フットハットがゆく【292】「夏目漱石の小説」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2018年3月1日号の掲載記事です。
夏目漱石の小説
人にはそれぞれ性格があるでしょうが、僕は小さなことでくよくよするタイプです。
幸い毎日が忙しいので、くよくよしている暇がないというのはラッキーですが、性格は性格で、昔から変わりません。
例えばプライベートなドライブで道を間違ったとします。
プライベートで間違うということは、これは仕事でも間違うかもしれないということで、あぁ48年の人生の中で、あっちやこっちやで道を間違っていたに違いない、と思い込んで落ち込みます。
文章を書く時の誤字脱字や、しゃべる時の噛んだりも、ミスはミスなんで、とりあえず落ち込みます。
先日は「夏目漱石の小説」と、言おうとして、「なつめしょうせきのそうせつ」と言ってしまい、恥ずかしい思いをしました。
いわゆる専門用語で音位転換というそうで、子どもに多いのです。
アニメで有名ですが、オタマジャクシのことをオジャマタクシと言ったり、トウモロコシのことをトウモコロシと言ったり。
そもそも、夏目漱石の小説は中学生以来読んでいないという僕が、なぜ日常会話の中でその言葉が出てきたかというと、次の流れがありました。
知人「最近、いろんなお店を食べ歩いているそうですね。」
僕「うん、でもこの前ひどい店があったんや。」
知人「何があったんですか?」
僕「汚いお店に入って、店が汚くても料理が美味しけりゃいいやと思って注文したナンコツのカラアゲに、人の鼻毛が付いていた。」
知人「料理に髪の毛が入っていたという話はたまに聞きますけど、鼻毛ですか。」
僕「ナンコツの上に、ピンっと立つようにくっ付いていた。」
知人「それはひどいですね。でもそれがなんで人の鼻毛とわかったんですか?鳥の毛かもしれないし、人の毛だとしても、うぶ毛かもしれませんよ?」
僕「いや、あれは確実に鼻毛や。見事にナンコツの上にピンっと立っていた。」
知人「抜けた毛が立つんですか、嘘でしょう?」
僕「立つ立つ。夏目漱石の小説にもあったやろう?」
ここで、夏目漱石の小説が出てきて、噛んだ噛まないで話の腰が折れたのですが、ややこしいので、続きを先に。
僕「坊ちゃんやったか、猫の方やったか忘れたけど、登場人物が鼻毛を抜いて机の上に立てていくというシーンがあって、本当に抜いた鼻毛が立つのかどうか、中学生の頃に自分も試してみたことがある。
鼻毛って、抜くと毛根の部分に小さな白い粒、脂肪のようなもの(毛乳頭)がついたまま抜けて、それは粘着力があるから、何かにくっつけると生えているかのようにピンっと立つん。
自分で試して、なるほどこれは夏目漱石の小説の通り、鼻毛は机の上でも立つということを確認したし、それとまったく同じ格好で、ナンコツのカラアゲの上に立っていたから、あれは人の鼻毛だと断言できる。」
ということで、その店には二度と行かない、という説明の過程で噛んでしまったこと、日本を代表する文豪の小説を引き合いに出して鼻毛の部分しか出てこない、自分の浅はかさに猛省、くよくよしたのでした。
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