自給自足の山里から【169】「山村の再生への希望」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年3月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
山村の再生への希望
ゲロ、ゲロ、ゲロッ
「あっ! カエルが鳴いている!」とつくし(8)は畦道を走る。まだ寒い2月初めだというのに、我が農場の不耕起(機械使わない)の田んぼである。すぎな(6)と2才のかやも危なげに追いかける。
田んぼのあっちこっちに、黒い固まりが浮いている。よく見ると、黒い小さな丸い卵が無数にある。「これが、おたまじゃくしになるんだ」と、つくしが弟たちに教えている。
「ニワトリを出してやろう」と、つくしがトリ小屋の戸を開け、果樹園に放つ。オンドリ中心に大地をついばむ様子は美しい。
「果樹園の網に鹿がかかっている」と、石窯のパン焼き用の薪割りしていたげん(31)が知らせる。つくしとすぎなを連れて行くと、若いオスが角を網にひっかけて、紐が首に巻き付いて、死んでいる。「かわいそう」と、一緒に手をあわせる。「目が青いビー玉。きれい」とすぎなは、目を輝かせている。
二人に手伝わせて首から紐を取り、壊れた柵を直す。鎚で杭を打つ幼い手。花ちゃん(3)とやってきた放射能逃れての覚さんに手伝ってもらって、解体する。じーと見つめる花ちゃん。「ナン(我が老愛犬)が、骨をおいしそうに食べていた」と、すぎなのほほえみ。
翌日は、いきなり大雪である。「カエルの卵は大丈夫かなあ」とつくし。近在のお年寄りは「あの人死んだ」と悲しい。50年余り猟してきた隣町の知人は「もう、生態系が変わってしまった」と嘆く。
放射能ばらまき、世界をひっくりかえした
「雪の朝日にも、春の朝日が輝いていることと思います。地道に歴史の進む先を切り拓き歩んでおられること、いつも励まされております。MK新聞(先号)で、寒い朝の風景、火吹竹や生木の煙など、子どもの頃の思い出とともに、皆さんの様子を想像しております」の便りとともに、槌田劭さん(京都大学を辞し、使い捨て時代を考える会設立)から『原発事故の日本を生きるということ』(小出裕幸・中島哲演・槌田劭著、農文協)が送られてきた。
槌田さんは本書で、「福島の原発から今でも東電が言うのに、一日数億ベクレル(毎時1000万ベクレル)は出ている。東電のいう情報は信用できないから1桁2桁違うかもしれません。今も大変な量の放射能が事故炉から漏れ出ている」「福島県中通りだけで100万人が暮らしている。ここで1年半の今も、毎時0.6マイクロシーベルト以上の被曝線量の地域が散在。これは放射線管理区域、一般人立入り禁止です。避難・疎開すべきです。そんな地に子どもたちは住んでいる。心痛むことです」。福島県健康調査によると、甲状腺に膿疱や結節などの以上が見られる子どもが3~4割もいる。毎月11日に関電京都前で抗議し、昨年5月18日から「代替エネルギーがあろうとなかろうと原発は犯罪的なもの。未来を傷付ける原発を子や孫に残さない勇気を!」と訴え、18日間のハンストを行う。
世界中に放射能をばらまき、世界をひっくり返す事故を起こした張本人らは、事実を隠しごまかし全く反省がない。最近でも、福島第一原発への国会議員の調査を拒む行為が明るみに。この世界歴史上の犯罪者を追求し糺すにあたって、本書の中で小出さんは「先の戦争に負けたときに、天皇こそ最大に懺悔しなくてはいけない。そして、天皇を処刑できなかったことを、国民が総懺悔しなくてはいけない」。そして「科学技術のやってきたことは地球を収奪することだけ。第一次産業を大切にする世界に戻らなければならない」と。私も、本当にそう思う。
お世話になります。素直に、愛をもって
ゆるんだ雪の中作業していて左膝を痛め近くの露天風呂へ。旧知の方と湯舟に浸かりながら談笑。いきなり「知っている? 江戸の頃の落語で“花見に酒売って儲けようとして、熊さん八さんが借金して仕入れた酒を、自分たちで飲んでしまって、結局借金が残った”というもの」と。ああ! アベノミクスの安倍・麻生が、熊・八さんか!! 笑えない。
この異常気象。昔は、夏は暑く、冬寒くが普通で、幼い頃の自給自足の暮らしに話の花開く。そして、「今は、金、金で都会に取り込まれ、大森さんのような暮らしは、無理やなぁ」とふと見せた絶望的な表情が湯けむりのなか。
東南アジアの村から若者招いて、草の根交流のPHD協会(本部神戸)から「研修」の若者が帰国に際し、ポツリ「あ~す農場いい」と言う。私は「日本を反面教師として、日本の50年前の風景が残る村が、原発事故の亡びゆく村にならないようがんばって!」と声援を送る。
「道を志す者は、都市繁栄の地にとどまるべからず」と、江戸時代の社会変革思想家の安藤昌益は言う。道を志す者を期待します。
4年前、3ヵ月間「百姓体験居候」していたつゆちゃんから「春から親子3人と猫1匹でお世話になります。いろんなことが起こると思われますが、素直にまっすぐ取り組んでいかれたら、愛を持って乗り越えていかれたらと思っております。またともに過ごせることが私はうれしいです」との便りが届く。
連れあいの門君からも「未熟な私がご厄介の不安はあります。が、家族として個人として自立を目標として学び成長してゆきたい」との便りも。うれしくたのしみである。
娘のかわいい1才の雨ちゃんがやってくる。我が村は、若い百姓4家族に、0才から9才の幼い子が9人。それに、シニアがまとわりつく(笑)。山村の再生への希望。こんなシニアライフはいかが。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)