山の一家*葉根舎「葉根たより」【14】|MK新聞連載記事

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山の一家*葉根舎「葉根たより」【14】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2018年2月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

葉根たより

シンシンと降り積もったり、キーンと張りつめたり、サーッと晴れ渡ったり。
冬は無音の中に様々な音があるように感じます。
慌ただしい年末年始が過ぎ、今年もまたこつこつと暮らしを紡ぎ始めています。
真っ白な山、まだ量は少ないけれど、小寒を迎え、これから大寒なのでまだまだ気はゆるめません。

雪は運転が怖いので、欲を持たず、出かけず、制作に没頭することが一番です。
夢中になって描いている時は、最も行きたいところに行っているような気がします。きっと、自分の一番深いところへ潜っているのでしょう。
近くて遠く、悩み、迷ってばかり… 雪の季節は、じっくり迷ってもいいような気になれます。

<寒の入り>

「冬至より一陽起こるが故に陰気に逆らう故、ますます冷ゆるなり」『暦便覧』
いつも不思議でした。葉を落としたらもう蕾(つぼみ)をつけている木々、冬至を過ぎればのびてゆく陽、どんどん春へ向かっているかのようなのに、小寒がやってきてどんどん厳しくなる寒さ。
でも、なるほど! 陽の気が起こると、それに対抗して陰の気が強くなって寒さは増すのですね。
何事も、あともう少しで光が見える時が一番厳しさを増すもの。
目の前にしているからこそ、影が強くなり、光が見えにくくなる。
この寒があるからこそ、春の光はしっかり輝くし、寒の中でも春は始まっているのですね。

<寒の仕事>

寒に入ったら、味噌作りです。
小豆は兎と鹿にほとんど食べられてしまいましたが、大豆は守り抜き、数年ぶりにたくさん実りました。
餅米もたくさん実り、餅つきは十一月からしていますが、かき餅はこの寒の時期に作ります。
どちらも薪の力で蒸し、夫のげんの腰の入った杵つきでしっかり陽性に仕上がり、最高のお味です!

今年の貴重な小豆は、お汁粉にして鏡開き。
子供たちが大喜びしてくれるので、作り甲斐があります。
鏡開きをしたら、節分まで冬の土用、そして立春です。
「水沢腹固(さわみずこおりつめる)」厳しい寒さで沢が凍る頃ですが、「款冬華(ふきのはなさく)」蕗(ふき)の薹(とう)が咲き始める地域もあるようです。
十二月下旬、雪が溶けた合間に草刈りをしたら、蕗の薹の固い蕾を見つけました。冷たい雪の下で、しっかり春に向かっている草木にはいつも感動、尊敬してしまいます。

<子供は風の子>

子供たちがもっとも外遊びするのは、寒い雪の季節。朝から真っ暗になるまで雪の子になるのが恒例でしたが、今年はちょっと様子が違います。
相変わらず雪の子なのは、長男つくし(十三歳)。
朝起きると、ご飯も食べずに雪かきに夢中… どうやら朝ご飯は雪のようです…
でも、ソリーでなく、雪かきなところがお兄ちゃんになったんだなあ、と感じます。

末っ子のかや(七歳)はソリーが大好きなお年頃。
まだまだ小さくて、まるっこいかやが滑る様子はたまりません!
一番に私とお風呂に入らなくなった、次男すぎな(十歳)は、やはり一番に雪遊びから遠のき始めました。
でも、かやにせがまれて外に出る、優しいお兄ちゃんです。

<子供とデート>

そんなすぎなと、初めて神戸デートをしました。
龍の水墨画が好きなので、陳容の九龍図巻を見にボストン美術館へ。
様々な国の作品が少しずつ展示されていたので、世界旅行へ行った気分になりました。
私の解説を真剣に聞いてくれて、嬉しくて説明しまくり(笑)。
こんなに美術館内でひそひそ話したのは初めてでした。
一昨年はつくしと美術館巡りをしました。
兄弟がいるとなかなか二人にはなれないので、とても貴重で幸せな時間でした。
何歳まで行ってくれるのか、ドキドキしながら成長を楽しみたいです。

<蕾>

木々の蕾が少しずつ、しっかり膨らんでゆくように、子供たちもしっかり成長してきました。
冬の蕾を見ると、何とも言えない気持ちになります。
年を重ねるにつれて、時が過ぎゆくのは早くなること、本当なんだなあ、と感じるようになりました。
だからこそ、しっかりこの瞬間に集中して、今できることをしっかり重ねて暮らしてゆきたいと思います。
草木や子供たちのようにしっかりと…

(2018年1月11日記)

■葉根舎

haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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