自給自足の山里から【207】「父・大森昌也を偲んで」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2016年5月1日号の掲載記事です。
大森あいさんの執筆です。
父・大森昌也を偲んで
4月、朝日の山は山桜、コブシ、ヤマブキ、ツツジ、すみれ、菜の花がここ何年も見たことないくらいの満開に咲き誇っていた。
なんだか山桜が風に吹かれて、ホロホロと山が泣いているように感じます。
父、大森昌也が3月24日に永眠しました。昨年の6月から父は上顎洞ガンになり闘病生活を続けていました。
10ヵ月という短い時間なのに何年もの時が流れているように感じます。
葬儀は近親者にて3月25日に滞りなく相済ませました。4月9日には父を偲(しの)ぶ場をもちました。
家族、友人、百姓仲間、130人の方々が来てくださり、東北、関東、関西、沖縄、北海道からもたくさんの贈り物が届きました。
本当に皆様ありがとうございました。ここに生前のご厚誼(こうぎ)を深謝し哀心より御礼申し上げます。
そして、偲ぶ会の手伝いに来てくれた友人に支えられ素敵な時を私たち家族も過ごせたと思っています。心から感謝です。
偲ぶ会は父が好きないつものにぎやかな一日になりました。
そして、あーす農場にインターナショナルの歌が響きました。
なんだか、父の声が聞こえてきそうでした。
古時計の下の甥っ子の貼り紙には『じっちゃんビールきんし』と書いていたのを、『じっちゃんビールかいきん』と書き直して、今日の日はお父さんのビール解禁だね、と笑った。
まだ、私はお父さんがいないことが不思議で少しぼっーとして上手に言えないけれど。
やっぱりどんなに父に付き添うことができたとしても、後悔はどうしても生まれます。
でも、その後悔は気づきに変わります。
そうしているうちにお父さんの笑っている顔だけが浮かんでくるような気がします。
あんな雷親父で、ほとんど鬼で、時々仏のお父さんだったのに不思議です。
偲ぶ会で百姓仲間(寺田正文さん)が父に読んでくれた手紙にも優しさがあふれていました。
「(略)およそ10数年前には、次男げん、長男ケンタと結婚が決まり、あーすや分校での兄弟手作りの結婚披露宴は、忘れることのできない思い出となりました。
そして、今や彼らはともに3児の親となり、子育てに奮闘の最中にあります。下に続く弟、妹たちもそれぞれの道を模索し、立派にあーすを巣立ち自立の道を歩き始めています。
『農こそが苦難にくじけない生きる力を育てる場』と言う昌也さんの想いの種は芽を出し、花を咲かせ、実を結び、確かにつながってゆきました。今は巣籠(すごも)りの時を終え、元気に巣立った子どもたちの明日の幸せを祈り見つめてゆく時と思うのです。
(略)昌也さんが逝かれてからほどなく、こちらではコブシをはじめソメイヨシノ、ツツジと一気に咲きそろっています。今年も春が来ました。「生者必滅、会者定離」消えゆく熱き命と芽吹いてゆく新しき命。大いなる自然摂理の無情を想います。
昌也さんからは人生の先輩として百姓仲間として、大きな学びをいただきました。お会いできたこと百姓として語り合えたことを感謝しつつ、ここにご冥福をお祈りします。大樹の元、お母様とご一緒に安らかにお眠りください。そして残された私たちの明日を見守ってください。昌也さん。お疲れさまでした、さようなら」
私は貧しい暮らしで育つことは哀しいことだと思っていました。しかし今はそう思いません。貧しさには優しいという名の強さがあります。
この国はそれを忘れているのかもしれないです。私たちは本当に多くの方に支えられて、あーす農場でたくさんの哀しいことも乗り越えて今を生きているのだと思います。
本当に今までありがとうございました。
皆様の心の中にある優しい春の新芽のような命がいつまでも春を迎え、夏を迎え、秋を迎え、冬を迎え、生きる喜びにつつまれていますよう。心から心から願っています。
もうすぐ、山村は田んぼに水を引き田んぼの準備が始まります。お父さんが田んぼに入り叫んでる声が聞こえてきそうです。それも、うるさいくらいに…。
「おーい、あいちゃーん」
と叫んでいます。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)