自給自足の山里から【126】「青い空に戦争の風」|MK新聞連載記事

よみもの
自給自足の山里から【126】「青い空に戦争の風」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年7月16日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

青い空に戦争の風

桜、菜の花咲き乱れる暖かい春の陽気が続いたあと、冷たい雨が降り出した4月の終わり。寒さより美しさを見つめ、「雨の山がきれい」と言ってくれたのは、『世界がもし100人の村だったら』を出版された池田香代子さん。去年の夏、近くの町で講演された時に声を掛けたご縁で、お話会とお泊まりの物々交換(?)をすることに!
彼女とゆっくり過ごせること、彼女のお話を身近な人に聞いてもらえることが嬉しくてわくわく。百姓仲間はもちろん、近所なのに価値観の差を感じる人たちに来てほしい。農場に来るのは、東京、大阪など遠くからの方が多い。それも嬉しいけれど、日頃、顔を合わせているけれど伝わらない思い。
池田さんがいらっしゃったのは、小雨降る、肌寒い4月25日。農場案内し、翌日の10時から2時間のお話会。広げた20畳の部屋にちょうどいい、30名ほど、赤ん坊からお年寄りまで集まる。今日は丹波の方が多い。村のおじいさんは1人来てくれた。隣村(朝日の山の麓)の人は・・・やっぱりいない。百姓仲間はいつも駆けつけてくれる。
池田さんは、大きな会場では話さないような思いも語ってくださった。心に響いた。お仕事で行かれたイースター島、タヒチ島のお話からゴーギャンのこと、ヤシの実のように島から島へ辿り着いてきたのであろう祖先のこと、というのはタヒチ島の礼拝所と伊勢神宮がよく似ていたから。人類のつながりへの思い。私たちは知らなすぎる。過去のことも、未来のことも。今、起こっていることでさえ! どんな経過で自分はここにいるのか。このままでは世界はどうなっていくのか。
おかしい、と感じたら納得いくまで調べ上げる池田さん。ある日、「日本の子どもたちが悪い子ですって!? そんなことはないはず!」と調べたところ、50年前の子に比べ、凶悪化、低年齢化、増加、していなかった。しかも、他国より少年犯罪少なく、「なぜ日本の子どもはいい子なのか」と研究されるほど。自分たちは悪い子なんだ、と思わせてはいけない。子どもたちを守り続ける、強く、優しい、知的な女性。知りたくないこともたくさんあるけれど、知らなくては恐ろしいことになる今。もっとみんなに知ってほしい。感じてほしい。

2週間後に計画していた、南への旅の前に会えてよかった。沖縄と奄美大島への母と子、2週間の旅途中、フェリーも乗り、島から島へ生きる地を求めた人、密航してでも故郷へ渡ろうとした人へ思いを馳せた。深い傷を抱えた美しい島々と、たくさんの涙を流してきた人々のあたたかさ。
沖縄南部には、小さな神の島―久高島がある。ニライヤナイ遥拝、琉球開闢、五穀発祥の聖地。怖いくらいの神聖さに満ちたとても美しい島。最近観光客が増えたが、「ここに来ると皆、いい顔になるから、迷惑なんてない。」なんてさらっと言う。明るいおおらかさがまぶしかった。
沖縄北部には、その名の通り、山の海原のような水と緑の豊かな森、山原の森。ここでしか生きていけない、ヤンバルクイナやノグチゲラもいる、生物多様性に富んだ森。この美しい森に米軍の訓練所がある。沖縄本土生活用水の60%をまかなう森。ダムからは投棄された弾薬類が1万発以上。日本側の森では護岸工事、道路舗装に不必要な下伐りで、絶滅に瀕する生き物が増加。今、山原に返環と称した基地の尖鋭化と再編強化を図った計画がある。今でもヘリの飛び交う村の周辺に、さらにヘリパッドを増やそうとする国。住民たちは生活を犠牲にし座り込みによる工事阻止行動を続けている。森と生活、子どもたちの未来を守るために。この村に住む友人たちは、このコントラストの下で、笑顔と歌と宴とともに支え合っていた。
そして、戦争の傷跡。私は記念碑でなく、何もない、サトウキビとタバコの畑と青い空に戦争の風を感じた。大切な畑に乗り上げる戦車。美しい空を飛び交う弾。なぜか、畑を吹く風が教えてくれた。悲しみをリアルに・・・。

私が尊敬する画家、田中一村が生きた奄美大島では、密航の傷、測候所の保護などの身近な問題に向き合う、素敵な女性達に出会った。
南の豊かな自然、あたたかく、ゆったりとした人々に触れ、たくさんの魅力を感じたが、我が山への恋しさも募った。子どもたちも。後半はつくし(5歳)もすぎな(2歳)も疲れがたまり、夕方になると機嫌と体調が悪くなる。毎晩、しょうが湿布などの手当てをするが、何もない時は自分の手だけが頼り。本気で手を当てると驚くほど、元気になった。人間って何もない方が本当の力を出せるんだ。物への依存で弱まる生きる力。物少ない素敵な生活をする女性に出会った。いやだ、と感じたものは取り入れず、工夫する。その暮らしにはいい風が吹いていた。少しでいい。食べる物、使う物。消費量が減れば、作る量、稼ぐ量、少しでいい。そうしたら、もっとゆったりと過ごせるはず。
小さな自分にできることは小さいけれど、今溢れている問題は小さなことが絡み合い、膨れあがっている。絡まった糸を解くように、小さなことから始めたらいい。誰がどんな風に作った物か想像して選ぶこと。食べ過ぎない、使いすぎないこと。おかしい、と感じたら向き合うこと。伝えること。家族、友人を大切に、ゆったりと過ごすこと。
旅から帰った私たちを迎えてくれた、我が山。南国の自然に向き合ったことで見えてくる、違う表情。いつの間にかこの山こそが郷になっていた。この地でゆっくり向き合っていこう。これからの暮らしのイメージが少し見えた旅だった。今しかない時を付き合ってくれた、つくし、すぎな、ありがとう。家と田畑を守り、帰りを待ってくれていた夫のげん、ありがとう。そして、お世話になった優しいみんな、本当にありがとう。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。