
今年のテーマは「空っぽ」私は掘り下げていくうちに、ただ気持ちよく重力を感じているだけの状態にたどり着きました。
丸い木の断面に草を描き、重力のまま、真っ直ぐに地球の中心へと向かってゆくイメージを。
そして切り株に描いた昨年の作品のそばに埋めると、まるで昨年の作品から生まれたような、昨年の作品が今年の作品を抱いているような…それが今の私の「空っぽ」となりました。
作品のほとんどは会期後も森へ置いています。森へ溶けていくまでを作品としているものもたくさんあります。
普段はとても静かな森なので、ぜひよい時にお越しください(わち山野草の森)。
あまりに早くやってきた春、これからの季節の移り変わりがどうなってゆくのか気がかりですが、身体も仕事もついてゆけることを祈るばかり。
世界中が気持ちよく移り変わってゆけますように。
(2021年4月12日記)
■葉根舎
haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com
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