自給自足の山里から【176】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年10月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
お山は、しおれ
今夏は猛暑、雨降らず。お山はしおれ、川は水少なく、下の村の川は天井川。「全く毛ガニがとれない。こんな年初めて」と村人。
「サワガニがたくさんあがっている」と孫たち。翌日は大雨台風でお山はけずられ、川は水あふれ、田畑の稲・野菜、水に浸かる。
台風一過、朝もやの中、太陽の日の光が射す。思わず手を合わす。今日の無事を祈る。青空が広がる。鶏・山羊・アヒルなど元気でホッと。
田んぼに目をやると、なんと鹿が暴れている。防御に網と電気柵を張り巡らしているが、その網に角が引っかかったよう。「研修生」の門君の小さな田にも、若いオス鹿が引っかかって、稲の半分がグチャグチャ。
畑に行くと、網と柵の下の地面を掘って乱入した猪が、あっちこっち、まるで土俵のように耕している(笑い)。
少し、お腹がへっこんだ?!
この秋、「百姓体験したい」と、少々お腹の出た大学講師の広岡さん(38)が、つれあいさんとヒカル君(6)、赤ん坊ともども2泊3日する。
早速、台風で壊れた竹トイ飲み水路を直し、喜ぶ鶏に笑顔。ガァー、ガァーと鳴くアヒルなどにエサやり、玉子とり(ヒカル君も手伝う)する。
次は、山羊のエサの草刈り。鎌研ぎ、刈るのも初めてのよう。彼の後を、私が刈る(笑い)。刈った草をやると、むさぼり食べ、あっという間に食べ尽くす。満足の山羊の目はきれい。
稲のコシヒカリは、コケヒカリの異名あり、倒れやすい。台風もあって、べたぁとなる。放っておくと、籾(もみ)が芽を出し、くず米になる。
田に入って、1株1株起こしていく。田のイナゴ、バッタ、カマキリ、クモ、カエルなどがとびはねる。あっ! 亀が、ヘビが、じーっと見つめる!
空から、カァー、カァーとカラス、ピーヒョロロとトンビ、小鳥たち。あっ、ハチがひと刺し。
畦(あぜ)に上って、ひと休み。ふと見ると、そばにマムシ! そっと教える。先生は、鎌で、なんと! まっぷたつに! 自慢気である。頭の方の半分は動いていて、結局逃げられる。「もう、死んだと思ったのに」とぼう然。
孫のすぎな(6)は、スズメバチに首を刺され、バンバンにはれ、泣く。親は、薬草で手当てする。
夕方、ヒカル君は、お父さんが薪(まき)割って苦労して火をつけわかした五右衛門風呂の湯上がり、縁側で、中秋の名月にはもうちょっとだが、「まるいお月さんだあ」と嘆声。「お星さんもいる!」とうれしそう。
スズムシ、コオロギなどの暗闇を振るわす大合唱で、山村の夜は更けていく。
生きとし生けるこの地球に、いのち分け合って生き、住む。おそれと感謝である!
彼は、少しお腹へっこんだよう(笑い)。
たのしかった! 就職できなかったら…
9月初め、2泊3日で、関西大学、大阪市立大学の学生12人(男6・女6)がやってくる。今年で4回目。感想(・・)である。
「1日目は、川そうじでずぶぬれになったけど、草取るのにどんどん夢中になって、意外にたのしかった。サワガニがたくさんいた。初めての鹿肉(網に引っかかった鹿を息子のケンタ猟師が解体し、研修生の俊君が料理)もおいしかった。お風呂(五右衛門)も、トイレ(ポットン便所)も、普段とちがうので新鮮でしたが、ずーっと住むには体力的にキツイなあと思った。
2日目は、ノコとヨキで、放棄された杉を切り倒した。薪割りもした。すごくつかれた。にわとりの解体で、首を切るのがほんとうにこわかった。チキンカレーは、おいしかった。予想よりたのしかった。自給自足の生活して、当たり前になっていることが、当たり前でないことがわかりはじめた」(吉川)。
「食べるために、木を切って割って燃やして、トリさばいて、野菜育て、みんなで食べる。普段とちがってたのしい!と思った」(岡)。
「にわとりの首を切るとき、バタバタとあばれるのを見て、これ食べるんだと思い、お湯につけ、羽根をはがしているとき、愛着がわいて、おいしく食べようと思った」(縄田)。
「ネットが通ってないみたいな圏外生活は、とてもよかった。携帯を解約したい気分です。トイレを流さないのに慣れて、帰っても流すのを忘れそう(笑い)」(佐藤)。
「都会で何でも便利に生活できるのは、山の自然が健全であるからこそ。そのような環境を守っていくのは、里山の生活。あ~す農場の経験を思いながら生活します」(梶川)。
「とうとう4度目。今回も素敵な時間を過ごす。あ~す農場は、たくさん、いろんなことを学ぶ、学べる場です。毎回、新しい経験、出会いがあります」(志帆)。
「たのしかった。就職できなかったら、ここに来ようかな」(中村)。
「大森さんのファンです」
秋、9月1日は、春、3月11日とともに、忘れられない関東大震災から90年。
「朝鮮人が、暴動起こす」のデマにのった人たちが、数千人の朝鮮、中国人を権力と虐殺。
ふと手にした雑誌(『週刊金曜日』8/30号)に、元自民党千葉県連幹事長の金子さんが、「ニューギニアの無人島に2年間自給自足のあと、敗戦の帰国前に、軍は、朝鮮や部落の人を営倉に入れて、自殺するための手りゅう弾を持たして置いてきた」と…。
2020年東京オリンピックに、世は浮かれているようだが、フクシマが、朝鮮や部落の人のように、置いていかれないことを願う。
「今、和田山駅にいます」と早朝の電話の学生や、突然玄関に「歩いて来ました」と21歳の若者らには、もうびっくり。でも、若い(?!)中年の女性の方たちが「大森さんのファンです」との来訪は、たのしい。
(2013年9月18日)
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)