祇園祭は「山鉾建て」も見逃すな!巨大な山鉾を超絶技巧で組み上げる
目次
重さ10トン、高さ25mを超える巨大な祇園祭の山鉾は、7月10日から3日間かけて組み上げられていきます。
宵山や山鉾巡行では見られない山鉾の内部構造や、縄がらみなど伝統的な技術が見られる祇園祭の「山鉾建て」は祇園祭のみどころのひとつです。
2023年も7月10日(月)から祇園祭の山鉾建てが始まります。
祇園祭の「山鉾建て」とは
山や鉾を組み立てる山鉾建て
祇園祭の「山鉾建て」とは、文字通り祇園祭の山や鉾を組み立てる作業のことです。
釘を使わない伝統的な技法を駆使し、鉾や曳山で3日程度、舁山で1~2日程度でくみ上げられます。
祇園祭のには高度な技術を必要とされます。
「山鉾立て」と表記されることもありますが、ほとんどの場合は山鉾建てでしす。
山の場合を山建て、鉾の場合を鉾建てとわけて表記する場合もあります。
山鉾建ての主役、作事方「手伝い方」「大工方」「車方」
専門技能の技術者集団
祇園祭の山鉾巡行の主役である山鉾を組み上げる担当を「作事方」あるいは「作事三方」「作事三者」「三役」ともいいます。
山鉾巡行を支える、専門技能を持った技術者集団と称されます。
鉾の胴体部分を縄がらみで組み立てる「手伝い方」、天井や床を組み立てる大工仕事を行う「大工方」、車輪を取り付ける「車方」の3組にわかれています。
山鉾によっては呼称が異なる場合があり、例えば長刀鉾では手伝い方と大工方をあわせて「建方」と呼びます。
例えば同じ手伝い方であっても、祇園祭の山鉾建てには多岐に渡る作業があります。
毎年、それぞれがパートごとに山鉾建ての作業を分担して進めます。ただし、毎年同じパートを担当するわけではありません。
何年もかけて山鉾建てのいろんなパートを持ち周りで担当し、長い時間をかけてようやく一人前の手伝い方へとなるのです。
それだけに、新型コロナでの1~2年の空白は祇園祭の存続を危うくするものでもありました。
2022年に3年ぶりに復活した山鉾巡行は無事事故もなく終えることができました。
プロの手による山鉾建て
特別な技能が必要となる作事方は、基本的には山鉾町の町民ではありません。
江戸時代から、町外の専門家によって担われてきました。
作事方は祇園祭の山鉾巡行の運営そのものには関わりませんが、「山鉾を建て、動かす」ことに関しては、全て作事方の裁量に任されています。
1人の棟梁が臨時に山鉾建てのチームを組織する形式や、会社組織がまるまる請け負う形式など、様々なパターンがあります。
手伝い方、大工方、車方が別の集団のこともあれば、作事三方でひとつの集団のこともあります。
先祖代々祇園祭の山鉾建てを請け負っている作事方も多く、皆山鉾建てに関わることを誇りとしています。
縄がらみの「手伝い方」
祇園祭の山鉾建ての前半で活躍するのが、10名程度で構成される手伝い方です。
話し言葉では「てったいかた」とも言われます。
縄がらみの専門技術が必要なので、本職は普段から縄を扱う鳶職という人が多いです。
しかし、祇園祭の山鉾建て以外で縄がらみの技術を使う職業はありません。手伝い方は比較的作業自体の危険性も低いため様々な職業の人が参加しています。
中には町外の祭り好きのサラリーマンが休みを取ってボランティアとして参加しているという事例も近年は増えつつあります。
山鉾建ての胴体部分をくみ上げる櫓組みから、真木を立ち上げる真木立てまでを担当します。
手伝い方は、祇園祭の山鉾巡行時には鉾の前部に乗り、鉾の進行を宰領する「音頭取り」を務めます。
大工仕事の「大工方」
天井や床の組み立てや、修理作業を担当するのが、7~8名で構成される大工方です。
真木立てからの祇園祭の山鉾建ての後半で活躍します。
特に大工仕事の技術が必要なため、基本的には本職も大工という専門家の中の専門家集団です。
祇園祭の山鉾巡行時には、「屋根方」として屋根の上に乗り、障害物の回避を行います。
微妙なバランスが要求される、非常に難しい役割です。
かつての山鉾巡行では、寺町通や松原通などの細い通りを通ったので常時活躍していましたが、今は主に新町通で屋根方として活躍している姿を見られます。
車輪担当の「車方」
山鉾に重さ1トンという車輪を装着するときに登場するのが、12名程度で構成される車方です。
祇園祭の山鉾巡行の経験がものをいう役割なので、多彩な職業の方から構成されています。
ただし危険性の高い役割でもあるので、手伝い方と比べるとハードルは高い役割です。
祇園祭の山鉾巡行時には、同じく「車方」として鉾の進行調整や方向転換を務めます。
見どころの「縄がらみ」
山鉾建て中しか見られない縄がらみ
祇園祭の山鉾建ての大きな見どころは、縄がらみです。
懸装品を装着してしまったら縄がらみはほとんど見えなくなります。
車輪付近以外の縄がらみは、山鉾建て中しか見られません。
柔構造で安全性を高める縄がらみ
祇園祭の山鉾建てに釘を使わず縄だけで組み立てる縄がらみという技法を使うのは、何も釘が貴重であったからではありません。
巨大な山鉾が巡行を行うには、どうしても縄がらみが必要なのです。
山鉾建てで見られる縄がらみは、まるでバネのような姿をしています。
山鉾巡行時に実際に縄がらみがバネのように伸縮することで衝撃を緩和します。
縄がらみ自体は見えませんが、山鉾巡行時の山鉾全体をよく見ると、本当に伸縮している姿が良くわかります。
もし釘を使ってガチガチに固める構造であれば、山鉾巡行時の衝撃で裂けてしまうでしょう。
今の山鉾はアスファルト舗装された道路を巡行するのでまだましですが、かつてはデコボコ道を山鉾が巡行していたのです。
縄がらみが生み出す強度と柔軟性を併せ持った柔構造が、祇園祭で巨大な山鉾の巡行を実現しているのです。
千数百年間も地震の揺れに耐えてきた五重塔の構造と似たようなイメージです。
華やかな雄蝶と雌蝶
山鉾建てに使われる縄がらみは鉾によって多少の違いはありますが、基本的には共通しています。
前面と後面筋交いの交点をしばる最も大きく華やかな縄がらみは「雄蝶結び」と言います。
側面の筋交いの交点の縄がらみは「雌蝶結び」と言います。
雄蝶と雌蝶は上下対象の同じ形をしています。
固定すべき柱の高さが異なるために上下が反転した形になっています。
たしかに蝶のように見える縄がらみです。
鉾枠の四隅のうち上2つを「鶴結び」、下2つ「亀結び」と言います。
上下は部材の組み合わせが異なるので、たしかに異なる縄がらみが用いられています。
ただ、いずれも鶴っぽさや亀っぽさはわかりません。もしかしたら内側から見たら何かわかるのかもしれませんが、外から見る分には謎です。
おそらく鶴亀という縁起の良い単語を使用しているのでしょう。
美しい「海老結び」
鉾の下部にある巨大な部材である石持の側面には「海老結び」が7つ並んでいます。
鉾枠と石持を結ぶ巻縄を締める役割がありますが、海老の形をしている必然性はなさそうなので、装飾としての意味合いが強いのでしょう。
海老結びをきれいに作れるようになるのに少なくとも10年はかかるそうです。美しいですね。
年中みられる「祇園祭ぎゃらりぃ」の再現鉾
漢字ミュージアム内の無料展示施設
祇園祭の山鉾建て期間中しか見られない縄がらみなどの山鉾の内部構造ですが、実は年間を通してみられるところがあります。
漢字ミュージアムに併設されている「祇園祭ぎゃらりぃ」では、実物大の鉾が再現されています。
すぐ近くでつぶさに縄がらみなどの鉾の構造を見ることができます。
祇園祭ぎゃらりぃの鉾は、特定のモデルとなった鉾があるわけではありません。
神事で使われる鉾をそのまま再現するのははばかられるため、いろんな鉾を参考にしつつ作られた鉾です。
実際の祇園祭の山鉾とは違い、下に潜り込むこともできます。
本物では決して見ることができないアングルから鉾の構造をじっくり観察することができます。
祇園祭期間の限られて日程以外で鉾が見たい方は、是非祇園まつりぎゃらりぃへ行ってみてください。
漢字ミュージアムは有料施設ですが、祇園祭ぎゃらりぃは無料で入ることができます。
祇園祭ぎゃらりぃ
入館時間 | 10:00~18:30 |
定休日 | 月曜(※夏休み・年末は無休期間あり) |
入館料 | 無料 |
住所 | 京都市東山区祇園町南側551 |
アクセス | 市バス「祇園」より徒歩すぐ 京阪「祇園四条」より徒歩5分 阪急「河原町」より徒歩8分 |
公式ホームページ:祇園祭ぎゃらりぃ
巨大な山鉾をくみ上げる
以前は祇園祭の山鉾建ては7月8日ごろから始めっていました。
しかし、できるだけ交通規制を短期間にしなければならないなどの都合により、半世紀ほど前より7月10日から始められるようになりました。
1日目(7月10日)
7月10日が初日の山鉾建て
7月10日の朝早くから、放下鉾と船鉾を除く鉾の山鉾建てが始まります。
- 7:00 長刀鉾
- 7:00 函谷鉾
- 8:00 鶏鉾
- 8:00 月鉾
- 15:30 菊水鉾
1日目には山鉾の本体である櫓部分が組みあがります。
2日目以降も長刀鉾、函谷鉾、鶏鉾、月鉾はほぼおなじペースで山鉾建てが進み、菊水鉾は半日程度遅れたペースで山鉾建てが進みます。
山鉾建ての進捗状況
長刀鉾(なぎなたほこ)
くじ取らずで常に祇園祭の山鉾巡行の先頭を行く山鉾の筆頭格、長刀鉾。
会所前に福井ナンバーのトラックが到着し、まず荷台から山鉾建てに使用する縄を搬出します。
山鉾建てにはトラックいっぱいの大量の縄が全て使われます。
福井産の縄は特に柔らかくかつ強靭で使いやすいため、はるばる運ばれてきます。
祇園祭の山鉾建てに使われる縄は解体時にバラバラに切断されるため、毎年新品を使います。
縄も含めて必要となる消耗品の発注なども含めて作事方に任されています。
四条通での鉾の櫓部分の組み立てと並行して、会所内では真木部分の準備が進められています。
函谷鉾(かんこぼこ)
くじ取らずで祇園祭の山鉾巡行の5番目を行く函谷鉾。
祇園祭の山鉾建ての特徴は、釘を使わず縄だけで山鉾を組み上げる「縄がらみ」という技法です。
函谷鉾では、山鉾建てに先立って通行止めのフェンスの固定も縄を使うという徹底ぶりです。
背中には函マークが付いたかっこいい作業服です。
2日目(7月11日)
7月11日が初日の山鉾建て
残る鉾である放下鉾、船鉾と曳山(ひきやま)である岩戸山の山鉾建てが始まります。
- 6:30 放下鉾
- 8:00 船鉾
- 8:00 岩戸山
祇園祭の山鉾建て2日目の鉾はいったん横倒しにし、約20mの真木(しんぎ)を取り付けます。
再び慎重に真木を引き起こし、真木が立ち上がる瞬間が山鉾建てのクライマックスです。
「真木立て」といい、概ね午前中に行われます。
屋根や装飾品などを組み立てる担当の大工方が活躍をはじめます。
山鉾建ての進捗状況
長刀鉾(なぎなたほこ)
写真で今組み上げている張り出し部分は鉾本体ではなく、足場です。
足場を作るのにも釘を使わず、縄というこだわりっぷりです。
正面(八坂神社方向)と背面の縄がらみの結び方を特に「雄蝶」といい、強度だけではなく見栄えも兼ね備えています。まるでバネのようです。
左右の結び方は「雌蝶」と言います。
長さ20メートル近い真木を会所から運び出す際には、いったん四条通を通行止めにして運び出します。
祇園祭の山鉾建ての期間中は、短時間ですがしばしば通行規制が行われます。
猛暑の中、3日間にわたって自ら進んで野ざらしの中で作業に取り組む作事方の方々には頭が下がります。
函谷鉾(かんこほこ)
函谷鉾でも福井産の太さ2.5cmの縄が使われています。山鉾建て専用の特注品の綱です。
一束で100mの長さがあり、80束も用意されています。縄の総延長は8kmということです。
函谷鉾では真木(しんぎ)は会所内で組まれます。1974年に竣工した函谷鉾ビルです。
函谷鉾ビルの最奥部に蔵があり、普段は函谷鉾の部材が保管されています。1階には重量のある鉾の躯体部分にあたる部材、2階には懸装品や屋根などの部材がしまわれています。
真木は既に前日に組み上げられており、本日山鉾建てのクライマックスである立ち上げが行われます。
鰻の寝床状に狭い間口に対して深い奥行きがあるため、24mもある真木の作業が屋内で可能となります。
地図で確認したところ間口:奥行きの比率は驚異の1:12です。驚くべき鰻の寝床の奥深さです。
函谷鉾ビルも元は町家でしたが、安定的に函谷鉾を維持できるようにビルに再建されました。
巨大な櫓を回転させる真木立てには、今は重機が使用されています。
かつては何十人もが縄を引きながら人力でやっていました。危険を伴う作業なので、安全が最優先です。
午前中には真木立ても終わり、午後には早くも屋根が組みあがります。
函谷鉾の骨格がほぼ完成です。
鶏鉾(にわとりほこ)
手前に置かれている真木が立ち上がる瞬間が山鉾立てのクライマックスです。
作事方の方々は、本職も建築関係者が大半を占めています。
月鉾(つきほこ)
最も山鉾建ての進捗が早いのが月鉾です。
横に大きく突き出した木材は、鉾をいったん横倒しにして真木を取り付けた上で90度回転して元に戻すときにテコとして使う「大梃子」または「長梃子」といわれる部材です。
その後取り外される1日限りの部材ですが、山鉾建てのクライマックスのため手を抜かずに美しく縄で固定されています。
祇園祭本番の山鉾巡行でも非常時のために大梃子が追随しています。
真木立て後、続いて鉾の上部を作り始めます。
まず外側に足場を組んでいます。
菊水鉾
山鉾建てのスタートが半日遅かった菊水鉾は他の鉾よりもワンテンポ遅れます。
長刀鉾、函谷鉾、月鉾、鶏鉾がお昼には真木立てを終えますが、菊水鉾は午後に真木立てが行われます。
南側にはワイヤーのウィンチが設営されています。
ウィンチを固定するため、山鉾でも最も重量のある部材である石持が置かれています。
真木立てを前に、真木の装飾が行われます。てっぺんの鉾頭や榊、赤熊、天王台などが装着されます。
最後に天王座に菊水鉾のご神体である彭祖像が据え付けられます。ただし、ご神体であるのでまだ布で覆われたままです。
最後に榊に紙垂をくくりつけます。最初は関係者がくくりつけ、後半は一般の人も参加します。
紙垂は大量にあるので、どんどん配られてきます。
菊水鉾以外でも一般の参加が可能な場合が多いです。せっかくなので、一緒に参加しましょう。
山鉾が立ったときのことを考えるとできるだけ榊の上部にくくった方がよいとのことですが、混みあっているのでなかなかうまくは行きません。
自分がくくった紙垂も菊水鉾と一緒に巡行すると考えたらちょっとうれしいですね。
真木には力が分散してかかるように引っ張るロープが上手にくくりつけられています。
ウィンチが引っ張られると、少しずつ菊水鉾の真木が立ち上がります。
菊水鉾の囃子方や懸装品を含めた重量は10.31トンです。
鉾の中でも鶏鉾に次いで軽量なやや小さな鉾です。
しかし、菊水鉾と放下鉾はいずれも一方通行の細い道にあります。慎重に慎重に真木立てが行われます。
放下鉾(ほうかほこ)
放下鉾の山鉾建ては今日7月11日からで、まだ会所から部材を搬出中です。
この会所も間口と比べてものすごく奥行きがあります。函谷鉾ほどではありませんが、間口:奥行きは1:6の比率になっています。
既に放下鉾の真木と思われる部材は搬出済みです。
真木は大きく3つに分かれ、下半分は木材2つを継ぎ合わせ、上半分は竹です。手前が継ぎ目の組手部分です。
案外単純な構造ですが、両側からしっかり締め上げれば強度は十分なのでしょう。
ただし、山鉾本体と比べるとどうしても強度が弱いため、江戸時代には山鉾巡行中に真木が折れるという事故がたびたび起こっています。
1922年には山鉾建てなかに函谷鉾の真木が折れ、山鉾巡行に参加できませんでした。
1927年には山鉾巡行中に四条新町で月鉾の真木の先端部が折れました。
1955年には台風で放下鉾の真木が曲がり、応急修理の上で山鉾巡行に参加したこともあります。
山鉾建てが1日遅れの放下鉾は、真木立ても唯一7月11日ではなく12日に行われます。
3日目(7月12日)
7月12日が初日の山鉾建て
一部の舁山(かきやま)の山鉾建てもはじまります。
- 8:00 伯牙山
- 9:00 保昌山
- 9:00 山伏山
3日目を迎える鉾は車輪が取り付けられ、懸装品が取り付けられると完成です。
函谷鉾の関係者が集まり、八坂神社の神官により、清祓いの儀式が行われます。
最後に午後から試運転とお披露目を兼ねた山鉾の「曳き初め」が行われます。
男性のみの山鉾巡行と異なり、女性や子供も参加が可能な賑やかな行事です。
みんなで山鉾を引っ張り、100メートルほど町内を往復して終わります。地元民でなくても参加可能です。
曳き初めが終わると埒(らち)が組まれ、駒形提灯が設置されます。
山鉾建ての進捗状況
長刀鉾(なぎなたほこ)
蝶と称される縄がらみですが、長刀鉾は両側に7本ずつあります。
山鉾建てでは吉例として奇数(喜数)という決まりがあり、5本の鉾もありますが、長刀鉾は大きいだけあって7本です。
毎年寸分違わぬ姿に組み上がっていきます。
車軸もまだ仮止め状態で、これから縄でぐるぐる巻きに固定されます。
部材は老朽化に伴って順次交換されるため、年期の入ったものもあれば、今年からの真新しい部材までモザイク状に使われています。
最下部の左右に2本ある大きな部材は石持といいます。
長さ6メートルほどあり、巨大な山鉾の全重量を支える重要な部材です。
山鉾巡行時は上部に多くの人が乗り込むため、重心が高くなりがちです。
重量のある石持を付けることで重心を下げ、安定して巡行することができるのです。
長刀鉾では、石持は重いケヤキが使われています。かつては桜が使われていました。石持にマツを使用している鉾もあります。
なお真木には軽くて弾力性があるヒノキ、車輪には硬くて耐久性のあるカシと、特性にあった木材が使い分けられています。
屋根の上では、ちょうど前後に鯱を装着するところです。
鯱は邪を祓う役割を担っており、背中合わせの外向きにつけられます。
他に船鉾と蟷螂山にも鯱が装着されていますが、向いあわせの内向きです。名古屋城などのお城でも内向きです。
長刀鉾のように飾られる鯱は珍しいです。
函谷鉾(かんこほこ)
車輪はまだついていないものの、大工方によって屋根も完成して網隠しの取り付けまで完了しています。山鉾の形ができています。
大工方は山鉾巡行では屋根方といい屋根上で電線など障害物の除去を担当します。
ほとんど完成しているように見えますが、まだまだ縄を巻く作業が引き続き行われています。
鶏鉾(にわとりほこ)
だいたいの形はできていますが、車輪の取り付けはまだです。
車輪の取り付けは真木の立ち上げに次ぐ山鉾建てのクライマックスです。
取り付けは車方の担当です。山鉾巡行ではかじとりを担当します。
真木が山鉾のど真ん中を貫いているのがよくわかります。
五重塔の心柱と同じで、山鉾本体とは独立しており、山鉾の中に立っているという表現が正しいでしょう。
この構造が祇園祭の山鉾巡行の衝撃に耐える秘密でしょうか。
船鉾を除くと鉾の中でも最も小ぶりな鶏鉾の蝶が5本です。
月鉾(つきほこ)
実に美しい縄がらみです。これがばねとなって衝撃を和らげるのです。
10トンを超える巨体なので、衝撃もものすごいのでしょう。山鉾建て期間限定の実用性の美というべきでしょう。
月鉾は山鉾中最重量の11.88トンを誇ります。
7月12日中には車輪が取り付けられ、月鉾の曳き初めも行われます。
かつて1951年には月鉾の車輪取り付け時に転倒し、山鉾巡行に参加できなかったこともあります。
危険を伴う車輪取り付けは慎重に行われます。
部材にかかれた「辰巳」などの文字は、どの部分で使用するかを明記したものです。
前とか後ろではなく、東西南北を基準にしているところが京都らしいですね。
辰巳は南東部のことなので、左側の後ろを示しています。
菊水鉾(きくすいほこ)
ブルーシートを外し、作業開始。既に車輪の装着も終わっています。
しかしまだ屋根の部分は全くできていません。鉾によって車輪を付けるタイミングはまちまちなようです。
菊水鉾が1952年に再興された新しい鉾ということも関係あるのでしょうか。
戦災で失われていた菊水鉾が戦後わずか7年で復興したことは、当時の京都人に大きな希望を与えました。
ちなみに菊水鉾が失われた戦災とは、1864年(元治元年)の蛤御門の変(禁門の変)です。
放下鉾(ほうかほこ)
1日遅れの放下鉾はまだ胴体部のみです。
いずれも新町通にある放下鉾と船鉾、岩戸山の山鉾建てが1日遅れで始まります。
いずれも比較的小ぶりなために作業が早いということもあるでしょうが、交通量の多い新町通の交通規制を遅らせる目的もあるのでしょう。
縄がらみは、2人1組で作業します。縄を巻いては木槌でたたき、緩みのないようしっかりとしばっていきます。
並行して真木の準備作業も行われています。
屋内で作業ができる鉾もありますが、放下鉾は路上で木材を組んで作業を行います。
こんな長い柱を屋内で収容できる方が驚きです。
真木の先っぽに山鉾のてっぺんである鉾頭(ほこがしら)がはめこまれます。
放火鉾は日・月・星三光をしめす鉾頭で、洲浜に似ていることから「すはま鉾」の別名があります。
船鉾(ふねほこ)
まだ船っぽさは全くありません。
できあがりの姿は全く違いますが、船鉾も他の鉾と基本構造は同じであることがわかります。完成した姿しか知らないと、船鉾と鉾の構造の共通性はわかりません。
他の鉾と違って、建設現場同様の足場が使われてます。
作事方は男だけですが、部材のちょっとした整理作業などには女性も活躍しています。
岩戸山(いわとやま)
祇園祭前祭唯一の曳山である岩戸山も今日が2日目。
本体はブルーシートで覆われていて中はうかがえません。
部材は野ざらしなのですぐ近くで見られます。車軸には潤滑材として松やに(?)がべっとりと塗られています。
もともと曳山には屋根はなく、代わりに天幕が張られていました。
しかし、岩戸山が寛政6年(1794年)の復興時に屋根を設け、他の曳山もならって屋根を増築しました。
伯牙山(はくがやま)
トラックに積まれた真松(しんまつ)。真木(しんぎ)と同じく重箱読みです。
場所的には今日から山建てが始める伯牙山です。
山の真松は占出山だけが黒松で、他は赤松が使われています。
4日目(7月13日)
7月13日が初日の山鉾建て
大半の舁山の山鉾建てがはじまります。
- 7:00 郭巨山
- 7:00 白楽天山
- 8:00 木賊山
- 8:00 油天神山
- 8:00 占出山
- 8:00 蟷螂山
- 8:00 太子山
- 8:00 霰天神山
- 8:00 芦刈山
- 10:00 綾傘鉾
曳き初めを終えた鉾は順次懸装品を装着され、山鉾巡行同様の様相です。
山鉾建ての進捗状況
長刀鉾(なぎなたほこ)
曳き初めも前日に終了し、完成済。
ちょうどMKタクシーが通りかかりました!
函谷鉾(かんこほこ)
曳き初めも前日に終了し、完成済。
ちょうどMKタクシーが通りかかりました!!
月鉾(つきほこ)
曳き初めも前日に終了し、完成済。
ちょうどMKタクシーが通りかかりました!!!
鶏鉾(にわとりほこ)
曳き初めも前日に終了し、完成済。
四条通に面していないのでMKタクシーは通りかかりませんでした。
2022年には、約200年ぶりに新調された下水引がお披露目されました。
中央の横長の赤と紺の部分が新調された二番水引と三番水引です。
菊水鉾(きくすいほこ)
曳き初めも前日に終了し、完成済。
2015年に新調された胴掛「毘沙門天と弁天」です。
新調された懸装品(けそうひん)を楽しむのも祇園祭のツボです。
放下鉾(ほうかほこ)
1日遅れの放下鉾は、まだ内部が丸見えです。天井も車輪もついていません。
ちょうど車軸を固定するところです。ここまでは台車状なものに載せられて運ばれますが、ここからは人力です。
左右交互にてこの原理で持ち上げては部材の下に木材を挟み、定位置まで人力のみで順次持ち上げていきます。
車輪の取り付けは、山鉾巡行時の進行方向の調整につかう「かぶらでこ」を使いながら慎重に行われます。
数人で少しずつ車輪を車軸に押し込んでいきます。前述のとおり、このタイミングで鉾が転倒するという事故もかつて起こっています。
船鉾(ふねほこ)
まだ船鉾の骨組みが見えます。本当の船とは全く構造が異なり、他の山鉾と同じであることがよくわかります。
大きな違いとしては真木はないため、いったん横倒しにしたりする必要もありません。
岩戸山(いわとやま)
岩戸山は曳き山です。山とはいいますが舁き山とは全く異なる構造で、鉾と同等扱いされています。
上部はほぼ完成していますが、車輪はまだついていません。
山伏山(やまぶしやま)
舁き山ながら早くも飾り付け以外はほぼ完成しています。
まだまだ真松しかのっていませんが、懸装品はだいたい装着済です。
昨朝は影も形もなかったのにあっという間です。
郭巨山(かっきょやま)
ちょうど山建てが始まったところです。
これくらいなら少人数でも動かせます。
白楽天山(はくらくてんやま)
左の茶色のTシャツの方はまだ経験が浅いらしく、縄のかけ方の基本を教えてもらいながらされています。技術の伝承は大事ですね。
Tシャツにも白、赤、黒の3種類があります。少なくともさらに紺色もあります。
何か役割の違いがあるのでしょうか。
保昌山(ほうしょうやま)
ぽつんと離れた位置にある舁き山です。
誰もいませんが、骨組みは完成しています。
真松の根本に水の入ったバケツを置くことで、松がしおれないよう工夫をしています。このあたりの処理の仕方も山によって異なります。
今は全ての舁山は車輪がついており、山鉾巡行でも要所以外では押して巡行しています。
1963年に保昌山初めて車輪をつけるまでは、舁山は全て担いで巡行されていました。
保昌山が車輪を付けたときは批判の声も上がりましたが、翌年からまたたくまに他の舁山へと広がり、今ではすべての舁山が車輪付きとなっています。
伯牙山(はくがやま)
真松だけがスタンバイ。
前の家の方が根本のバケツに水を足しに来ました。
5日目(7月14日)
7月14日が初日の山鉾建て
残る四条傘鉾と孟宗山の山鉾建てが始まり、全て完成します。
- 7:00 四条傘鉾
- 8:00 孟宗山
今夜から全ての山鉾が揃い、宵々々山のはじまりです。
既に完成している山鉾の紹介は省略します。
山鉾建ての進捗状況
放下鉾(ほうかほこ)
祇園祭の山鉾が組み上がり、懸装品が装着されると、「曳き初め」が行われます。
組み上げた山鉾がきちんと動くかどうかの試し曳きです。
あわせて、一般の人も参加して山鉾を曳く一種のイベントでもあります。
誰でも山鉾を曳けるのは、この曳き初めのときだけです。
曳き初め目当てで山鉾に多くの人が集まります。
概の時刻は事前に告知されているので、山鉾を曳くチャンスを狙っているのです。
2022年の曳き初めは関係者のみの参加でしたが、2023年は例年通りに戻りました。
曳き初めでは、両手で綱を引っ張らなければなりません。
つまり、動いているときは片手にスマホで撮影などはできません。
曳き初め参加者は動く前など止まっているときのみ撮影可能です。
また移動時には綱をまたいではなりません。ご神体につながった綱の向こう側に移動するときは、綱の下をくぐるか迂回する必要があります。
船鉾(ふねほこ)
7月14日には、放下鉾、船鉾、岩戸山の3つの山鉾で曳き初めが行われます。
老若男女問わず多くの人が集まります。
未来の音頭取りが親の真似をする姿を見られるのも、曳き初めならではでしょう。
見事な音頭取りに、周囲からも大きな拍手が巻き起こります。
岩戸山(いわとやま)
鉾ではなく山ですが、曳き山なので岩戸山でも曳き初めが行われます。
太子山(たいしやま)
手前が会所。
胴掛などもセッティング完了。
油天神山(あぶらてんじんやま)
松の形がかっこいい。
木賊山(とくさやま)
まだ骨組みだけです。
茅の輪状の謎の松の枝。
芦刈山(あしかりやま)
骨組みだけですが、酒樽は設置済。
真新しい木材には全て使用位置がわかるようにメモが書かれています。
東西南北あるいは十二支方位を用いて使用位置が指定されています。
伯牙山(はくがやま)
赤と白の裸電球がぶら下がってます。
おわりに
祇園祭の山鉾といえば、周囲を彩る美麗な懸装品ですが、見えない隠れたところにも美が隠されています。海老や蝶などの縄が作り出す造形はもちろん、作事方の流れるような作業など、いろいろな見どころがあります。
山鉾建てを見ることで、いかに多くの人が関わり、祇園祭を作り上げているかということを肌で感じることができます。
祇園祭をより深く楽しむためにも、一度山鉾建てから見に来られてはいかがでしょうか。宵山や山鉾巡行のような大混雑とも無縁です。
山鉾ができ上がっていくにつれ、見る人の心も宵山、山鉾巡行へと向けてどんどん盛り上がっていきます。
今回紹介したのは前祭の山鉾建てですが、後祭の山鉾建ても山鉾巡行翌日の7月18日から始まります。
祇園祭山鉾巡行プレミアム観覧席体験ツアー
MKトラベルでは、祇園祭前祭の7月17日(月)に、プレミアム観覧席からの山鉾巡行鑑賞と、エグゼクティブクラスハイヤーでの京都観光を組み合わせた特別感あふれるツアーを販売しています。
ニュースでも話題のになっている、河原町御池に設けられたプレミアム観覧席からは、目の前で迫力の辻回しを見ることができます。
エグゼクティブクラスハイヤーは、ベントレー ベンテイガEWB アズール、メルセデス マイバッハ Sクラス、BMWi7(EV車両)からお選びいただくことができます。
浴衣ならMKタクシーの「タクポきもの還元」がお得
夏の1ページを彩る祇園祭、やっぱり似合うのは浴衣姿です。
祇園祭を訪れるなら、是非浴衣でお越しください。
浴衣で歩き疲れたら、是非MKタクシーをご利用ください。
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京都観光には観光貸切タクシーもおすすめです。
京都駅から祇園祭へはMKタクシーの八条口のりば(VIP)から
京都駅から祇園祭に行かれる方は、ぜひ京都駅八条口にあるMKタクシー専用のりばへお越しください。
のりば併設のMKVIPステーションでは、祇園祭の特集パンフや地図などもご用意しています。
タクシーをご乗車にならない方の利用も大歓迎です。
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MKVIPステーションでは、有料での手荷物預かりサービスや、ベビーカーの貸し出しも行っています。
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2021年7月15日(木)12:15より、MKタクシー公式インスタグラムで「祇園祭の山鉾めぐり~四条界隈を歩きながら~」のインスタライブを配信しました。
祇園祭山鉾連合会と南観音山保存会の役員にガイドいただきながら、山鉾を巡りました。