自給自足の山里から【130】「からだを取り戻す百姓仕事」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【130】「からだを取り戻す百姓仕事」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2009年12月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

からだを取り戻す百姓仕事

ああ!異常気象!

山村の晩秋は、透き通る青空の下、お山が黄色や赤色に頬を染め、やがて落ち葉の涙を流し、きびしい雪の冬への心構えを示す。
我が農場の夜明けは、キラキラ輝く木星を従えて白く光るお月さんの下、コケッコッコーの鶏声ではじまる。発情したもえ(山羊)のメェ~メェ~が悩ましく、エサをねだってブゥーブゥー、散歩をねだってワンワンキャンキャン、また脱原発を願う水力発電をまわす川の水の流れる音が、山間を響かす。

ところがいつもの11月とは違う異常。台風かと思うような大雨と強風が続く。稲を架けた稲域が倒れ、大豆?の収穫も思うようにいかず、水力発電の水源に泥がたまり補修に追われるなど、百姓泣かせである。そして、かわいそうに、もえは、一子を残して急死する。栗の木の下に葬る。
パン焼き小屋から白い朝もやの中、灰色の煙が立ちのぼる。史上最悪のロシアのチェルノブイリ原発事故の日に、たまたま生まれたちえ(23歳)が、早朝2時頃から焼いている。
国内産小麦を山の清水と、山芋?をエサにした我が天然酵母菌でじっくり発酵させ、私の手作りの石窯で山から切り出し割った薪を使っての手作業の自慢のパンである。
大阪の高槻にお住まいの岡崎幹郎さんは「市販のパンはもちろん、自然食をうたったどこのパンよりおいしいです。お世辞ぬきで私が食べた限り日本一のパンです」とおっしゃる。

人間の「からだ」回復する百姓仕事

「おはようございます」と、「百姓体験居候」中の千香さん(26歳)・浩君(27歳)が起きてくる。2年間居候し、ケンタ(30歳)が中心になって廃屋を修理した隣家に「自立」し、近くで3頭の牛のエサやり世話している河野君(40歳)の指導の下、鶏(60羽)・豚(2頭)・山羊(4頭)らのエサづくりし、エサやりをする。
エサは、近くのJAのクズ小麦・米ヌカ・山の腐葉土・カキガラ・魚粉・残飯らを混ぜ発酵させたものである。
このエサを食べ、大地をほじくり泥まみれになり、太陽の陽を浴び、風に当たっての家畜たちの糞尿は、農場800m上方の大規模養鶏場(40万~50万羽)関西ポートリー(旧アサダエッグ―鳥インフルエンザ騒動で会長夫婦自死)のような悪臭無く、我がバイオガス装置で発生したメタンガスとなって台所で活躍し、また、液肥となって田畑を生かす。循環している。

一仕事の後の朝食は、焼きたてのパンに毎年夏1ヵ月研修しにやってきて、「第2・第3のあ~す農場を目指す東ティモールの百姓」のコーヒーである。私は食卓には同席するが、故・甲田光雄さんの教えにより、朝食はとらない。
今、農場は、私とちえ(ケンタ・げん・ユキトは同じ村で自立し、双子のあい・れいは中南米を旅中)であるが、田植え・稲刈り・もちつき・パン焼きなどは共同作業し、また、相変わらず来訪者・居候が続き、にぎやかである。

食後「何をしましょう」とたずねる若者。「まず、鎌を研ぎ、草刈りしよう」と答えて鎌を渡す。ふと見ると、赤いレンガの上でゴリゴリしている! ああ! 次いで畦草刈りに行く。手本を示す。しばらくして見にいくと、草先をチョロチョロ切り、バラバラに散らし、黒土が露わになっている。思わず「鎌は鍬じゃない!」と叫ぶ。「草は大地の生きもの、大事に丁寧に刈り集め、家畜のエサや堆肥にして大地に返すんや」と言いながら二度手間でやり直す。ケンタやげん(27歳)は「もう居候の世話は嫌や。自分らの仕事ができん」とぼやく。
若者の草刈りのからだの動きを見ていて、まるでロボットのように手だけ動かしている。「まぁ、たかが草刈りと言うな。からだをしなやかに動かさんと刈れん。そんなからだを取り戻すのが百姓仕事なんや」と話す。
「人間の“からだ”を回復するのは、根底的かつ社会的な仕事である」(竹内敏晴『ことばが劈かれるとき』)。

足下に火がつく前に、自給農業へ

いつも、我が縄文百姓を励ましてくださる自然養鶏の中島正さん(89歳)から著作(注)が送られてくる。ぜひ読んでいただきたい。
中島さんは、著書の中で次のようにおっしゃっている。「ルンペンだ、ホームレスだと侮辱するけど、遠い私の先祖・縄文人は悉くホームレスだった。」「もちろん、学校はなかったので、教育をめぐるバカなトラブルは起こらない。教育はお父さんやお母さんがやった」「人間の一生なんて、余分のぜい沢消費さえ望まなければ、万人皆同じ」「教育栄えて、人類滅ぶ、本末転倒なのだ、今の世の中は」(『今様徒然草』)。
また「やがて残り少ない資源の奪い合いが始まる時、国益を守るという美名のもとに、軍備を拡張しなければならないが、この場合、志願兵をたやすく獲得するには、格差社会―ワーキングプアが必須である。低賃金で過酷な労働を強いられた当のカタキを守るために身を挺して戦場に駆り出されることになる」「日和見を決め込んでいて、足下に火がついてからでは時すでに遅く、破局回避に間に合わない。“隗より始めよ”という格言は、指導者に突きつける前にまず我々が自らよくかみしめてみるべきである」(『自給農業のはじめ方』)

注①:『自給農業のはじめ方』(農文協)・『今様徒然草』(文芸社)

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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