自給自足の山里から【167】「縄文百姓の『村』と『農」」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【167】「縄文百姓の『村』と『農」」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2013年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

縄文百姓の「村」と「農」

朝、目覚めて、窓のカーテンをあけると、一面の銀世界。いつもならホワイトクリスマスなのに、2週間早く、それも大雪である。9日から4日間降り続く。50cmをこえる積雪である。
お山の樹々、棚田、畑、鶏、山羊、犬小屋、簡易製材所、母屋、図書館など、白いものにすっぽり覆われる。家の後ろの市道は、除雪車が動き、道の雪が除かれる。道までや、家まわりなどの雪かきに一汗かく。家の中、薪ストーブが赤く炎出し部屋をあたため、濡れた服・洗濯物を乾かす。
雪止んで、太陽が顔をのぞかせると、白い雪に反射し輝く。樹々は、ぶるっと身をふるって雪をはらい落とし、ケモノたちの足跡が点々とつづく。
幼い子たち、早速ソリを出して、嘆声あげてすべり遊ぶ。

素手でテンの首っ子つかむ

雪の降る前の日、我がオンドリとメスがやられる。翌日も、小屋に入ると首のないトリが横たわる。そして翌日も。我が愛犬の貴重な食べものに! と思いつつも、この雪で、ひょっとしたら敵は小屋に住みこむ? とまわりを探る。天井の隅にひそむテン(四肢は黒く全体は美しい黄色の哺乳類)を発見! 目と目が合う。怒りの私は、ぱっと奴の首っ子をつかむ。あばれ、左手をひっかかれる。しかし、なんとか気絶させんと手の力を強める。動きが弱くなる。ちっと力をゆるめた瞬間、奴は私の右手の小指を鋭いキバでかむ。キバをはずそうとするが、なかなかとれない。仕方なく、側にあったオノで頭をたたき、抜く。キバには、破れた軍手でひっかかっていた。幸い骨はやられなかった。すぐ消毒にかかった。しばらくは、赤い血が大地をそめた。
来訪の「居候」の若者は、「野のものにかまれたら狂犬病が出る危険性がある」とか言う。かかりつけの医者に行く。「大丈夫。2週間もすればよくなる」との診断。
この武勇伝? に猟師ケンタの連れの好美は、ゲラゲラ。「私なら、手に何か武器もって行くわ。素手で向かとあきれて笑いこける。
ケンタは「お父さん! 熊に出会っても、素手で首ったまつかまえようなんてしたらダメなんて言う。
ネットでしらべてやってきた若者は、「私なら、野のケモノに出会ったらどうするか? インターネットでしらべて、対処する」なんておっしゃる。ケイタイもたず、ネットなどしない、化石人間の私の行動は、どうも今時の若者の理解をこえているよう。

縄文百姓の実証にてらして―全く素人の方がうまく行く

今年も「百姓体験居候」の若者がやってきた。あ~す農場を拓いて26年になるが、滞在は、長い者で3年、短い者で3分(笑)(車で来訪し、いきなり先輩の居候にトリのエサ用のヌカ袋を運ばされる。ふとみると車で去る)。そんなこんなで多い年は300人余、少ないときでも●人余。今年は長い者で2週間、150人の来訪があった。
私は百姓に縁なく全くの素人で、近頃多くなった「農」の学校、塾などに行ったこともない。また我があ~す農場も、塾でも学校でもない。
かつて、1週間の百姓体験居候にやってきた若者が、帰り際玄関前で、サイフを手にして「いくらお払いしましょう」と言う。「いやぁ、うちはお金をもらわない」と返すと、目を大きく見ひらき、びっくりぎょうてんの様子。ポツリと「今まで生きてきて、全てお金でやってきた。ここに来る前、ヤマギシ(「お金のいらない楽園」)での一週間研修でお金を払った」という。
中島正さん(注)によると「縄文が貧しいながらも1万年の久しきにわたって平穏を続けたのは、徹底して『自給自足』の域を外れなかったからであります。抑圧と搾取の伴う権利義務の干渉社会、つまり都市が、はじまった途端に、人々はパラダイスから地獄へ向かったのでありました。
これではかなわんとその対策として試みた、ソ連のコルホーズや白樺派の武者小路実篤による日向の新しき村も、やはり強権と干渉から脱却しきれず瓦解してしまいました。真の自由は個の独立、自給自足態勢によってのみ約束されることを人々は、縄文百姓の実証に照らして肝に命じなければなりません」。
そして、「いままで農的暮らしと無縁であった人々が急きょ自給自立農へ転換して、果たしてうまくいくのか、経営的にも技術的にもそれなりの下準備―農の現場に足を運び、見学や研修をしておくことが必要なのではないか、との思案について………心配はいらない、それどころかむしろそういう下準備はやらない方がいい。下手な先入観をつくってしまうと、それはいま農民が苦しんでいる営農形態をそっくり真似ることを意味し、同じ轍をふんで失敗に終わる公算が大である。全く初心な素人であった方がうまくいく」(『市民皆農』創森社)とおっしゃる。
同感である。

※注:中島正さん、1920年生まれ。
「薬を与えず、自然を与えよ!」と自然養鶏。山村にて小農くらし。『自然養鶏法』『みの虫革命』『都市を滅ぼせ』『自給農業のはじめ方』などの著者。

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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