自給自足の山里から【141】「ブラク民であることを誇るときがきた」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【141】「ブラク民であることを誇るときがきた」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年11月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

ブラク民であることを誇るときがきた

「大森さん、熊が家の裏にやってきた。こんなのはじめて」「この前、親子3頭が檻にかかった」「1日に5頭も捕えられたよ」「家の中に座り込んで出てこない熊も」「何人もけが人が出ている」など、下の村に降りると熊のことでもちきりである。
今年はドングリなど不作といっても、こんなことははじめてである。森林は実り少なく、不気味なほど静かである。森の王者・熊が平地に食を求めて降りていくのはかつての人類の姿である。でも今、そこには人間がいる。
「下の里まで降りてきて人を襲う。こんな奴! 殺したらいい! じゃが自然保護とかいって山に逃すんやから、もうやっておられん」の声が…。

森は人間の金(貨幣)を生産する「文明」活動により、今や金にならない杉桧の植林地は放棄され、“黒い森”と化け、「ナラ枯れ」らを呼び、杉桧以外の樹木・植物・動物らの生きられない世界になっている。
かつて(70年代)“1日1種消えている”と知ってびっくりしたものだが、今では1日何種が消えているのだろう? 知るのも恐ろしい。そのひとつに熊を加えていくのか? その行く手には、人類も…。

手ノコとオノで、杉桧を切り倒す

名古屋で生物多様性条約の会議が開かれている。会議も大切だが、生物の多様性を失った結果、熊は空腹に耐えかねて里のコンビニ(先日猪がコンビニに入り、食べ物をあさる様子がテレビに映っていた。添加物・毒入り弁当を食べた猪はいかなるものに化けるのか?)へ。その“空腹”に思いを馳せて、9月下旬1週間の断食をする。
また、10月に入って娘たち、大阪や鳥取から来訪の後藤さん・田中さんらと杉桧を手ノコとオノで、1本1本「ナムアミダブツ」と切り倒していく。かつての棚田に植えられて30年余りになり、切り口は40cmを超える。
杉桧には申し訳ないが、切った後、大地には太陽の光が射し、秋の風が吹き、微生物たちとともに植物・虫たち動き、鳥たちも帰ってくる気配である。お年寄りや孫たちも「明るくなったなあ」と嬉しそう。
それにしても、放棄した地主に金を払い、金にならない木を苦労して切り倒し、片付けていく“働き”に、我が高度成長期世代は「出費ばかりで」と冷ややかである。

「堕落したくないから、機械使わない」

私はこの地・但馬に来て、25回目の稲刈りする。始め1人だったが、今、子・孫そして都会からの青・壮・老の者たちとにぎやかである。この25年、ずーと稲刈り鎌で1束1束刈り、束ね、天日干しする。コンバインなどの機械は使わない。ケンタ(31歳)は「機械を使うのはよくない。1年の苦労してきたおいしいところを全てとられる気分になる」と言う。
中国の思想家はその著書『荘子』外篇の「天地」で「百姓は笑って言った。『機械を利用すれば、機械に頼る心(機心)が生まれる。機械に頼る心が生まれれば、生まれながらの心を失う。生まれながらの心を失えば、雑念が後を絶たなくなる』…堕落したくないから使わない」と表している。

嘘つき隠し、おどおどするのは終わりに
サベツを恐れるのはイヤ―カミングアウト
村崎太郎+栗原美知子さんの『橋はかかる』(ポプラ社)を雨の日に読んだ。
「四十七年もの間、暗闇のトンネルの中でもがいていた私が、やっと抜け出すことができた。嘘をついて生きたくない。こそこそと隠れたり、隠している事実に怯えたり、おどおど・びくびくするのは、もう終わりにしたい。もう差別されることを恐れるのはイヤだ」。
「私は、カミングアウト(部落を名乗ること)を決意した。妻の親、私の親、両方からの強い反対に遭いながらも、全ての人に正直に打ち明ける道を選んだ」「不安以上に、『やっと、日本を少し動かせるかもしれない』という期待感の方が強かった」。
「甘かった。…全く期待通りにはいかなかった。部落問題に対するタブー視の強さを思い知らされた」。
「『太郎さん、カミングアウトしたんですってね? どうしてですか?』普通にそう尋ねてもらえる展開を期待していた。『どうしてかって? 部落の問題は目を逸らす問題ではないでしょう? だから、私がまず発言してみたんですよ』。元気に明るくそう答える自分を想像していた」「でも…誰からも面と向かって尋ねてもらえない現実が、再び私を打ちのめした」と…。

村崎さんの言葉は、痛いほど胸に響く

ブラク民であることを誇るときがきた

私は30歳の時、妹の自殺(幸い助かる)で母からブラク出身を知らされる。いきなり、サベツは人を殺すという現実に打ちのめされ、母は私が自殺するのではないかと心配する。
気を取り直した私は妹とともに部落に住み暮らし、運動に参加する中で、「ブラク出身だから、どうした!」と思うようになる。それとともに『われわれがエタ(ブラク民)であることを誇るときがきた』(水平社宣言)が気になっていた。25年前、山国日本の源、山村のブラクに移住し、古老から“崩壊前夜のこの社会を糺すのは、縄文百姓”を学び知る。この縄文百姓に“ブラク民であることを誇るときがきた”を見出す。
私は10年ほど前から本・雑誌・テレビ(※注)でカミングアウトしている。子ども・孫らが私たちのような“め”に合わないように“誇りを持って”生きる思いである。

※注:「6人の子どもと山村に生きる」(麦秋社)、「自給自足の山里から」(北斗出版)。ともに絶版。あ~す農場に少し在庫あり。
フジテレビノンフィクション番組『我ら百姓家族』①~⑥

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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