ロンドンからパレスチナへ①|MK新聞連載記事

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ロンドンからパレスチナへ①|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、フリージャーナリストの加藤勝美氏よりの寄稿記事を掲載しています。
パレスチナカメラマン・桐生一章氏のロンドンからパレスチナへ①「パレスチナ自治区ラマッラーにて」です。
MK新聞2014年12月1日号の掲載記事です。

パレスチナ自治区ラマッラーにて

©現代企画室『占領ノート』編集班/遠山なぎ/パレスチナ情報センター

©現代企画室『占領ノート』編集班/遠山なぎ/パレスチナ情報センター

入国審査を受けて

2013年11月中旬、ロンドンからイスラエルに向かった。
今回で5度目の訪問になる。ロンドン・ヒースロー空港からイスラエル・ベングリオン空港まで直接飛んでいる格安便があるので、ロンドン在住としては便利だ。
ベングリオン空港はとてもきれいで近代的な空港だ。
しかし毎回ここからイスラエルに入国するのは少し気が重い。
入国審査の前になぜか必ず警備員から質問されるからだ。
どこから来た、何をしにきた、滞在日数等々。高圧的に質問されるので毎回気が重い。
以前6時間足止めされた記憶がよみがえる。
今回も(尋問に近い)質問されたが、何事もなく入国。
空港から出ている乗合タクシーでエルサレムに向かう。
ここで一安心。11月とはいえ地中海に面しているテルアビブはまだ暖かい。

テルアビブからエルサレムまで1時間ほど。
パレスチナ自治区(以下自治区)に入るにはエルサレムに行く必要がある。
いつものダマスカス門で車を降りる。ダマスカス門は旧市街を囲んでいる城壁にある門の一つだ。
アラブ人が多く住む地区で、安宿が多いのでいつもこの辺りの宿を利用している。
世界中から旅行者が集まってくる街だ。タクシーから降りると香辛料やコーヒー、排ガスの混じった懐かしいにおいがした。
宿は安いが、清潔で朝食付き。ベッドを確保すると一息つける。

コンクリートの壁

エルサレムはキリスト教、ユダヤ教、そしてイスラム教の聖地だ。
旧市街と呼ばれるところは約1km四方にこの三大宗教の聖地が集まっている。
宗教的な遺跡、教会、モスク、シナゴーグなどがこの中に数多くある。
キリストが磔(はりつけ)にされる前に歩いたとされる道もある。
その他は小さな商店、レストラン、ホステルなど細かい路地にたくさんの店が並び昼間は活気であふれている。
ダマスカス門の辺りにたくさんの安宿があり世界中からバックパッカーが集まってくるのは、経済的な理由もあるが、情報交換ができるのが利点だ。

エルサレムに来てもみんながパレスチナに行くわけではない。
ベツレヘムは自治区内だがキリスト生誕教会を見るとまたエルサレムに帰っていく。
パレスチナは危ない場所というイメージがあるせいで、簡単に自治区に入れるのだが行かない人も多い。

カレンディアの検問所(ラマッラーに向かう車窓から)

カレンディアの検問所(ラマッラーに向かう車窓から)

自治区に入るには、ダマスカス門から出ているバスを使う。
1時間ほど乗ればラマッラーというパレスチナ自治区の街に行ける。
ダマスカス門から30分ほどでカランディア検問所に着く。高速道路の料金所のような建物だが、銃を装備しているイスラエル兵が管理しているところが違う。
自治区内に入るときはチェックなしで入れる。出るときはいちいち金属探知機に荷物と体を通して、IDをイスラエル兵に提示してからでないと出られない。
何時間も待たされるときがあるので、仕事に行く機会を失うこともある。
検問所で待たされた結果、出産できずに死亡した女性など、検問所での人権侵害は非常に重要な問題の一つだ。
検問所の両側には10mもあろうかという高い壁が連なっている。この壁がアパルトヘイトウォールと呼ばれている壁だ。
一応国境線ということになっているが、自治区内に大きく入り込んで建設されている。
威圧的なコンクリート製で精神的な圧迫感が大きい。
壁には多くの落書きがあり、すべての落書きはパレスチナ解放のメッセージだ。
イスラエル側の言い分によれば、この壁でテロリストの流入を防ぐという。

イスラム文化圏へ

検問所からもう少しバスに乗っているとラマッラーに着く。
本当にここが占領されているところなのかと思う。
街の中心部は商店が並び多くのパレスチナの人々が歩いている。
青空市場は活気があり多くの肉や野菜などを売っている。
喫茶店で涼んでいる人もいれば、水タバコを吸っている人もいる。
バーに入ってビールも飲めるし、路上では大きなポットでコーヒーも売られている。
インターネットカフェに、高級ホテルさえある。車が通りを埋め尽くしていて、パン屋から焼きたてのパンの香りがする。
学校帰りの生徒たちの集団や買い物をする主婦のような人たちなど、ラマッラーを見ていれば占領下とは思えないだろう。
街の様子はどこにでもある普通の街だ。少し時代が日本より古い感じである。

ラマッラーは自治政府が置かれているので首都として機能している。しかしあくまでも首都はエルサレムだ。
東エルサレムがアラブ地区で西エルサレムがユダヤ地区とされているが、イスラエル政府はすべてのエルサレムをイスラエルのものとしたい考えだ。
アラブ人の多く住む東エルサレムでは、毎日のようにイスラエルによるパレスチナ人への強制退去が行われている。
そしてそれに対抗するパレスチナ人や、彼らを支援する海外の人たちが集まってくる。

ラマッラーに着いたら早速携帯を買う。エルサレムでも買えるのだが、なるべく自治区内で金を使おうと思う。
携帯購入後、ビリン村行きのタクシーが出る乗り場まで歩く。自治区のタクシーは黄色いバンだ。
イスラムの文化圏なので、夫婦でない限り男女同席することは好ましくない。
だいたい席は男女分かれて座ることになる。もちろんそんなことを言っていられない場合も多いが、できる限りそのルールは守られているようだ。
乗り合いタクシーなので人数が集まらないと出発しない。
日本のような乗用車のタクシーもあるが割高だ。だいたい6、7人乗って出発。30分ほど走ればビリン村に着く。
ラマッラーからビリンまではいくつかの小さい村を過ぎて、視界にイスラエルとの国境線が見えてくるとビリン村に到着する。

 

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フリージャーナリスト・加藤勝美氏について

ペシャワール会北摂大阪。
1937年、秋田市生まれ。大阪市立大学経済学部卒
月刊誌『オール関西』編集部、在阪出版社編集長を経て、1982年からフリー
著書に『MKの奇蹟』(ジャテック出版 1985年)、『MK青木定雄のタクシー革命』(東洋経済新報社 1994年)、『ある少年の夢―稲盛和夫創業の原点』(出版文化社 2004年)、『愛知大学を創った男たち』(2011年 愛知大学)など多数。

MK新聞への連載記事

1985年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。

1985年11月7日号~1995年9月10日号 「関西おんな智人抄」(204回連載)
1985年10月10日号~1999年1月1日号 「関西の個性」(39回連載)
1997年1月16日号~3月16日号 「ピョンヤン紀行」(5回連載)
1999年3月1日号~2012年12月1日 「風の行方」(81回連載)
2013年6月1日号~現在 「特定の表題なし」(連載中)

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