自給自足の山里から【147】「拝啓 菅直人総理大臣様」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【147】「拝啓 菅直人総理大臣様」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年5月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

拝啓 菅直人総理大臣様

ふきのとうにすみれ、はこべ。野の花たちが暖かい陽気に誘われ、やっと顔を見せ始めてくれた。この冬は大雪が3月まで続き、なかなか寒さが退かず、春の草たちの顔がまだ少なく、淋しい。まるで草たちも放射能を恐れ、顔を出しかねているように感じてしまう。これはそんな春の3月30日、知人を通し、菅首相へ送った手紙。

子どもたちの未来はどうなるのでしょう?

「この手紙を菅首相が本当に手にとり、読んで下さっているのなら、とても嬉しく思います。最後まで読んで頂けること、少しでも私たち、小さな子供をもつ母親の思いをわかって頂けることを祈り、この手紙を書きます。
今回の震災が起き、福島原発がこのような事態になり、ついに最も恐れていたことが現実になってしまいました。私には7才、4才、5ヶ月の3人の子どもがいます。この子たちを本当の意味で身も心も強い子に育てたい、と思い、なるべく他に依存をせず、自給自足の生活をしてきました。
家、田畑を作り、山から薪を調達し、体調を崩せば薬草を用い、出産はしっかりと自己管理して家族だけで産み、自分達が最も責任を持てる方法で家族を守ってきました。ところが放射能が私達のもとへ届いてしまったら、今までしてきたことは一体何だったのでしょう。この人間が作りだしてしまった怪物に対してどう家族を守ったらいいのでしょうか。
そして、子供達の未来は一体どうなるのでしょう。
想像してみて下さい。自分の子、孫達が放射能を体内にとりこみ、白血病や癌で苦しむところを・・・。大人はまだいいです。病気と戦い、死を待つだけですが、子供達は大人になり、子を産みます。そして、その子達と共に苦しみは続くのです。
そんな苦しみの遺産をまぶしい子供達に残していいのでしょうか。

原発が動くかぎり、子供たちに未来ない

仮に福島原発が何とか収まったとしても、日本にはまだ50基近い原発があります。
太平洋プレート・フィリピン海プレート・ユーラシアプレート・北米プレートがひしめき合い、多くの断層を持つ日本から地震のなくなる日はないでしょう。ほとんどの原発は地盤の弱い海岸沿いや断層の通っている所に建っています。
再び原発事故が起きる可能性は常にあるのです。原発が動いているかぎり、子供達に未来はありません。すでに高レベル放射性廃棄物は青森県六ヶ所村に3,000t、各地の原発でも行き場のない廃棄物が日々増え続けています。
アメリカ政府は「高レベル放射性廃棄物は(少なくても)100万年監視しなければならない」と発表しています。それだけの期間、完全に冷却し続けられるでしょうか。もうすでに未来は危険に満ちているのに、何故まだ増やし続けるのでしょうか。

それ程までに利益やお金が大切でしょうか。核を保持しないと国を守れないのでしょうか。
それらが子供達を守り、素晴らしい大人に育ててくれるのでしょうか。子供達を本当に豊かな人間にしてくれるのは、山、空、大地、風、虫、様々な生き物達・・・自然なのではないのでしょうか。この美しい自然に恵まれた日本を放射能で人間が台無しにしてしまっていいのでしょうか。そんな権利が人間にあるのでしょうか。

お願いします。総理大臣という素晴らしいお仕事を手にされた菅首相、その恵まれたお力を、今こそ子供達のために漬かって下さい!
それを成し遂げられたら、首相はいつの世までも立派な大臣であったと伝えられるでしょう。
政治の世界は私達が思う以上に過酷なものであると思います。しかし、どうか初心にかえり、国民、何より子供達へと想いをはせ、今すべきことを考え直してみて頂けないでしょうか。
私が考えることなど、総理はお分かりでしょうが、複雑な力関係の中、身動きがとれないのかも知れません。しかし、唯一、原爆をうけた日本。その国が、地球が、原発のためになくなることのないよう、放射能で苦しむ人々をまた生み出すことのないよう、経済が貧しくても、子供達が本当の笑顔を持てる心豊かな国になるよう、どうか、どうか、今一度考えてみて下さい。

日本の未来は、上に立つ人間の手にかかっています。私達国民は、日々真剣に思い悩み、精一杯行動しても、なかなか現状を変えることができません。原発を止めても電気に困らないことはわかっています。
今こそ、『原子炉廃止法案』を!! 全国、世界へ!! そして、福島原発がこれ以上の事態にならないよう、各国から援助頂き、食い止めて下さい。日本が変われば、世界も変わる、今がその時です。日本人が本来持っていた素晴らしい精神を取り戻し、共に真に豊かな国を作っていきたいのです。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。少しでも、一言でも、心にとまることを願っています。
そして、そのお力を子供達のために使って頂けることを、心から、心から、願っています。どうか、お願い致します」

つたなく、失礼な手紙かもしれないが、精一杯書いた。
危機迫る今、私にはこうして小さくてもできる行動をすること、放射能などについて学び、家族を守る対策をすること、日々、しっかり絵描き百姓の暮らしをし、身も心も鍛え直すことくらいしかできないが、日本人、皆で立ち上がり、原発を止め、国を、世界を変えたい!
なぜ、多くの人々はこの危機を自分のものとして感じとれないのだろうか。真実を知り、気付いて欲しい。知らないこと、動かないことは未来に対して罪を犯しているも同然!
原子炉運転した後に出てくる放射能は放射性物質のウラン鉱石に比べて一億倍。ウランを核分裂させ生み出すプルトニウムの半減期は2万4,110年。直後に健康に及ばなければいいのか。10年、20年先の健康は・・・!?
どうか、皆、共に動いてください。「風の谷のナウシカ」の世界が現実になってしまう前に・・・。

注:知人とは、父の高校同級生の江田五月さん。江田さんから「お手紙は、パンと共に菅首相に届けました」と便り届く。

 

あ~す農場

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兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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