自給自足の山里から【174】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年8月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
あなたは、がんです!
「あのう~、私はがんでしょうか?」と尋ねる。コンピュータの前で指先を動かしていた医師は、きょとん。今さら何を言うと、「前にも言ったはず、がんです」と宣告される。暑い夏のある日のことである。この日に、我が村で、男子誕生する。
私は、2年ほど前から、尿の回数が多くなり、この半年ほどは、夜中に2~3回起きる有様で、日常生活に支障をきたす。
娘・息子に友人らが、さかんに「病院に行って検査を受けたら? 今、前立腺がんで死ぬ人が増えている。早めに手を打ったら助かる。骨に転移していたら1ヵ月で死ぬ」と言う。
但馬(たじま)(兵庫北部)に移り住んで百姓始めて30年近くになるが、大きな病院の門をくぐったことはない。ひょっとしたらの思いもあり、“事実”を知ろうと、意を決す。
検査に次ぐ検査で古傷思い出す
泌尿器科を訪ねる。検査に次ぐ検査である。尿検査し、腕に注射して血を採って、PSA(前立腺に異状があると血中に出る)の数値を調べる。64・5(基準値は4まで)の数字。びっくり。医師は、直腸内を触診する。固くなっているようで、触られると気持ちよい(笑)。そこで、超音波検査し、どうもあやしいとのことで、生検といって、前立腺に直接針を刺し、10ヵ所から細胞とり調べる。60%~70%のがん細胞が二つ見つかる。
さらに、造影剤で、1日がかりでMRI検査し、がんの存在どころ、大きさ、がんが皮膜を越えて進展していないかどうかを調べる。
写真を見せられる。腰、左足・ひざ、右腕・ひじに、影が見える。「昔、若い頃、機動隊に硬い靴で腰を蹴られたことがある。左足指骨折してひざが変形気味。腕は、若い者の先に立っての山仕事して痛めた」と納得。胸にも少々影があると言う。「若い頃は、ヘビースモーカーだったからなぁ」とこれまた納得。
医師は、ただ「加齢です」と言う(笑)。
改めて、「骨へ転移はしてないですね?」と聞く。「転移は見られません」と。娘らには一番にこのことを知らせる。1ヵ月で死ぬことはないよう。
にわか仕込みの知識で、「ステージはいくらですか?」と聞くと、「2~3で、まあ普通」と。「グリーソンスコアの数字は?」と聞くと、「4+4=8で、少々タチが悪い。皮膜を越えていないが、越えていく状況にある。肥大している」と教えてくれた。
同病の先輩の「とにかく、PSAを下げろ」との忠告もあり、PSA、肥大を抑えるホルモン療法することに同意する。
医者は、この先、手術する判断のよう。「天皇も前立腺の手術して、なんでも、後遺症が出ているとか聞きましたが?」と水を向けるが、ただ黙して語らず。まだ身体にメス入れたことないのでやりたくない。
がん患者は忙しい
今、我が農場には、自給自足の百姓志す若者が、4~6人いる。百姓体験、居候、研修である。幼い子もひとりいてにぎやかである。息子・娘ら独立・修行中で、老いし私ひとり。とにかく、老いにムチ打って、若者たちの先に立ち動かないと、前に進まない(笑)。
田植えの終わった田んぼの苗たち、今盛んのキュウリ、トマトなど、春生まれた幼いニワトリ、アイガモたち、食欲盛んな我が山羊(ともえ)ら。
自然に育てるといっても、ほっぽらかしではない。幼い時に、よく面倒見てやらなくてはならない。
田んぼに入り、田打器まわして、株まわりを腰曲げて田草取りし、畑、畦(あぜ)などの草刈って、幼いものたちの世話に追われる。
今時の若者は、鎌、鍬、ノコ、金づちなど持ったことがない。研いでから作業始める。草ならぬ指を切ったり、くぎならぬ指を打ったり大変である。とにかく、若者たちが身をもって気付き学ぶよう、私は身を呈して動く。
老いし者ひとり、若者たちと、山村の再生に向けて、がんもびっくりの“奮闘”である。
朝から夕方まで1日働くと、もうクタクタで、疲れ切る。お酒飲んで、バタンキューである。気付いたらあの世に!(笑)
そう、我が村の先達たちがそうであったように。
白いヒゲの“かくめい家”、死生観問われる
高校の同級生の江田五月議員は、「人生の終末期をいかに過ごすか」と問う。
在来種の保存に奮闘の友は、「あなたと全く同じ状態です。なんでやろ、がんの個数まで。死生観を語りたいなぁ。痛みは求めませんが、死を受け入れようと思っております」と。
沖縄で奮闘の敬愛する務先輩から便り届く。「“がん”だって、老人性はかなり頑張れるとのことだと聞いているので、まだまだやることをやってください。ショックです。本当に。B29に竹槍のように、オスプレイに反対の声をあげております。若い者の後からついていっている状態ですが、最後まで頑張るつもりです。手紙、文字書くのは10年ぶり、乱筆混乱していますが、お許しください」と、感動!
「1年ぶりに帰(き)ました。昌也さんがヒゲをはやしていて、マスクに見えたので『マスクですか?』と言って失礼しました。まるでキューバのゲバラみたいな感じで、おやっさんによく似合っています。おやっさんは『かくめい家』だと思います。生き方を自ら実践して、みんなに手本を見せているのだから」(来訪者の感想ノートから)。
今日も若者と、泥と汗にまみれております。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)