エッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」【348】|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、大西信夫さんによる様々な身近な事柄を取り上げたエッセイ「本だけ眺めて暮らしたい」を前身を含めて1988年5月22日から連載しています。
MK新聞2017年4月1日号の掲載記事です。
本だけ眺めて暮らしたい
企業が個人の蔵書を段ボール箱単位で倉庫に預かってくれるサービスがいくつかある。
その中で私が利用しているのがminikuraだ。
本というのは日常この目にしながら、つまり、眺めながら暮らすのでなければ、私にとってその存在理由を少なからず失ってしまう。
だから、自宅でも、できるだけ陳列しておきたいのだが、置ける場所が限られているから、本棚にしても二重に並べるので奥側の本の背が見えなくなったり、段ボール箱に詰めたり押し入れにしまい込むと本を持っていることすら忘れてしまったりする。
また、その中の本を参照する必要ができても簡単には取り出せなかったり、探すのが大変だったりする。
ましてや、自分で出し入れには行けない貸し倉庫に入れるなんてありえない、本を購入し所有している意味がない…とは思うものの、よんどころない急な事情があって、数年前、大量(家族に知られるとヒンシュクを買うので箱の数はあえて秘す)に預けた。
で、そのminikura。
毎月の余計な出費を自身に納得させるために言うのではないが、従来より比較的安く済むのだ。
蔵書を段ボール箱単位で預かるサービスは以前から他の企業でやっていたが、コストが難点だった。
毎月の保管料がそもそも高価な上に、箱を宅配便で倉庫に送る料金が必要。そして、自宅に送ってもらう際にもまた宅配送料がかかる。
本は重いので料金も高い。
大型書店に置かれていたパンフレットには、壁一面の作り付け本棚がある立派な書斎の写真が載っていたと記憶しているが、裕福な層を利用者として想定した価格設定だったのかもしれない。
いや、かつては倉庫の管理や物流のシステムが今ほど発達していなかったのでコストも実際にかかったのだろう。
minikuraはインターネットが発達したその先に登場した。
専用の箱の取り寄せ(箱は有料。送料は無料)から入庫する箱の引き取り日や出庫して受け取る日の申し込みまで、すべてネット上で利用者自身が操作するというシステムだ。
1箱(20kg)まで月額200円。入庫の送料無料。
一年以上保管すれば出庫も宅配無料。
IT技術の進歩がこの低価格を実現したのだろう。
ただ、預けている箱が多ければ毎月の負担額も大きい。
すぐに引き上げるつもりだったが、最近になって、ようやくひと箱ずつ引き上げ始めた。
その「自炊(紙の本を自分で電子化)」に追われている日はいつまで続く?
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MK新聞への大西信夫さんの連載記事
1988年以来、MK新聞に各種記事を連載中です。
1988年5月22日号~1991年11月22日号 「よしゆきの京都の見方」(45回連載)
1990年1月7日号~1992年2月7日 「空車中のひとりごと」(12回連載)
1995年1月22日号~1999年12月1日号 「何を見ても何かを思う」(64回連載)
1996年4月16日号~現在 「本だけ眺めて暮らしたい」(連載中)