自給自足の山里から【93】「周りの自然の異変」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【93】「周りの自然の異変」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2006年9月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

周りの自然の異変

「山羊が、エサやっても、やって来ない」と泣きべその宙命(12歳)。沖縄から「体験居候」である。いつも世話しているあい・れい(双子16歳)が、フランスからやってきたキアラ(16歳)、イネーザ(10歳)ちゃんらと鳥取の大山登山に行っている間(8月10日)のことである。
友紀さん(26歳)と世話する。小屋の奥でうずくまり、冷たくなっていた。「昨日エサやった時は、元気だったのになぁ」と呟く二人。
モールと名付けられたこのモンゴル山羊は、オスで四歳。ともえ(メス12歳)の相方として、一昨年の秋やってきた。気性の激しいオスで、早速、角を振り突く、ともえも応じる。
そのうち仲良くなるだろうと思っていたが、翌日ともえが血みどろ。あわてて別の小屋に移す。残念ながら翌日、我が但馬に大被害をもたらした23号台風の日に死す。
そんなこともあったが、昨年来たもえ(メス2歳)の相方として、この秋期待されていたのだが。

帰ってきたれいは、青い夏空を見上げながら、「モンゴルの草原に帰っていったんや」と呟く。近くに家を構えたユキト(22歳)の手借り、柿の木の下に葬る。「あい・れいが急にいなくなり気弱になったんやなぁ」とちえ(20歳)。
子ども・「体験居候」の青年たちは、死と身近に接し、その痛み・悲しみを、自らのものとして感じ、他人を思う心を持ち、「内なる自然」を自覚し、硬いコンピュータ感覚を糺すを期待したい。
植物草々、虫たちの死にも日々接する。田草を引き抜き、畑で雑草を刈り取る。キャベツの青虫を取る。「お父さん! 見て!」とあいが手にしているのは、当帰(生薬)の葉にびっしり付いたアゲハチョウの幼虫、まるで色鮮やかなサナギの城である。「ニワトリにやったら」と言うと、「かわいそう。草むらに返してやったら」とちえ。昨年は無かったこと。今年は当帰は全滅。異常事態である。

異常と言えば、テレビでもよく生物の異常繁殖が伝えられているが、我が山村でも、この数年、道端の草が、ボロ菊と山ゴボウ(一メートル以上)だけで、かつての大小色とりどりの楽しき美しき道草は消え、不気味である。
この草は山羊食べないので散歩もままならない。実は、山にエサの無くなった鹿が道草を食べ、食べない草だけが残り繁殖したのである。
植物だけでなくカエルも、例年の夜の山村を揺るがす大合唱の恋の歌が今年は聞けない。肌を露出しているカエルは、オゾン層に開いた穴の影響を受ける。私の胸にも穴が開いたよう。痛い。大きく深く根底から異常変化が起こっているのでは?
「日本の文化を学びたい」と来訪のオーストラリアのミッシュ(24歳)は二メートル越すノッポ。腰を曲げ、鎌を手に草刈る姿は、「カマキリのよう」とちえ(笑い)。その彼が指を押さえながら、青い顔して走ってくる。草ならぬ指を刈って血が出ている。パン焼していたげん(結婚し近くで独立・24歳)が、消毒し、血止めに蓬を塗布する。自分の経験から「これで大丈夫」と言う。しかし、「生まれて初めて」と不安気である。ケンタ(隣に独立・26歳)は「病院に連れていったら」と親切。仕方ない、車を出し、病院に行く。蓬にびっくりの医者。
「就職活動を通し、ただただ生活するためにストレスの中で働き続けるのか、それともお金持ちであることを維持するために搾取を続けるのか、そんな生き方しかできないのかと絶望していたところ、大森さんの著書(注)に出会いました」と来訪の専修大四年の石井君は、ミッシュのケガに呆然と立ち尽くす。
サッサッと鎌を動かし、見事に、きれいに早く刈っていたタイのポーディーニャさん、インドネシアのプットラさん(24歳)は、あきれて、苦笑している。
来訪の青年たちに、アトピー症状が多い。横浜から来た友紀さんは「約二週間大変お世話になりました。アトピーも改善されて、すごく嬉しいです。こちらの生活は素晴らしいものだと体が教えてくれました」と言う。

沖縄タイムス(日刊紙)7月30日の“うちなあ賛歌①”に、稲葉耶季(那覇簡易裁判所裁判官)が書いている。
「最近、兵庫県の但馬に住む、20歳のちえさんという女性に出会った。ちえさんは、フィリピンやキューバやネパールなど旅して、ひとびとの暮らしぶりを実際に見てきた。日本に帰国して、こう語っている。『自分の食べるものは自分で作り、他国から奪わない。世界で苦しんでいる子どもがいるのに、自分だけ幸せだと感じられない』。彼女は中学しか出てないが、自分でたくさんの本を読み、田畑で汗を流し、手作りパンを焼き、鶏や豚の世話をし、なんでもできる。この家族の暮らしぶりは、これからの人々の生活の見本のような気がする。急にこのような生活をするのは難しいかもしれないが、そのような方向性をもって生きていこうとこころがけることはできる。一番大事なのは『まず隗より始めよ』である」

(注)『六人の子どもと山村に生きる』(麦秋社)/『自給自足の山里から』(北斗出版)

 

あ~す農場

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兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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