自給自足の山里から【199】「半月ぶりのお山、若者のデモ」|MK新聞連載記事
目次
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2015年9月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
半月ぶりのお山、若者のデモ
抗ガン化学療法で半月入院
8月に手術する前、上顎(じょうがく)ガンを少しでも小さくしておこうと、再度、大阪駅前の病院に入院する。百姓仲間は「入院3日目くらいまでは、本当に休養になる」と言う。
しかし、4~5日経つと、化学療法の副作用もあり、からだがしんどくなり、ベッドからも抜け出せないジレンマ。
白い壁に囲まれ、ピーポーピーポーと救急車が絶えない病室。医者・看護士の指示の下、天敵で食塩水に抗ガン剤を入れて24時間。10日間過ごした。副作用の薬が不断なく投与される。
少しは小さくなったかなあ。
そこで、手術前のリフレッシュに、山の村のおいしい空気を味わってきてください、と半月ぶり――山村に移住してからは半月も家・農場を離れるのは初めて――に帰宅する。
緑の雲に乗って、母の元へ
カナカナとひぐらしたち、「トォーキョ、トッキョク」とほととぎすらが迎えてくれる。山から涼しい、おいしい風が吹く。
「ジィちゃん、お帰り」と孫たち。顔の左上方のたんこぶをじーっと見つめて、「お山から、こぶとりジィさん、呼んでこようか?」なんて言う。「よう早う呼んできて、取っておくれ」と言うと、「明日まで待って!」なんて(笑)。
帰宅には息子のげんの運転で半日がかり、ちっと疲れ早めに寝る。
翌朝、山間の冷ややかな空気を裂くかのように、3羽のオンドリが「コケッコッコー」を連発し、やがて「ガァーガァー」ちアヒルのガー子たちがにぎやか。
娘のちえがやってきて、エサやり。
「お父さん! からだアカだらけでしょう。風呂わかすよ」と、マキをトントンと割り、火をつける。夏は沸くのが早い。入ると狭い五右衛門風呂は、みるみるうちに、アカまみれ(笑)。上水を何度も入れ替えてアカを落とし、身も一枚のシャツを脱いだ気分(笑)。
雨戸・障子を開け広げた築120年の古民家(妹はボロ家と言う)の部屋の布団に身を横たえる。
しばらくして、ふと気づくと、家周りは草に覆われ、お山の方も盛夏の濃い緑の世界になっていて、草々がお山からの風に揺れ、なんと! 『ノンちゃん雲に乗る』(石井桃子)ではないが、緑の雲に乗った気分である。
ふと山の方を見ると、昨春亡くなった母が手を差し伸べていた。
「もう、丸一日もかかる手術やめて、このまま我が古民家で静かに生きたい」と漏らすと、
「俺なんか、8時間の手術を2回やった」とげんは憮然。
思えば、小学6年生のとき、げんは弟のユキトとふざけていて、大ヤケドし、神戸のこども病院に3ヵ月余り入院生活。返す言葉なし。
「ジィちゃん、家出とれた黄スイカ持ってきたよ。おいしいよ」と、山を駆け下りてきた孫のみのりとなお。「おいしいよ」とかぶりつくと、うれしい笑顔。
再入院で病院に向かうときは、ちえの運転。
山村に生きる子・孫らに明日! と岳人「百姓体験居候」の手に父似の赤ん坊
我が敬愛する岳人・和田城(さと)志(し)君が見舞いに来た。
先のネパール大地震に遭遇し、危機一髪助かるも、目の前で山村が土石流に飲み込まれ消えゆく写真とともに、彼の悲しき表情が忘れられない。
彼は、ヒマラヤとともに、日本の山をずーっと登ってきた。お山に登って下山すると必ずふもとには、お山と暮らす村があったものだが、やがて「限界集落」になり、今はもう「消滅集落」ばかり。ネパールでは天災、日本では人災で山の村が消える。日本はお山や山の村を見捨てて、やがて消滅か!
でも、ケンタ、げん、ちえたちは、山の村で小山にいだかれて暮らす。ここに明日がある。そう彼は静かに言った。
「おやっさん!」という「百姓体験居候」の声、手元を見ると、父親そっくりの赤ん坊の笑顔。そばには彼女。幸せをいっぱい病室に運ぶうれしさ。
60年安保から今の若者へ
今“戦争法案”を成立させないぞ! と若者が連日、熱気を帯びたリズム・デモで立ち上がっている。
私は、18歳のとき60年安保を経験した。
友人と、6月15日の樺(かんば)美智子さん虐殺をはさんで、連日、中大・明大のデモ隊列に参加。
15日は帰りの電車の中で、ラジオから“虐殺”が流れてきて、一瞬にして車中に起こった怒りと悲しみの雰囲気が忘れられない。翌日、国会南通用門で献花。19日真夜中まで国会前で座り込んだ。「闘いはこれから」と江田三郎の街宣車の上での空しき声。ぺちゃんこになった一本の煙草を、みんなで回し飲む。
そんな思いもあり、今回、明治・中央大の学生たちが中心になっていると聞きうれしい。
私は、ブラク(被差別部落)は元々シャーマニズム(呪術・祭祀(さいし)での農不作、天候の予測や匠(たくみ)術など)で村々とともに生きてきた。それを、予測の失敗などを口実に、天皇を利用してサベツが…の思いがある。
権力に対して、軽快に熱情あふれるリズム・デモで、若者が対抗している姿を見るとき、「社会主義」を経て、専門でないシャーマンが全国各地に生まれているモンゴルではないが、この歴史的運動が続き、ブラクを軸に天皇を正すことを夢見る。
さあ明日(3日)は朝から夜まで続く手術。
ただ、無事を祈る!
(2015年8月2日)
あ~す農場
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
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