自給自足の山里から【121】「四人の孫の未来は?」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【121】「四人の孫の未来は?」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年1月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

四人の孫の未来は?

都会から山村に移住して四半世紀

早いもので、都会から山村に移り住んで、四半世紀になる。25年前の1984年の秋、山間(やまあい)の黄金(こがね)色の稲波が鮮明に記憶に残る。地球は、オゾン層に穴が開き、世界は、ソ連崩壊に進む時代で、国内は農山村の崩壊とともにバブル期を迎えようとしていた。
私は、都会で病んだ家族の健康回復とともに、山国日本の源、山村の再生健康を願い期して、廃村の危機にある但馬(たじま)(兵庫県北部)の寒村に家族で移住する。
鎌と鍬を持って畑に出る都会からのにわか百姓はめずらしく、恰好(かつこう)の噂の種になる。親の遺産があるらしい(親は生きている!)と「お金貸して」と来る者や、警察筋から過激派だったと教えられて「爆弾作っているってホント?」と夜中に訪ねる村人などにぎやか。よく「働き口を紹介する」と言われるが、「自給自足の百姓やりたい」と断る。
都会で、有機農産物を金持ちに、排気(毒)ガスをまきちらかしての配送・賃労働を止め糺しての百姓を志願する私に妥協はない。だが、働きに行かぬ者は村(ひ)人(と)でないとばかりに排斥の動きあり、大家に圧力をかけ、二度借家を変わる。

ブラクのお年寄りから学ぶ縄文百姓

にわか百姓の私を見るに見かねて、山間のブラク(被差別部落)のお年寄りが、なにかと教えてくれた。鎌、鍬、鉈(ナタ)、斧(ヨキ)などの使い方、山菜の採り方、稲・野菜や薪の作り方、石垣の組み方、竹での山羊小屋作り、炭やきなど、山村での暮らし方、知恵を学んだ。
このブラクで、耕地整理事業で掘った時、縄文の遺跡が出たという。二万年にわたって平和を築いた縄文の息吹きを、お年寄りの生き方の中に感じ、感動した。その自給自足の暮らしは、縄文以来の歴史を持つもので、基(もと)は変わっていない。
官僚や学者から、労働者にも農民にも「分類」されず“雑(ざつ)の者”とされたブラクの民(たみ)に、脈々と百姓の魂が息づいていた。この縄文百姓こそ、山村を再生させられると思い至った。それは、学者、芸術家らの空論になりがちな話ではない。断食博士の故・甲田光雄さんは「崩壊寸前のこの社会を立て直すのは、縄文と百姓である」と言った。

若い縄文百姓でよみがえる限界集落

第一子のケンタ(30)は、二児の父親で、米・野菜作り、炭やき、大工、猟などを好美とこなす「くまたろう農園」。
第二子のげん(27)も二児の父親で、米・野菜とともに蜜蜂飼い、木工などを百姓絵描きのりさ子と「あさって農園工房」。
第三子のユキト(25)は、17歳の時、都会に出たが、今は帰り、小さな家に住み、休耕田を耕し米作り、酒造りの蔵人。三人とも同じこの村に住み暮らす。
都会で生まれた男たちに対し、山村(ここ)で生まれ育った三人娘は、独立していった兄らに代わって、米・野菜作りはもちろん、鶏、山羊、豚、バイオガス、水力発電、炭やき、来訪の「居候」らの世話など「あ~す農場」を切り盛りする。
その合間によく海外へ旅する。ちえ(22)は、13歳の時のネパール以来、フィリピン、キューバ、東ティモール、そして今春から中南米各地を旅している。
れい・あい(双子・19)は、17歳でキューバ、今、れいは中南米にいる。なんでも娘たちは、海外で、あ~す農場を宣伝しているとか。

大恐慌の中、賃労働が破壊され、山村も、今や限界集落は七千余、そのうち二千余が消えゆかんとする。この時代にあって、賃労働を糺し得る若い縄文百姓に明日を期したい。
1982年の朝日新聞は、我が村は「消えゆく」とルポ記事を載せ、四半世紀後の2006年12月31日には一ページカラーで「究極の自給自足」「縄文百姓の志」「よみがえる限界集落」の見出しで紹介される。

第二・第三のあ~す農場を!

私には、今、四人の孫(0~4歳)がいる。この子らの四半世紀後の地球、世界、日本、そしてこの山村はどうなっているだろうか。思えば、私が山村(ここ)に移住した1984年の四半世紀前は1959年。
キューバ革命の勝利、六〇年安保闘争の先頭を担ったブント(共産主義者同盟)が結成された年である。
樺(かんば)美智子さんが亡くなった国会デモに参加以降、新左翼運動に青春をかける。
しかし、「友を殺め、絶望を与える君が、愛せし歌は『希望』」(坂口弘の詩)の「君」である連合赤軍の森恒夫君は、後輩である。ともすると、森個人に責任があるように言われるが、問われたのは、私たちである。
私は地球環境が悪化し、環境戦争の中、あ~す農場から巣立っていく我が子や孫、来訪「居候」の若者たちに「希望」を見出したい。第二・第三のあ~す農場を! そして無数のあ~す農場を! 世界に!

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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