山の一家*葉根舎「葉根たより」【18】|MK新聞連載記事

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山の一家*葉根舎「葉根たより」【18】|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2018年6月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

葉根たより

あヒュルリリリリ… 家の前の川辺で、河鹿たちが楽しそうに唄い始めました。
田んぼの季節になったな、と感じます。
山は光に透ける新緑が美しく、藤紫の藤の花、薄紅の谷(たに)空木(うつぎ)、ぽってりとした乳白色の朴(ほお)の花と響きあっています。
霧のような雨に白くけむり、ぼんやりとした風景もまた幻想的。

立春から数えて八十八日目になる八十八夜、そして立夏を迎え、あっという間に初夏に入りました。
でも、まだ肌寒い日も多い季節。
五月十五日の新月から二十九日の満月にかけては吸収力が高まるので、玄米や雑穀、新ゴボウなどの根菜類でお腹を温めましょう。

「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」「蚯蚓出(みみずいずる)」「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」
蛙が鳴き始め、蚯蚓も顔を出し、蚕さんは桑の葉を食べ始める頃。
もぞもぞと、土のまわりで命が動き出したことを感じます。

<田んぼ始動>

田んぼも忙しくなりました。
種もみは脱毛、唐箕(とうみ)、温湯消毒、浸水、そして芽だし、種まき。
田は荒起こし、畔(あぜ)草刈り、畔切り、水を入れて練り、畔塗、二回の代掻きを十五枚の棚田に。
加えて、山から引いている水路や獣対策の柵も直します。
とても手がかかり、夫のげんは一番腰にくる季節だけど、「この一つ一つを毎年しっかりすることで、大雨が降っても痛まない、きれいな水でのびのび育つ田を維持できる」と、言っています。

私は家の仕事をきちんとしつつ、笑顔とおいしく元気になる旬のかまど野草料理で支えるよう努める日々です。

<ゴールデンウィーク>

我が家のゴールデンウィークは、出かけるより迎える日々。
父の同僚の方が大きなバイクで東京からいらしたので、山の野草料理や五右衛門風呂をふるまったり、かまど野草料理教室を開き、大阪や京都からいらっしゃった方々と初夏の山を味わったり。

子供たちは屋根の上! 紙飛行機にはまり、じゃんじゃん作り、屋根の上から飛ばしあっています。
キャッチボールも好きになり、げんが相手をしてあげることがありますが、三人相手はかなり疲れるそう。
子供たちと遊ぶ時間も大切にしたいけれど、田畑も進めなくてはならないので悩みつつ、今、その瞬間を大切に過ごしています。

<母一人、アートな旅>

私は4月中旬に和知で森の展示室、下旬に銀座で小品展に参加し、久しぶりに東京へ行ってきました。
行きには愛知の友人宅にも寄りました。
子育てをしながらアートプログラムを展開する彼女が、同世代の建築家の女性と四年かけて話し合い、出来上がった新居を見たくて。アートと社会、子育て、暮らしのことなど話は尽きず、お互いにこれからの活動の想像が膨らみました。
東京では、卒業以来会っていなかった先輩が飲み会を開いてくれました。
作家、宮司、鍼灸師など、美大を出て様々な職についているけれど、暮らしの中で大切にしていることに共通点があるように感じました。

美術館、ギャラリー、見たいもの、会いたい人にあふれていて、ご飯を食べることも忘れ時間の許す限りまわる、アートいっぱいの旅。
安心して没頭できるのは、げんのおかげ。
田んぼが忙しいにもかかわらず、私が本当に行きたい時はあっさり行かせてくれる潔さをいつも尊敬します。
だから、帰宅しても子供たちはいつも通り。
夫婦の安定は、そのまま子供の安定に繋がります。
私たちにとって、その根っこには大地に根差した暮らしがあるからこそ。
安心して元気になれる食、のびのびとできる自然環境、山と家族と共に積み重ねてきた時間。
ありがたいことにあふれているからこそ、いいものを作りだし、いい循環を広げていきたいです。

<笑顔への一歩>

今年は個展や展示が続き、お醤油仕込みができていませんでした。
本来は寒の水の時期にすべきですが、五月にお醤油作りと野草料理教室をすることになりました。
五月上旬の野草料理教室の時に、昨年みんなで仕込んだお醤油を持ち寄って味比べをし、それぞれにおいしかったのでまた来年のお味も楽しみです。参加者してくださった方々が、それぞれの家庭で本当に元気になる食を家族と楽しみ、笑顔が広がっていくことを願い教室を開いています。

六月四日は京都市の堺町画廊で「保養キャンプ応援チャリティ」が開催され、私も作品と商品を出展します。
同じ日本で、のびのびと外で遊べない子がいるという理不尽な今。
自分の暮らしがありがたいと感じる一方で、ただ喜んではいられない想いが込み上げてきます。
子供たちの笑顔を増やすための一歩を、たくさんの方と踏み出せたらと思います。
楽しい出店と講演会。
大きな一歩に繋がりますように。

(2018年5月10日記)

■葉根舎

haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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