自給自足の山里から【131】「めぐりゆく風」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【131】「めぐりゆく風」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2010年1月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

めぐりゆく風

木枯らしがふぅ~と吹く、家の前の桐の大きな緑の葉っぱがふぁ~と飛び舞い散っていく。小さな手を天に向け「待ってェ」と追いかけ、ともに舞う幼きつくし(5歳)・すぎな(2)である。一幅の絵である。思わず私も仲間入りする。「つかまえたぞ。山羊さん喜ぶぞ」と声をあげる。
三世代で山村に生きる幸せを、風の中に感じる一刻である。

風が吹くと葉っぱは落ち葉となり、吹き溜まりができる。幼子たちも手伝わせて集め、「山羊さんがメェ~メェ~と待っている」と、小屋の方に持っていきあげる。白い歯をむき出し、むしゃむしゃ食べている様子に満足げにうれしさあふれる子たち。私も心ゆたかになる。
さらに落ち葉を集め、ニワトリ・ブタ小屋に入れ敷いていく。コッ、コッケェ・ブゥーブゥーと、これまた、うれしそうに動きまわる。田んぼ・畑にも投入し、微生物らの働きやすい環境づくりする。風によりまわりまわっていく。そして、その土地にはその土地の風土が生まれる。

まわりめぐって

シンシンと雪が風の音を吸いこんでいき、夜明けると銀世界になる。一転して風雪となって、これでもかとばかりに生きとし生けるものを襲う。耐えての春風はあたたかくつつむ。湿った梅雨の風はじっとり。田の夏草とりの泥と汗の身体にさわやかな風は台風へ、そして木枯らし。めぐりゆく。
大地と生きとし生きる動物・植物は、まわりめぐり、みんな同じ感慨である。我が身と土は一体、ふたつならず同じもの、身土不二を風は教えてくれる。
「昔しゃ、村に帰ってきたら空気がうまいなぁ、風が吹きいい気持ちやなぁと感じ、ほっとしたもん。ところが今じゃ、養鶏場の糞の臭いがただようし、黒木(設置された杉林)が大きくなり風も通らん」と嘆くのは古老。

我が農場の上方900mのところに40~50万羽飼っている養鶏場(工場?)がある。風とともに“悪臭”が届く。かつては見事な棚田であったろうところは、国の政策で植林(杉桧)され、今は黒い森と化し、時折黒い風が吹いてくる。
大地は苦しみ泣いている。人間は、自業自得の苦しみ。次・三世代へと続く山国日本の源である山村の再生へのたたかいが求められている。

こんな話を聞いた。青森の十和田で再生処理工場に反対している苫米地さんは、年間契約で有機米を作っているが、再処理工場が動き出した時、「お米が放射能で汚染されたものになるので、申し訳ないが、これから買えません」と断られたという。さしずめ、悪臭と黒い風の我が農場のものは、受け取れないということになる。
百姓は、風で送られてきたものが、大地に落ち土になり、身を泥と汗まみれにして生命をいただく。放射能まみれになりつつ・・・。

罪を正当化する罪はない

あっ、サイフに金がない。振っても出てこない、空っぽ。新米がようやくでき、山根さん(在来種保存会)らに譲って得たお金。「一年間苦労したのにくやしい!」とちえ(23歳)は涙。
彼女は最近免許とり、その車の車検費用でもあり、私らにとって大金。今までこんなことなく二重にショック。「警察に届けたら」の声もあったが、「まぁ仕方ない。そのうち事実ははっきりするだろう」と言うと、げん(27歳)は「入れ替わり立ち替わり来訪者が続き、多い(注)のだから仕方ない」と慰めてくれる。
仕方ないと言うけど、幼い頃から金、金に呪縛され、大人になっても金、金に翻弄され続け、いわば「トラウマ」化し、己れの行為を「正当化」しているように見える。

「ブラク(被差別部落)にしても、ただお前ら違う」と、結婚・付き合いでサベツされ、互いに深い傷跡を残す。それが逆に、己れの成した不当な行為でも、やみくもに正当化する愚かさでさらに傷を深くする。
イスラエルのユダヤ人は、ナチスのユダヤ人根絶やしで、飢え、病気の無数の人々をガス室へ、人間がかくも同じ人間に残虐行為―ホロコースト―のトラウマを引きずり、「攻撃的な被害者意識を育ててきた」(広河隆一)のである。だが「罪を正当化できる罪はない」(イスラエルのシュロモー・サンド教授)。
「今日、世界は4つの破滅的道を進んでいる。宗教戦争、強制的社会福祉への依存、水や食べ物の汚染、そして偉大なる警察官の信奉者になること。警察官はコンピュータや様々な機械をもたらす」(ポピのキクモングイ)時代にあって、地球自然と共存し、殺し合うことしなかった縄文、コンピュータ・機械に依らない、売らない百姓に、明日を託したい。

ささやかな歩み

①棚田(27枚)の再生に向けて、主にノコとオノで杉桧200本余切り倒す。
②34枚(1町3反余)の田を4軒で2週間の手植え。
③ケンタ(30歳)の隣の廃屋の再生。
④不耕起田畑、鶏・豚・山羊・アイガモ、バイオガス・水力発電、パン釜ら元気。
⑤なお1歳、すぎな・みのり2歳、つくしは5歳、ホームスクーリング。
⑥東ティモールの農民2人1ヵ月「研修」、韓国学生たち「百姓体験」。
⑦あい(20歳)れいのいるエルサルバドルへ。れい(20歳)は2年目に入る。
⑧あいのおしゃべりが「自給自足の山村暮らし」となり(冊子送料込400円)出版。
⑨ちえ(23歳)東京で2度、東ティモールとキューバの集いで話す。
⑩私は、ちえ・りさ子とともに、公民館・高校などで話す。

注:2009年(1~11月)の「居候・宿泊者」は172名、見学者322名、計494名(来訪者のノートから)

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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