自給自足の山里から【136】「山が気付かせてくれた大切なもの」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【136】「山が気付かせてくれた大切なもの」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年6月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

山が気付かせてくれた大切なもの

赤ん坊のような小さな可愛らしい新芽が少しずつ美しい若葉に成長して行くにつれ、私の身体も冬から春へと目覚め、ふと心も一山越えたように思い、振り返ってみると朝日の山へ来て8年。10年はたたないと箔がつかないが、辛く感じていたことが辛くなくなってきたことに、少しは自分の成長を認めても良いのだろうか。
百姓仕事を辛く思ったことは一度もない。むしろ草刈りなどし、大地に触れることで助けられてきた。陰の心を大地が吸いとり、風が吹き流し、山や空がおおらかな心を思い出させてくれた。どこにいても難しいのは人間。嫁、妻、母となり、新しい付き合いに、自分がより広く深い心を持ち、人のために我を忘れることを必要とされた。人として最も大切な思いやりの心。それを育てる機会を与えられ、いい修行をさせていただいてきた。自然の中、物少なく助け合い暮らしていると、よりそんな心を大切にできる。それに田畑を耕し、山から薪木をいただき、体調を崩せば草木の力を借りて暮らしていると、必要なこと、不必要なこともよく分かってきて、自然なものを自然と感じ、不自然なものを不自然と感じ、不自然なもの、不必要なことを受け入れない力がついてくる。

衣食住、燃料、医療そして教育

そして今、不自然と感じていたことに向き合う時期のきた2つのこと。1つは6歳になったつくしの小学校入学。朝日の村には子供がいないので、つくしを幼稚園に通わせてみたことがあった。
初めてたくさんの子と交わり、楽しさもあったが、毎日同じ時間で区切られ、同じ敷地で、皆と同じようにしなければならないことに疲れを見せ始めた。「つくしにとって一番良い過ごし方とは・・・」と夫のげんと悩み、ホームスクーリングする家庭や学校へ通わせずに子を育て上げた夫婦などを訪ねた。どの家族も家で学び、育てることを前向きに選んだ家庭。この出会いで、自分たちが感じていた直感とつくしの力を信じていいと確信できた。

同じ齢の子だけを1つの部屋へ集め、同じペースで、同じことを学ぶことの不自然さ。大人の時間を押しつけず、子供が心から興味を抱いた時に発揮する集中力と吸収力。
日頃押さえつけていたら、その力を充分に発揮することはできないだろう。自然の中で豊かに暮らしていたらその時、きっと発揮する。それを待つべきではないだろうか。

衣食住、燃料、医療をほぼ自給する暮らしの中、なぜ教育だけ依存しなければならないのか。山や田畑がつくしにたくさんのことを伝えようとしている。百姓する父母の隣で兄弟と遊び、時にじっと親を観察し、さっと自分のできる手伝いをするようにもなってきた。そうやって生きる力を学んでいくのではないだろうか。
知識をつめこみ、遊びや生活から学ぶことの減った子供はまるで小さな大人のよう。早く大人になるようスキップしてしまうと、大人になれない部分ができてしまう。私たちの暮らしには山と百姓仕事がついているからこそ、ともにのんびり豊かに、皆と同じことができるようになるのではなく、足りないことに気付き、補えるような思いやりのある人に育てていきたい。自然の中、百姓仕事の中で育つからこそ培える優しさ、賢さ。げんを見ていれば、それは充分に伝わってくる。

ちゃんと自分で産める

そして、もう1つは出産。3人目の命をお腹に頂いた。つくしとすぎなの出産でも学び、喜びはあったが、多くの妥協もあった。今度こそ納得のいくお産をしたい。
毎月病院へ行き、お腹をのぞきこむのは子に失礼に感じる。子が伝えてくれる「気」を信じられないかのよう。きちんと自分の身体と心、お腹の子に耳を澄ましていたら、異常は感じるはず。科学に頼りすぎたら、自分の感覚が衰えてしまう。田畑仕事をし、穫れたものを食べ、薪を割り火を焚き、自分の力を使って暮らしていれば子はちゃんと自分で産める。
それに山とともに生きていると、たくさんの力を自然から頂く。その力が生命力となり、不自然なものに依存することなく、成すべきことをやり遂げる自信に繋がる。母親が怯えることなく、おおらかに力を発揮できる状態を整えておくことが大切なのだ。そうして初めて、赤ん坊も安心して力を発揮することができる。そんな出産を一番安心できる自宅で、家族だけでするために、今私は妊婦検診は受けず、山の恵みを受け、出産へ向かっている。

そうして1つずつ、山が気付かせてくれてきた。山から伝わってくる美しい歌、爽やかな歌、悲しみの歌、様々な歌に乗せて。しかし、未熟な私には聞こえていない歌、見えていないもの、気付いていないことがまだまだたくさんある。こんなに素晴らしい山にいながらもったいないが、これから知る、学ぶ喜びがあるのだから楽しみだ。
自然と音楽を奏でるように暮らす中、聞こえてきた歌を画布に描きとめていきたい。日々を重ねるうちに深まる音楽、家族との絆、自然との絆。この素晴らしい環境に感謝であふれる思い。山、百姓、みんなが教えてくれた大切なこと。それを繋げていくことが私の成すべきこと。子へ、社会へ、自然へ、世界へ。皆の平和と幸せを想って・・・。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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