自給自足の山里から【132】「自給自足の独立国」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年2月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
自給自足の独立国
薪ストーブが活躍
朝、目が覚め、窓の外を見ると、まっ白。銀世界である。ぶるぶる。「エイッ」と気を入れて蒲団から出て、居間の薪ストーブの火を付けるため、斧で薪をトントンと細かく割る。割木を丸めた古新聞の上に置き、マッチ一本。細木に火が付くと、太い薪をくべる。
燃え付きがよくない時は、鞴ならぬ火吹き竹で空気を送り込む。櫟は火が付きにくいが火力は強く、煤や煙をあまり出さず、熾火も長持ちして料理などに最高である。ストーブの上では鉄瓶・鍋は活躍。
豆炭(木炭粉を糊で卵形に固めたもの)をストーブのなかで熾し、置き炬燵に入れる。隙間だらけの築100年の木造家屋は、なかなか暖まらないので炭炬燵を並用している。
「人間は火を焚く動物」の今日
雪も止み、空はまっ青。母屋の煙突からすーと灰色の煙が立ちのぼっている。まだ屋根の雪下ろしはやらなくてもよいが、市道までとか、車庫、犬鶏豚山羊小屋、図書館、畑までは除雪しなくてはならない。陽が射す前に済ませないと、べとついてやりにくい。一汗かいて、濡れた服をストーブで乾かす。温かいお茶を飲み、雪の中から掘り出した白菜など料理し食べ、一息入れる。
隣のパン焼き小屋からも白っぽい煙が立ちのぼる。ケンタ(30歳)となお(1歳)をおんぶしているよしみ(28歳)が、パン生地を捏ねている。「じいちゃん、メェ~メェ~、ブゥ~、ブゥ~」と言っているのはみのり(3歳)である。他にもコケッ、コケッ、ガァ~、ガァ~、ワンワンとエサをねだっている。「みんなにも食事や」と幼い手を引いて、エサやり。少し手伝ってくれている?
時にスイッチを指で押すだけで、暖かくなり、ご飯も炊けるマンション暮らしの友人らがうらやましいなぁと思う。来訪した京都の大学生(女)は、「こんなに暖房や食事のために時間とられたら、映画観るとか美術館に行くという文化的生活はできないですね」と。私には返す言葉がない。昨春に切り、割って、夏に乾かしての苦労の薪が、パチパチと音を出し、赤い炎を様々に変えて、白い灰になっていく様は、美しくも喜びであり幸せである。誰かが「人間は火を焚く動物」と言ったが、今日では?
その足音は春を待つ草木の芽のよう
都会の大学生には「文化的でない山村の暮らし」をやってきた二児の父親のケンタは、幼少の頃を思う。
――冬の山村は、たくさんの遊び場だよ。除雪車が道端に大きく集められた雪山に穴を掘り、カマクラ! 時には除雪車追いかけたなぁ。道が空いてない時は、犬に先に行ってもらい、その後を歩いたこともあった。
分校(家から歩いて30分くらい)への道中、山の斜面を見つけてはソリである。そのソリの跡を、「スーパーマン」と言って、手を拡げてすべる。水の張っている田んぼはスケート場。行き道・帰り道・寄り道、雪はとってもいい遊び。分校まで3時間かかったことも。着く頃は服はビショビショになって「おそようございます」。椅子や机並べて、スキーウェア乾かし、乾いたら昼休み、次に乾いた時は帰る時。
居間は、雪の降る前に、薪作り、田畑片付け、大根・ごぼう・にんじんら掘り出し、土に埋めて籾ガラをかけて保存。雪が降れば、道開けの雪かき、大雪で屋根の雪下ろしなど、忙しい。雪かきは、春仕事の始まるまでの準備運動かな。雪の中から土や草が見えると嬉しくなる――。
――空から降る雪を見て、みのりが「雪だぁ、雪!雪」と叫ぶ。走りよろこぶ。雪を食べていた。そんなみのりを見て思った。僕はいつ頃だろう。雪を最後に食べたのは! 久しぶりに口にしたが、味は昔のまんまだ。
雪の上をみのりがトントン、キュキュと歩いた。足跡は小さいし、その足音は春を待つ草木の芽のようだ…。「少しずつ大きくなれ」。
昨冬、丸太で作る小屋建設の手伝いにいった。楽しかった。墨打ちを教わったし、天を教えてもらった。子どもの頃、屋根裏で梁に天と書いてあるのを見て“なんだろ”とずーと“謎”として心の残っていた。それが分かった。20代半ばくらいまでは、家に居て炭やきなどしてきたが、猟友会に、酒蔵に、と場など、“こうのとり”をおいかけて、年代の人々と出会い、話をし、一緒に作業している。山村に生きる知恵や技術を少しずつ身につけることが楽しい。まだまだ但馬にはおもしろい人がいる。あっという間に時は過ぎ、30歳に。幼いと思っていた妹の双子のあい・れいは20歳――。
自給自足の「独立国」
「縄文百姓」世界とつながる
正月1日の神戸新聞第4朝刊の1~2面にカラー写真入りで大きく紹介される。
「『自然の中で自然とともに暮らす縄文百姓』。大量消費と一線を画したその暮らしぶりは、まるで小さな『独立国』のようだ。手探りで始めて、ほぼ四半世紀。この『国』の住人は3世代13人になった。」
「『縄文百姓』は日本に、世界に結ばれ、誰にでも開かれている。大森一家との交流をきっかけに自給自足の暮らしを始めた若者は全国で10人を数える。『それぞれが新しいネットワークを広げ、新しい村づくり、国づくりをしてくれれば』昌也たちがまいた種は、さまざまな自然環境の中で根を下ろし、着実に育っている。」(編集委員・門野隆弘)
あ~す農場
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兵庫県朝来市和田山町朝日767
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1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
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