自給自足の山里から【116】「ないない尽くしのエエかげん」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【116】「ないない尽くしのエエかげん」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年8月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

ないない尽くしのエエかげん

汗と泥にまみれての田草取りとサミット

今年の夏は異常に暑い。お山の濃緑の樹々、野のピンク・白・黄の草花、鹿猪たち、我が鶏豚山羊たち、田畑の稲・野菜らげんなりしている。稲・野菜に木酢液で元気づける。ハス畑では真紅の蓮花が咲き乱れ、トマトもまっ赤がうれしい。
鶏のエサ狙う白鼻心(ハクビシン)をケンタ(第一子、29歳、同じ村で百姓。十一月には二児の父に)わな猟で仕留め、居候の河野君(37歳、アトピー一ヵ月で完治し、昨夏から百姓体験中)ほっとする。
ツバメが玄関天井の巣で卵産むが、青大将にやられ去る。さみしい。老猫が四匹産む。足元をちょろちょろする。我が有精卵をふ(・)化させる試みも始まる。
げん(第二子、27歳、同じ村で百姓。二児の父)と孫のすぎな(1歳)がヤケドするが、東條百合子さんの「自然療法」で治る。
居候の大輔君(25歳)は、げんの指導の下、養蜂に挑戦中。第三子のユキト(24歳、同村で独立)は、七月二十八日からから二ヵ月、アラスカで大工仕事。

地方からの大量の若者で警備させ、冷房の部屋で豪華な食事のサミット(地球温暖化、食糧問題を討議とか)を横に見ながら、昨秋から貯水の不耕起田んぼを含めて、五反(五十アール)の田草取り、二反(二十アール)の畑・畦の草刈りに、連日、娘たち(あい・れい、18歳、双子)、百姓体験居候の若者(今、ビルマのボーボーハン君入れて五人)と汗と泥にまみれている。

鉛筆では、手紙書けない

東京からやってきた広君(39歳)は、十日間予定を四日目で急に「こんなに体力がないとは思ってなかった。迷惑をかけるので帰ります」と。
大手の化粧品会社で働く。コンピュータ使って、トヨタ方式と言われる在庫なしの商品管理が仕事である。四・五月は一日三時間睡眠が続き、「手足が鉛のようになり動かなくなり」精神(こころ)を病み入院。退院後、医者の紹介でやってきた。「思えば、ただ会社のために、ロボットのように働いてきた」と振り返る。
しかし「もう少し体力回復させて、百姓を志したら」ともちかけるが、「ずーっとコンピュータとともに生きてきた。仕事といったらコンピュータ使うこと。例えば鉛筆では手紙を書けない。会社のことが気になる」と真面目である。
三日間、大汗を出し、ちょっとすっきりした表情で帰る。「私を紹介した医者に、まず、あ~す農場に来るように言います」と笑う。
六月にも、私の本(注①)を読んだ母親の縁で「一週間居候させてください」と阪君(30歳)が、京都から来訪。滞在中は薬を飲まなかったが、三日で「体が動かない」と帰る。心優しき青年で「また来ます」と微笑む。
名古屋から「私はうつ」と寛君(32歳)は、昨年から時折来訪する。「ここにいると頭痛がとれます」と言い、今、自給自足の百姓のできる場を探す。

学校でも塾でもない

東京から朝日新聞(注②)読んだ父親に連れられてやってきて、一ヵ月いた不登校中学生は、すっかり元気になり、父が迎えに来た。「将来、百姓やりたい」と言う。さてどうなるやら。
野宿生活していて、図書館で私の本(注①)読んでやってきた18歳の若者は、一ヵ月半いて、すっかり元気になり、笑いも生まれ、「自給自足を目指します」と、旅に出る。「今、北海道にいます」と電話が入る。
我が農場は、学校でも塾でもない。行政などからの補助などない。規則なぞない。教師もいない。試験もない。このないない尽くし、ええかげんさが今の若者は苦手と言う。
ただ、私がそうであったように、この日本(くに)の源山村で、生きとし生けるものとともに日々働き生き過ごすなかで、都会での己を振り返り、自らを律して“百姓”として生きていく“志”を持ってほしいと願う。
七月十二・三日、和歌山すさみ町での「第10回熊野出会いの会」で、京都綾部市長の四方さんに会う。
勤めていた三菱を解雇され、撤回させるたたかいを支援したことあり、なつかしかった。今、限界集落の再生に市長として取り組む。
「講演」を聞く。私も「縄文の志持つ百姓の手でよみがえる限界集落」を特別報告する。「役人・金によらない試みに考えさせられた」の声が寄せられる。

このすさみ町で、二人の子とともに自給自足の百姓やっているかつての「居候」の浅田君を訪ねる。山村の奥の家を修理しつつ、五十羽の鶏を飼う。これから、豚・山羊も飼うという。四半世紀前の自分の姿を思う。Iターン、Uターンの若者たちと限界集落の再生に取り組む姿に拍手である。

昨年のYaeライブにつづいて

長女のちえ(22歳)は、南米のメキシコ、キューバ、ペルーなどを旅している。そのペルーから日本に来て十年のブラウリオさんとウルベンさん(大阪を中心に日本全国でコンサート、路上ライブで活躍中)を呼んで“アンデスペルー・風の声”ライブを、あ~す農場で八月二十七日(水)に開催する。あい・れいの主催。「朝日の山で、アンデスの風を感じ、ともに踊り、楽しみましょう!」と呼びかける。

そんな折、私の尊敬する名医の大阪の甲田光雄さん(83歳)から、「日本の国は、このままではもう崩壊です。これを救うのは大森昌也様だけですよ。大森様が内閣総理大臣になって、この社会を根本的に徹底して改革し、あ~す農場の理念に基づいて、ほんまものの社会をつくってください。どうかよろしくお願い申しあげます」の便りが届く。全く恐縮です。

注① 『自給自足の山里から』(北斗出版)、『六人の子どもと山村に生きる』(麦秋社)
注② 朝日新聞2006年12月31日号「よみがえる限界集落(環境ルネッサンス)」(カラー一ページ)

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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