自給自足の山里から【143】「金太郎の世界を夢見て」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【143】「金太郎の世界を夢見て」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

金太郎の世界を夢見て

金星が輝く山村

明けの明星」の金星が輝く山村の夜明け。星をはじくかのように、“コケッコッコー”の雄叫びが、冷たい空気を裂く。
戦争の20世紀をさよならしてゆかんとする21世紀も10年を過ぎんとす。
朝もやの中、夢うつつ、今日・12月8日は69年前の1941年、8人の若者(特攻隊)がアメリカの真珠湾に突っ込み、破壊し、人々を殺してしんだ。
1937年からの日中戦争は、41年の米英との太平洋戦争へ拡がる。翌42年4月18日には、東京をアメリカが空襲し、以降本土を無差別空襲。中国で日本軍は「殺し、焼き、奪い尽くす」の三光作戦を展開する。
戦争は「人間にとって、大教育者であり、人間は、これによって、自らの完成を遂げる」(鈴木大拙)。大地を、人間を破壊する。
金星は、この地球・人間を、どんな思いで見つめているのだろう。金星探査機・あかつきは、その思いを聞いたのだろうか? 失敗!?

山村、あ~す農場で遊ぶ幼子たち

雪は降らないが、冷えこむ。コンコンと斧で薪を細かく割り、薪ストーブに火を付け、部屋を暖め、豆炭(木炭粉末を、糊で卵形に固めたもの)をおこし、コタツを暖め、鉄瓶でお湯を沸かす。メラメラと動く赤い炎を見入る一刻は幸せである。
ガァ~、ガァ~、メェ~、メェ~、コケッコッコッと、外はお腹空かした家畜たちがにぎやかである。
隣のケンタ・好美の子のみのり(3歳)・なお(2歳)と、げん・りさ子の子のつくし(6歳)・すぎな(3歳)がやってくる。

アイガモ・ニワトリのエサやり・卵とり、山羊に草・豆殻などやっている。つくしが中心である。私が鍬を使うと、小さな鍬持ってきて真似る。小屋修理していると、落ちた釘を金槌で板に打ち付けているのはみのり。兄らの後をチョコチョコと追うなお。“お腹が空いたぁ”ととにかく泣き叫ぶすぎな。にぎやか。

24年前、ケンタら4人(1歳~7歳)が、キャァ~キャァ~と遊んでいた風景とダブる。
子どもがいなくなって久しい村(限界集落から廃村への道を辿りつつある村)に、子どもの声を聞いて、古老は「あんなに嬉しかったことはない。私が死んでもこの村は生き残る」と、私に言われたことが昨日のようによみがえる。
但馬への移住を支援する「いなか暮らし塾」(朝来市多々良木)の西垣塾長は、幼子らの遊ぶ風景見て「但馬で百姓四半世紀、子どもたちも百姓! 奇跡や!」と。「あ~す農場は、塾の大学院」と言うが、まだ1人も入学していない(笑)。

金太郎の世界を夢見る

娘たちが、石窯で2日がかりで焼く“日本一”の評判で有名な天然酵母パンのファンの青年が、「薪割り体験したい」とやってくる。薪で炊事・風呂・暖房を賄うげんが、手本を示す。
「職業柄、剣道しているが難しい」と、2時間ほど挑戦。ふと見ると、手の内にマメ。「青空の澄んだ空気の中、汗かいて気持ちいい」と笑顔。農場まわりの栗・柿の木の枝折っての“熊坐”見て、「そういえば先日、“熊がトンネルで坐っている”と2度3度。ほんまかなと行ってみると、いた! びっくり。怪我していた」という。
猟歴40年以上の畑さんが、げんの家の近くにワナを仕掛ける(ケンタ猟師、怪我で)。「こんなに猪・熊が里に出るのは初めて。山にエサ無い。異常。先日も豊岡で4頭、大尾が1頭、1日で捕まった。山に入っても猪はガリガリにやせている。子育てできず、子は餓死。鹿ら撃っても猟師老いて持ち出せず、翌日行くとすっかり猪・熊らに食べられている。猪の肉はくさくて食べられん」と。人間でも、肉食の人のウンチはくさいというからなるほどと妙に感心する。

「大森さん! 幼い子ら、気を付けて!」と忠告される。熊・猪・鹿らを友としての“金太郎”の世界、熊との共存は、山村の崩壊とともに崩れゆくのであろうか?

大地を破壊する戦争に加担しない生き方

この山村にあって、カネ、カネで身動きできない人から「こんな不景気やと戦争でも起こらんと・・・」の声が聞こえてくる。
朝鮮半島を巡って、延坪島での砲撃戦。黄海での米韓・日米軍事演習、中国の海軍増強などキナクサイ動きがある中で、不気味である。
先の戦争で、農山村の荒廃(若者・労力の退廃)を、朝鮮・台湾・中国・アジアへの侵略(植民地での楽園)へと転化し、先兵に農山村の若者が駆り出された・
但馬で「小学校の同級生男子24名のうち、17名が戦病死」〈『神戸ブンド・藤本敏夫のうた』(アットワークス)〉している。

アメリカの侵略戦争の続くアフガニスタンで、荒廃した大地に水路を引き、村の再生させている中村哲さん(ペシャワール会)は、日本の農山村の崩壊(それは、都市での若者の半数以上が、非正規労働で、3万を超える自殺・無縁死・野宿者の現状である)を前に、大学生・自衛隊の半分を、山村耕作隊として働くことを提案する(50年代の日本共産党の山村工作隊と混同しないでください)。
戦争による大地の破壊に加担しない生き方が求められている。

読者からの便り

「秋も深まり、紅葉も美しくなってきました。MK新聞11月1日号(第141回)に、黒い森と熊。但馬に25回目の稲刈り、拍手とともに読ませていただきました。
機械に依存し、堕落することを拒否する“縄文百姓”に、ブラク民としての誇りを表現していることに敬服いたします。寒さに向かう山の暮らし、一層ご自愛ください」。
感謝です。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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