自給自足の山里から【168】|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【168】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年2月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

冬の山村は、生きとし生けるもの、凍てつく寒さにじーっと耐え、深く静かに芽吹きを待っている。私も仲間。都会で味わえない幸せのときを過ごす。
静寂をやぶる“コケッ・コッコー”に目覚めるも、夜明けには早い。豆炭(木炭などの粉末を卵形に固めたもの)こたつを抱いて、もうひとねむり。太陽がすーっと輝き入る。「えい!」と起き、カーテン開くと銀世界。水を貯えた田んぼに、白い山が映えている。

「さむい、さむい」と来訪の百勝体験居候の若者が起きてくる。早速、薪ストーブに向かう。昨日教えたように、新聞紙をガサガサと丸め、上に出石ソバ店からの割りばしを置き、薪を重ね、紙にマッチをすって(これがなんともぎこちない)火をつける。手順はこうだが、なかなか思うようにならず、火吹き竹(吹いて火を起こす道具)と格闘している。
ストーブの上の鉄びんが湯気を出す。洗濯物が吊されている。若者はしばし、炎に見とれ、引き込まれている。
ニワトリ、アヒル、ヤギなどのエサやりして部屋に入ると、煙がもうもう、煙たくて、障子戸を開ける。どうも生乾きの薪をくべたよう。私も移住した当初、生木を燃やして火事さわぎを起こしたことがある。
エントツの煙のいきがよくない。筒のフタを開けると煤(すす)がたまって穴が少々小さくなっている。煙突掃除をする。若者は顔を煤だらけにして、白い歯をきわだたせる。
私の叔父は父親につれられて煙突掃除の仕事をしていた。「友達にいじめられて、嫌だった」といつも話す。
この仕事(そうじ)は大切。隣町で煙突に煤がたまって、火をよび、小火(ぼや)を出した知人がいる。他にも風呂の煙突から火事になり、家を燃やした例もある。
人類は、火を手に入れて人間(ひと)になったとも言われるが、この神聖なるものはこわい。今、人類は、大地を掘っての石炭・石油から原子(げんし)の火なんて、手に余りすぎるものに手をつけて破滅の道を歩んでいる。

そんな中、改めて、身の丈の縄文百姓の手による再生可能の薪のすごさを思う。火は水で消せるし、灰は大地を豊かにする。
我が村の若者・百姓たち、げん・りさ子のあさって農園工房は、炊事、風呂、暖房などは薪で、放射能逃れての菊地さんのまるかく農園も。ケンタ・よしみのくまたろ農園、あ~す農場は、暖房、風呂など薪。そして、昨年から移住の田中さん一家は、薪ボイラー、ストーブの生活である。火を使うなら直火である。
春になると、木を切って割って、夏乾かして薪を用意する。「薪の準備は大変だが、薪の火は気持ちよく、ほっとする」とみんな微笑む。
孫のつくし(8歳)、すぎな、みのり(5歳)は、自分で薪ストーブ、かまど、風呂に火をつけ守る。
子・孫らに、手に負えない核のゴミを残さない生き方を伝えていくのが大切だと思う。

日本で最大のタブー

アメリカの『ニューヨークタイムズ』紙(2009年1月16日号)の特集トップ記事に、「アメリカは黒人大統領を誕生させたが、日本で被差別部落出身の総理大臣を誕生させることは可能か」と問い、2001年3月、森首相の後継と期待された野中広務氏を念頭において「あんな部落出身者を日本の総理にはできないわな」と、麻生太郎が派閥大勇会で発言した(出席していた亀井久興氏が確認している)のをとらえ、「被差別部落についての話題は、いまだに日本で最大のタブーとされている」と指摘する。
麻生は、サベツ発言の事実を認めず、今、安倍内閣の副総理である。今からでも、サベツを認め、自らを糺(ただ)し、「日本の最大のタブー」を打ち破るのに率先して働くのが、人間として当然の姿だと思う。
「そりゃまあ無理やな。なんでも麻生は天皇家と親戚とかいう話だからなぁ。自分らは尊い血筋の者で、ブラクの者は賤(いや)しいとの思いにとらわれ、自分らをなぐさめている連中やからなぁ」なんて友は言う。
また、「今時、大森がブラク出身者やからと、その友人・知人らの村への移住を拒み、妨害する。なんでと思っていたら、やはり、なんでも村人は、貴い平家の落人の子孫との言い伝えを信じて、ブラクを賤しいとの思いにとらわれているんやなぁ」とも。
京都で部落問題に取り組んできた山本尚久さんは、「天皇と被差別部落が、貴賤(きせん)において、あるいは浄穢(じょうえ)において対をなすことは、事(こと)あらたに語ることはないが、しかしこの両者が対関係にあることについては、おおよその人はなんどなしに感じ了解している。(中略)非常につづめた言い方をすると、天皇制の存続そのものが部落差別の存在を保障していると言える。ひとつの王家が、千年以上にわたって一つの国の支配階級であり続けるという、他の国や地域にはないこの制度が日本社会にもたらしている影響ははかりしれないものがある。(中略)言霊思想や浄穢観念など、他の社会で多く原始ないしは古代社会までは認められるものの、その後は消滅したような思想が、今も生きているような国なのである。部落差別を解消するためには、これまでの日本を日本あらしめてきた諸々の習慣と思想そして感性を変えていくことが必要である」と。同感する。
兵庫で原発誘致を阻止した闘いの先頭に立った岡田さんから「核の絶望と不条理から解放されようとのぞむなら“あ~す農場”の縄文百姓の思想しかないと大森さん家族をとおして確信します。汗と土と知恵の匂(にお)いに満ちた労働者になること。運動が『街』から『ムラ』に動くことを念じます」とうれしい便り。
「水源の里」を提唱し、多くの若者が移住する京都綾部の前市長の四方八洲男さんから「MK新聞、いつもよんでいます」との便り届く。

 

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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