山の一家*葉根舎「葉根たより」【16】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、山の一家*葉根舎(はねや)の「葉根たより」とその前身記事を1998年12月16日から連載しています。
MK新聞2018年4月1日号の掲載記事です。
大森梨沙子さんの執筆です。
葉根たより
木の芽が日に日に膨らむ「木芽月(このめづき)」。
私たちが暮らす山もだいぶ暖かくなり、梅の蕾は今にもはじけそうです。
冬から春にかけて、寒さに耐えながらも、希望をぎゅっと詰め込んでいるような蕾を見ることが大好きです。
先日、山を下りたらもう梅が咲いていて、びっくりしてしまいました。
そう言えば、沖縄の友人は新緑の中、ジャガイモ堀をしているとか。
季節の巡りは地球の巡り、ミクロとマクロの交差するこの感覚は小さなことにとらわれないことを教えてくれます。
<花のように開く身体>
暦のカレンダーには、「草木萌動(そうもくめばえいずる)」「桃始笑(ももはじめてわらう)」「桜始開(さくらはじめてひらく)」と見ているだけで、春真っ盛りの気分になり、ウキウキしてきます。
「咲く」のではなく、笑う、開く、と表現する日本人に宿る感性も素晴らしく、うっとりします。
花が開くように身体も開き、ゆるみ、排泄作用の高まる時期。
スムーズに開かないところがあると、風邪などをひいてゆるませようとするので、一月下旬頃から開いてゆく身体をイメージしながらヨーガをしています。
そして、固い大地から出てくる野草を頂くと余分なものを揺り動かし、分解、排泄する力になります。
一年がはじまる春にしっかりリセットし、新たなスタートを。
陰陽調和の「春分」には、陰陽の気が入れ替わり昼が長くなります。
この日を節目に、身体や家のお掃除をし、「恵風」と呼ばれる万物を成長させる恵みの風邪を受け取りたいですね。
<早春の山遊び>
雪がとけ、まだ草の少ない山は子供たちが山遊びをしやすい時期。
三人兄弟で山へ入り、秘密基地を改良したり、尾根をずっと歩いてゆき、「あそこを行くと出石の道に出るよ!」「帰り道、こんなところを間違えそうになったけど、こんな風に調べてわかったよ!」と、報告してくれます。
よく観察し考えていること、移動距離が長いことに感心してしまいます。
三男のかやが、次男すぎなのサンダルを山の中で発見!なんてことも。
昨年、すぎながサンダルを一晩外に脱ぎっぱなしにして、小動物に持って行かれてしまったサンダルでした。
サンダルについている歯の跡やひっかき傷を見て、何の動物だったのか、三人で盛り上がっていました。(笑)
<啓蟄生まれのつくし>
三月六日の啓蟄は長男つくしの誕生日、十四歳になりました。
啓蟄の虫のように、ゆっくりもぞもぞと出てきたつくし。
初めてのお産、なかなか陣痛が強まらず、階段をたくさん上り下りしてやっと強まり、満月の朝に出てきました。
まだ二十四歳だった私。子育て仲間もおらず、つくしと一緒に泣いてばかりだった日々が懐かしいです。
お腹の中でもおとなしく、あまりお腹をけらなかったつくし、生まれてきてもそのまま、のんびりマイペース。
どうなっていくことやらついつい心配してしまいますが、意外と心が強く、好きなことをしっかりこつこつ続けるので、彼の持っている力を信じて支え続けたいです。
<日々、こつこつ>
夫のげんは冬の間、山仕事、薪作り、小さなギャラリー作りをしていました。
私の以前から念願のギャラリー、鶏小屋だったところをきれいな板壁にし、眺めのいい素敵な空間になってきました。お客さんが来た時に、我が家の商品と作品が気持ちよく見てもらえるよう、常設の場にします。
雪が溶けると田畑の柵直し。雪で倒れたり折れたり、小麦はもう鹿にかじられていたり…今年も大地に挨拶をして、また収穫があるよう祈りながら一年の農のはじまりです。
私も暖かくなると外で身体を動かしたくなりますが、ぐっとこらえてアトリエへ。
個展に向けて制作の毎日です。
描き始めると、四季折々の草たちにまわる地球を感じ、深い旅がはじまります。
ののさまが宿る自然、恵みも災害ももたらす自然、しなやかさ、強さ、美しさを秘める自然に想いをはせながら。
四月には二つの展示があります。
四月十四、十五日は「わち山野草の森」で開かれる「森の展示室」という野外展へ出展。全国から作家が五十名ほど集まり、今回は線というテーマで森に溶け込むような作品たちが並びます。
私は、いつも暮らしの中で感じている、自然と自分との間に生きている限り生じる線について作品を作っています。
四月十八日―二十八日は、東京・銀座のステップスギャラリーの小品展へ参加します。
森の中、街の中、それぞれのおもしろさを味わって頂けたら嬉しいです。
(2018年3月8日記)
■葉根舎
haneya8011@gmail.com
HP:https://www.yamano-haneya.com
MK新聞について
「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。
ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。
MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)