フットハットがゆく【303】「前世」|MK新聞連載記事

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フットハットがゆく【303】「前世」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、塩見多一郎さんのエッセイ「フットハットがゆく」を2001年11月16日から連載しています。
MK新聞2019年2月1日号の掲載記事です。

 

前世

僕は人との会話の中で、その人の前世を想像して口に出す、という癖があります。
それを言って喜ばれたためしがないので、悪癖と言っていいかもしれません。

 

つい先日、番組出演者の21歳の女の子との話…。
私はすぐに寝てしまう癖がある。特に徹夜したとか寝不足というわけではなくても、ご飯を食べている最中、人と喋っている最中でも寝てしまったり…。
その子はダンサーなのであるが、子供の頃にレッスンを受けている最中、踊りながら寝てしまったこともあるらしい。
その話を聞いた時に僕は、前世は魚やな、と言ってしまいました。

 

魚は基本、ずっと泳いでいます。他の動物のように横になって寝るとか、隠れ家でぐっすり寝るなどができません。
例えば仮に、人間のように1日の3分の1、8時間寝る魚だったとして、水中で8時間も寝ようものなら、起きた時にはサメの胃袋の中です。
だから泳ぎながら、小刻みに寝るのです。
種類によっては、2分起きて1分寝る、極端な種は、2秒起きて1秒寝る、という作業を繰り返し、1日のトータルで3分の1を睡眠にあてるのです。
踊りながら寝たこともあるというその子は、前世で多分、そういう魚だったのではないか。という話をしたら、じゃぁ私は青虫で魚だったということですね? と笑いながら聞き返されました。

 

以前、同じその子が、街で見かけた鳥に反応して、随分と怖がっていたので、聞くと、鳩からスズメから、鳥という鳥が怖い、らしい。
カラスやトンビが怖いというのはなんとなくわかりますが、小さなスズメまで怖いとは…。
ということで僕はその子の前世を、鳥に食べられた青虫やね、と言ったそうなのです。
僕が以前住んでいた家の前のキャベツ畑…、スズメが青虫をつついている風景をよく見かけました。
無農薬のキャベツにはモンシロチョウの幼虫、青虫がつきます。
キャベツをモリモリと食べながら、可愛いモンシロチョウになる日を夢見ていた青虫が、突然飛んできたスズメにパクッと食べられ、人生(虫生)終わり。
それで、スズメが怖い、鳥が怖いという記憶がどこかに残り、輪廻転生で生まれ変わった人間になっても、その思いを引きずっていると、僕は想像したのであります。
そんなことを言われて喜ぶ若い女性はまずいませんが…(笑)。

 

しかし、僕が疑問に思うのは、同じように青虫としてスズメに食べられた人は、それこそ数え切れないほどいるはずなのに、スズメが怖いという人がそれほど多いとは思いません。
そこで僕はある仮説を立てました。
40億年前、地球に生命が誕生してから、あらゆる生き物に輪廻転生可能として、たった1日で死ぬものから数百年生きるものまで、平均したら何億回も生まれ変わったということです。
そして生まれ変わりがランダムに選ばれるとすると、逆に一度経験した同じ生き物になる可能性もあるわけです。
ということで、何度も青虫に生まれ変わり、何度もスズメに食べられたから、他の人よりも色濃い潜在記憶となり、現世でもスズメが怖いのでは?… と言われて喜ぶ若い女性はまずいませんが…

 

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