フットハットがゆく【336】「旗色」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2021年12月1日号の掲載記事です。
旗色
自分は世の中の役に立つことをしているのか? と、時々考えてしまいます。
でも人間、どんなところで人の役に立つか分からないものです。
先日、狩猟免許の試験を受けて、わな猟、銃猟、無事合格しました!
今年はコロナの影響もあり年に一回しか試験を受けるチャンスがなく、万が一にも落ちないように頑張りました。
一日で知識試験と技能試験が行われましたが、僕が一番手こずったのが意外にも「距離の目測」です。
銃を構えて獲物を狙う時にその距離感が重要になることから、このような試験があるのです。
試験会場は京都市内でしたが、近くの賀茂川まで行かされました。
河川敷にはいろんな色の旗が様々な距離に7本くらい立っていました。
試験官に指定された位置に立ち、そこから見える10m、30m、50m、300mの旗の色を、解答用紙に書き込むという技能試験です。
話がさかのぼりますが、「距離の目測」が試験に出ることは分かっておりましたので、前日に個人練習をしました。
巻尺は持っていなかったので、まず自分の歩幅を物差しで測りました。
一歩約60cmでした。
家の外に出て一本の電柱を基準にして、そこから17歩、歩いたところが約10mということになります。
電柱を振り返って、ふむふむ、これが10mね、と確認して、さらに歩数を測って30m、50m、300mの距離感も確認しました。
で当日、河川敷に並べられた旗を見たら、昨日、電柱で練習した時の感覚とまるで違うというか、周りの対象物が変わるとこうも距離感が変わるのかと、ちょっとパニックになりました。
その時の僕の感覚では、一番手前の旗が3m、次の旗が5mくらいに見えて、僕が思う10mの感覚のところに旗がなく、その次の旗は明らかに10mより遠い、という感じに目に映ったのです。
技能試験は100点満点の減点法で70点以上が合格なのですが、旗の色一本間違えたらマイナス5点、もし4本間違えたら一気にマイナス20点です。
他にも銃の取り扱いや、狩猟鳥獣の見極めなど項目は多いのに、旗でそんなに減点されたらマズイ! と、ますます焦りました。
最悪の旗色となったそんな時に、女神が舞い降りました。
河川敷には普通に散歩やジョギングをしている人がたくさんいます。
ちょうどその時、犬の散歩をしているお姉さんが僕の横をス~ッと歩いて行ったのです。
とっさに、その人の歩数を数えました。
そしたら、僕が5mの感覚に思えていた旗まで18歩だったのです。
僕の歩幅で17歩が10mですから、そのお姉さんの18歩が10mと見て間違いないです。
10mが分かると、霧が晴れたように他の旗の距離も分かりました。
まぁズルといったらズルなのですが、タイミングよく犬の散歩をしていたお姉さんに本当に感謝です。
あなたがいなければ僕は試験に落ちていたかもしれません。
あの人も、ただ散歩していただけでこんなに感謝されているとは、夢にも思わないでしょう。
人間、どこで人の役に立っているか分かりませんね。
僕も、生きているだけで誰かの役に立っているかもしれない! …と思いながら生きていきます。
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