自給自足の山里から【102】「問われている親の働き方」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【102】「問われている親の働き方」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2007年6月16日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

問われている親の働き方

山村の五月、晴れた青い空に、黒いカラスが飛んでいく。雑木の山々は新緑の黄緑がまぶしく輝き、水を貯えた田に映え、山間にホーケキョ、チェ・チェと鳥たちの鳴き声が響き、うす紫の藤、うす赤いうつぎ、黄色の山ブキが微笑む。私の心は、小おどりし、なごむ。
しかし、山々の半分以上を占める国の政策で植林し放置された杉桧林は、常緑の濃い暗さである。うれしさも半分、いや消えうせていくのが悲しくも怒りを抱かざるを得ない。

神戸大学の金澤洋一さんが、研究室(森林資源学)の学生たちを連れてやってきた。ニワトリ・豚・山羊・アイガモたちが活き活き、その糞を活用してのバイオガス装置からメタンガスが台所で青白い炎を出し活躍して、液体肥料により元気な野菜たち、農場内を流れる水がはねての水力発電の電灯の輝き、手作りの図書館(ピノキオ)、そして、元気な子どもたちと孫たち。その巡りゆく有様に学生たちは呆然。
家の前方の山の炭やき小屋へ案内する。山村の再生を願って、移住当初から炭やきしてきた。「木を切るから自然破壊」と“自然保護”者に言われたが、「木切るとひこばえ(新芽)が出て、ケモノ・トリたち寄ってきて、山は元気になる」とのお年寄りに励まされて。小屋への道端に、あざみの紫、クローバーの白、きんぽうげの黄が、心をなごませる。
小屋に着き、まわりを見て、金澤さんは「こりゃひどい!」とびっくり。切株は、ひこばえ無く枯れ、まわりの草笹は新芽食べられ「きれいに草刈りした」よう。また、赤茶色の土石流の跡が無残である。
ただ元気にあっちこっちに伸びているのは、毒草で鹿ら食べない竹似(たけに)草・蝮(まむし)草・馬酔木(あせび)などである。「不気味ですね。考えたくないが、日本の将来・未来の姿?」の声が誰からともなく出る。

移住した二十年前は、まだこんなことなかったが、数年来ひどくなった。過疎化が進み、廃村の動き加速化し、山に人の手が入らず、植林が放置され“暗闇の森”になって、ケモノらのエサ場がなくなり、里に降りてきたのである。また、猟をする人が老齢化した結果である。
「それにしても、鹿の影響が大きいことに驚きました。機会をとらえて発言していきたいと思います」と金澤さんから便り届く。
「大森さん、このまま放っておいたら、山が崩れ、家がつぶれるよ」と言われる。私の家のみならず、下流の都市も、三年前の23号台風で90%水に浸った豊岡市のように、呑みこまれる。
私たちのささやかな努力をあざ笑うかのように、自然の破壊を呼ぶ廃村の動きは止まらない。それは社会の崩壊でもある。

そんな5月15日、17歳高校生が母親を殺し首切断のニュース。10年前5月24日の神戸須磨の事件を思い出す。17歳双子(あい・れい)の親として、身も心も切断される思いである。
「あの子でも、学校に行き、メール・パソコン・コンビニ漬けで都会の子と変わらんで卒業して都会に行ったけど、すぐ心の病になり帰ってくる時代やからなぁ」とれいは、冷静である。
あいは、「お父さん、くるみ(猫)の子(四匹生まれる)一匹弱って死にかけている。くるみがしっかりめんどう見んからや」と、必死に介抱している。残念ながら二日後死んだ。弔う。
十七歳の春、ふたりは田んぼで耕運機を動かし、鍬をふるって畦塗りして、水田づくりをし、手での田植えに、姉(ちえ)兄(ユキト・げん・ケンタ)らと精を出す。
高校には行ってない。時に、トリを葬って生命(いのち)をいただく。ほぼ毎日誰かが「体験居候」しているので、じかに、日々の労働、生活をとおして、生きた交流で(反面教師も含めて)学ぶ。
パン焼きやコンビニアルバイトで貯めた金で、農閑期には、東京・大阪・長野・沖縄等に出かける。

19日に、17歳の高校生と父親がやってくる。「息子が、朝日新聞(昨年12月31日)を読んで、興味持ったようで、連れてきました」と言う。
「私は保険会社の幹部しており、東京に単身赴任。この子が学校に行かない。なんとかここで“体験居候”させられたらいいのだが。17歳は難しい」とおっしゃる。
翌日も、近くの17歳の高校生が「部屋に閉じこもって食事以外出てこない」とノイローゼになった母親の話を聞いた。父親は教員で、彼女は看護の仕事している。
忙しくて、子どもには、お金で与えられるものは与えてきたという。「大森さんのところで、自然と触れあう生活させたら持ち直すと思うのですが」とおっしゃる。
しかし、どうも問われているのは親の生き方・働き方である。坂本尚さん(農山漁村文化協会専務理事)ではないが、「働きかけるだけで、働きかけ返されることのない労働者には未来がない」のである。働きかけ、働きかけ返される百姓から未来が見える。17歳の子どもから、今日の自然と社会の崩壊の前に突きつけられていることを皆さんわかっている。ただ、子どものため、世間とかを気にせず実行あるのみと考える今日この頃。

目下、田植えに追われ、田んぼ三十枚を手で畦塗りし、手で植える。今年は手伝い人が少なく、家族で「順調や」。りさ子、好美さんも授乳の合間に手伝う。山間に赤ん坊の泣き声はやはりいい。私も負けじと泥と汗にまみれ、お酒も進む。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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