アメリカ反戦兵士たちに寄り添うために①暴力の果て、ホームレスに|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、ジャーナリストの加藤勝美氏による連載記事を掲載しています。
MK新聞2019年1月1日号の掲載記事です。
アメリカ反戦兵士たちに寄り添うために①暴力の果て、ホームレスに
「戦争は金持ちをさらに金持ちにする」をMK新聞2018年12月1日号に掲載しました。
その原稿を書いている時期から、ヴェトナム戦争とイラク戦争の帰還兵たちのその後と今を知るために文献を読み始めました。
当初は以前からの関心事だった当事者のPTSD(post traumatic stress disorder 心的外傷後ストレス障害)を中心に考えたいと思っていたのですが、改めて気付かされたのはヴェトナム戦争やイラク戦争については、ほとんど何も知っていなかったという、その意味で衝撃的な事実でした。
もちろん、いろんなメディアを通じてソンミ村の無差別虐殺事件、枯葉作戦の被害、イラクのアブグレイブ収容所での捕虜虐待など、知ってはいましたが、あまりに信じがたいほどのおぞましい事実のため、「もういいよ」と、あまり掘り下げてみる気持ちにならなかったのも事実です。
それを突き破ってくれたのが、神戸女学院大学での二人の帰還兵の戦場報告でした。
まず、私が住む豊能町の図書館と大阪府立図書館から借りた本が十冊近く机に置かれるようになり、その一つアレン・ネルソン(Allen NeIson)著『戦場で心が壊れて』(新日本出版社、2006)には、大きな音がするとそれがヴェトナムでの銃声や砲撃音に聞こえ、戦場にいるような錯覚に陥る体験が書かれています。
帰還後、生家に戻ると家族を怒鳴りつけたり、暴力を振るってしまうようになり、母は「私たちは寝てる間にお前に殺されたくない、もう一緒に暮らせない」と言い、彼はスラム街でホームレス生活を始める(36ページ)。
似たような話はたぶん新聞やテレビで私も知っていたことでしょうが、具体的な個人の経験として語られると、絶句してしまいます。
彼は1947年、NYブルックリン生まれ、アフリカ系アメリカ人、元海兵隊員。
これは多くのヴェトナム帰還兵たちを襲った悲劇のほんの一例にすぎません。
そして、ニッタ・タース著『動くものはすべて殺せ』(布施由紀子訳、みすず書房、2015)は分厚い400ページを超える本ですが、図書館にあることは知っていても、読もうとはしなかった本です。
分厚いためではなく、予想される中身への怖れのようなもののためです。
そして、その予感通り、ほとんど一ページごとに殺戮や虐殺事件があり、気持ちが萎えて読み進めない。
それでも読まないわけにはいかないので、タイマーを15分に設定して読み始め、タイマーが鳴ると本を閉じて少し気持ちを鎮め、関係のない本を読んだりしてまたこの本に戻る、を繰り返しました。
私はパソコンに入力する前に手書きで下書きをしますが、この原稿は気持ちがなかなか乗らない。
読むだけでもしんどいのに、原作者や翻訳者はどんな気持ちで原稿を書き進め、翻訳をしたのだろうと、考えてしまいました。
次回では著者がこの本を書くまでの経緯とその後をまず紹介したいと思います。
(2018年12月3日記)
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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について
ジャーナリスト。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。
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