自給自足の山里から【105】「風の中でYaeのライブ」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【105】「風の中でYaeのライブ」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2007年9月16日号の掲載記事です。

大森あいさんの執筆です。

風の中でYaeのライブ

蝉(せみ)たちがミーン・ミーンと鳴くとても天気のいい8月10日に、私の暮らす山村(むら)の“あ~す農場”で、母屋の部屋の障子を外した三十二畳の広間を会場にして、『Yae(やえ)トーク&ライブ』をした。百人ほど集まった。
Yaeさん(30)は、故・藤本敏夫と歌手・加藤登紀子さんの次女で、本名は藤本八恵。1999年から本格的に歌手として活動を始め、現在まで三枚のシングルCDと四枚のアルバムCDを出し、ラジオのパーソナリティなど務めながら、ライブ中心に、全国的に活躍中。特に農山漁村を巡っている。
私(17歳)がYaeさんに出会ったのは、四月頃、「福井で脱原発のお祭りをやるよ」と教えられ、双子のれいと出席した時。
「あえて都会でなく、農山漁村で、土に生きている人たちに、もっと土と生きる喜びを! 心に種をまこう」のトークと歌と聞いた。ぜひ、あ~す農場に来て欲しいとと思った。
百姓仲間やいろんな人たちにYaeさんの歌とトークを聞いて、もっと土と人のつながりを感じ考えて欲しい。身体(からだ)をゆっくり休めるような一時(ひととき)を過ごしたい。

姉のちえ(21)やりさ子さん(げん兄のつれ)、よしみさん(ケンタ兄のつれ)や康平君(ありがととんぼ農園)らに相談したら、「やろう」と言ってくれた。Yaeさんのマネージャーの池上さんに連絡とり、8月10日にすることが決まった。一ヵ月ほど前のこと。しかも、ライブの主催は私ということになった。
初めてのことで、ライブの準備はどうしたらいいのかわからず困っていると、大阪の友達がエアルというバンドを組んでいて、マイクやいろんなものを貸してくれた。
障子を外しての会場づくりは、お父さんや兄貴らも手伝ってくれた。当日は、四時半開場五時開演なので、お腹が空くだろうと、食べ物を用意することにした。
りさ子さん、よしみさんらも手伝ってくれて、“あ~す農場の恵み”(完全無農薬・無化学肥料のお米・野菜、自然卵、石窯で焼いた天然酵母パンなど)でおいしい物を作って、子どもたちが安心して食べられるようにした。

百姓仲間が、手づくりの食べ物やいろいろ持ってきてくれてうれしかった。ケンタ・げん兄、康平君がバイトする地元の小さな酒蔵の純米酒も。
前座で歌うエアルが、リハーサルをやった。その歌は、都会で歌っている時よりずーっとステキだった。目の前に田んぼや畑や豚・山羊・鶏たちがいる中で歌うのと、都会の中で歌うのはちがう。
山村の風・空気を感じるから自然に心が和むのかもしれない。
げん兄が、駅まで迎え、二歳の男の子をつれ、マネージャーの池上さん、ギターのカイさんとやってきた。
開演の前に、お父さんが、田んぼ畑、動物たち、パン焼き小屋、バイオガスプラント、水力発電、図書館などあ~す農場を案内し、自給自足自立の百姓の実際をみてもらう。
なんでも、Yaeさんのお父さん(故・藤本敏夫)と、私の父は、昔、同じ政治組織(関西ブント)で活動していて、旧知の仲とのこと。
Yaeさんに、父は「あなたのお父さんは、こんな農場を家族でやりたかったようで、少しうらやましがられた」と話しているのが心に残った。

五時過ぎ、いよいよ開演。五十人集まればいいかなと思っていたら、百人くらい来てくれ、びっくり。若い人たちが六十人くらいで、子どもら二十人がワイワイにぎやか。お父さんの年代の人たちが二十人くらいでお酒でよい気分。
司会は、ちえ姉とりさ子さん。前座でエアルが歌い、飛び入りで“自給自足の歌”(お父さんの『六人の子どもと山村に生きる』麦秋社 を読んで出来た曲)を、大阪のまつばらさんが歌う。途中でハプニングでマイクの音が出なくなった。それでも声を出し、マイクなしで声はとどいた。
そして、Yaeさんのライブが始まる。気持ちよい風がすぅーと入ってきて、人の声も落ち着き、子どもの声であふれていた。
歌は、本当によかった。やさしさ、つよさ、母、そんな感じがとてもすてきだった。Yaeさんは「十七歳の主催者は初めて。山の中に、こんなに若い人が集まっていて、子どもたちもたくさんいてびっくりしている」と。
また、お腹に二人目の子どもがいて、つわりも。けれど、「つわりも歌ってふきとばそう」とパワフルですてきだった。

トークの中で、四百年の巨樹たちが紙にするため伐採され、その後はまるで戦場のようだったという話があった。その樹への想いをこめて歌う。なによりも伝えたいのは波動だという。彼女の送る波動はまるで山の空気のように、身体に心地よくみんなに伝わったと思う。
けれど、子どもの頃はきっとよく笑い、よく動いたのに、学校・大学に行き、全身で心で感じることを忘れ、頭で歌を聞いている来訪の大学生の姿を見て、哀しく思った。
百姓仲間たちは、帰る時に、「すごい! よかったよ! ありがとう!」と声をかけてくれた。うれしかった。
“六ヶ所村再処理工場の十一月からの本格操業を止めよう”の署名は、Yaeさんも声をかけてくれて、たくさん集まった。
とても長い一日だったが、本当に最高の一日を過ごせた。Yaeさんには心から感謝!
この日の夜は、流れ星がたくさん飛んでいた。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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