自給自足の山里から【160】「子どもの日に原発稼働ゼロ」|MK新聞連載記事
目次
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2012年6月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
子どもの日に原発稼働ゼロ
「子どもの日」のプレゼント・原発稼働ゼロ
2012年5月5日、「子どもの日」、日本中の54基の原発が全て止まる。
4月18日からこの日まで、大飯原発(福井)を再稼働しようとする関西電力の前で、「原発いらない」と、老体にムチ打って、いろんな市民運動が寄り合って、セクトを張り合わず、節度を心得て、たのしく座り込みをつづけていた京都の塚口さんから、「関電の前で、大声で“バンザイ”して帰ってきた」と夜遅くFAXが届く。
東京では、経済産業省前でテント張り、4月17日から、抗議のハンスト行う。「今日は子どもの日、原発稼働ゼロを祝う。手作りの鯉のぼりや菖蒲などが用意され、柏餅を口にした笑顔が、5月の空に映えた」と、ずっと座り込みしていた三上さんからもFAXが届く。
「原発は核兵器と同じ威力」との岸元首相以来、権力者の考えのなんと愚かなことか。
次の大事故では、放射能で汚染されない食べ物はなくなり、日本は滅亡する。すぐに全ての原発を廃炉に、その思いが強くなる。
おたまじゃくしをみてどじょうと…―野田首相もびっくり!?―
新緑がまぶしく、紫色のフジ、ピンクのウツギが笑う。おたまじゃくしからカエルのゲロゲロもにぎやか。
大地とともにある幸せのなか、フクシマの人たち、爆発しないよう働く人たちに、心寄せていきたい。
この日、神戸から友田さん(学習塾経営)が、友人、若者とやってきた。山に入って、ワラビ、ヤマブキらを採る。
途中、杉切り株のヤニを好奇心から一口味わうてるや君が、突然座り込み苦しみ、胃腸のものを吐き出す。しばらくすると元気になり、ほっとする。
元気になった彼は、冬も水をためている不耕起の田んぼに釘付けになり、「おたまじゃくしが、うじゃうじゃ。黒く彩っている」と感嘆。
泥田に手を入れ、「気持ちいい」と恍惚の世界に浸る。ふと振り返ると、顔中に泥パックした泥人間が、笑う。
「百姓体験居候」の「居心地が良いせいか、自分はずっとここにいるんじゃないかいう感覚で過ごしていた」和田さんも目をパチクリ。
大阪の教員の方から「居候とはなんと若者を見下したことか。私の父は、来訪者の若者を尊敬していた」と批難された。
我が農場は、学校(学生)でも、研修塾(塾生)でも、慈善団体(ボランティア)でもないので、なんとなく「百姓体験居候」(文字どおり)と言っているが…。
かの彼は、さかんに「顔がつるつるになった」と自慢する。この日、みなさんは「気分スッキリ、頭スッキリ、ワクワク」とおっしゃる。そして、帰り際にポツリと「原発は、この風景・気分を壊すのね」と…。
翌日、マクロビオテックの30代の女性がやってくる。農場を案内する。
「うわ~、どじょうがいっぱいいる!」と叫ぶ。彼女が立っているのは、田んぼの前。かのどじょう首相もびっくり。
いや、してやったりか?「あの~、どじょうじゃなくておたまじゃくし」と戸惑い気味の私。「ふん」と恥ずかしいのか無視される。
一緒に来訪された方は、「放射能でおたまじゃくしがどじょうに変身したのよ」なんて言う。
この季節、フキノトウ、ツクシ、タラの芽、ウド、三つ葉、ギボシ、ワラビ、タケノコなどを、フクシマや、お世話になった人たちに、石窯でやいた天然酵母パン、自然有精卵と共に送る。「躍動する命をいただいた感じで、感動、勇気をもらった」との声が嬉しい。
いちばんたのしいのは、子育て
90歳の母は、娘のあいに「一番楽しかったのは、子どもを育てているときだった」と微笑む。満州(中国東北部)で敗戦をむかえ、妹を背負い幼い私の手を引いて逃避行し、拘留生活を送り、戦死した父の村に引き揚げる。
村は、天皇という“天蓋”(仏像などの上にかざす蓋)がとれて、兵隊から帰ってきた若者たちで明るく活気づく。幼い私に夢、希望を抱かせた。
7年前、息子のケンタと、訪れた東ティモールの子どもたちの明るく生き生きとした姿が重なる。
石油を求める日本の応援を受けて侵略し、人口の3分の1の20万人を虐殺したインドネシア。
抵抗した東ティモールが24年にもわたるゲリラ闘争を経て独立してから、今年で10年になる。ゲリラ司令官のタウルさんが大統領になる。
日本は、侵略した反省なく、天蓋とることなく、敗戦というトラウマにとらわれた戦犯を首相にし、“国破れて山河あり”を捨て、原発に象徴される金経済・空資本におどらされて若者は都会へ。
私も母に連れられて。今や“国破れて、なお山河なし”である。
フクシマを経験している私たちは、きちんと侵略を反省し、天蓋を取り去り、山河・むらを再生しなくてはならない。
私は来訪の若者に、その先頭に立つのは「君ら百姓を志す者」だと、自らの“経験”から申す。幼い子たちに夢と希望を!
こういうのが欲しかった
神戸から「MK新聞で知った。“よみがえるむら”送ってください」と電話がある。「この時期に当を得た発行。知り合いにも渡したいので、とりあえず5冊よろしく」と滋賀の僧侶の大村さん。
東京の大賀さん「こういうのが欲しかった。友人・知人に配ります」と本の注文がある。
「現代のくらしのありさまの大元を問うて、回し読みします」と大阪の日野さんら。嬉しい。
おかげさまで、1,000部印刷し600余りが読者の元に届く。
あっ、「今時、部落差別なんて無い。差別だというのは、大森氏個人の想い。あ~す農場は衰退する」との便も大阪から届く。
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)