自給自足の山里から【184】「散りゆく春、母の死」|MK新聞連載記事

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自給自足の山里から【184】「散りゆく春、母の死」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2014年6月1日号の掲載記事です。

大森昌也さんの執筆です。

散りゆく春、母の死

色鮮やかな花、香り散りゆく春

山村の春は、白いこぶし・ウメ、ピンクの桜、黄金(こがね)色の山吹、紫のツツジ、黄色の菜の花など、日を追って色鮮やかに彩られ、移ろいゆき、甘い香りに酔う。
花たち、酔いの中散り、大地に落ち着き、幼い実を残す。
甘いにおいに誘われて、東京、名古屋、神戸など都会から「百姓体験居候」に、若者たちがやってくる。
鎌をと(・)石でとぐことから始め、といだ鎌を手に、田んぼ・畑に向かう。
冬も水を張り続ける「不耕起冬みず田んぼ」には、こうのとりより小さいが、くちばしの大きなアオサギが、悠然と一本足で立っている。近づいても平然、ゆっくりと飛び立つ。近くの木のてっぺんに止まり、若者を見下ろす。
「うぁ~。おたまじゃくしが、うじゃうじゃおる!」と、田んぼに手を入れ触っている。「あれェ。機械で耕していないのに、やわらかい!」と、びっくり。
「そう! 機械なんか使わないでも、おたまじゃくしたちが、耕しているんだ」と言うと、「自然ってすごいなぁ」と感嘆の面持ち。
草は点々とあるが、泥々してほとんど草のない田んぼ。イトミミズたちが多く、トロトロ層といわれる泥田の田んぼ。
除草剤なんて使わなくても除草される自然の営み、福岡正信さんの無の哲学の世界である。
「さあ! 田の大きな草を刈り、畦(あぜ)の草刈りを始めよう」と声をかけ、田んぼに入る。
「キャー」と、尻もちつく者! 草ならぬ指を刈り傷つく者! 刈るというより、大地をたたき鎌をいためつける者! 散々である。
一日の「体験」から、一週間の「体験居候」を経て、一年間「研修」し、縄文百姓の志持ち自立していく若者を見るとうれしい。

ジィちゃん! なにたべているの?

私は、田んぼ・畑で草刈りをしながら、セリ・ヨモギ・フキ・ノビル・つくしなど、ちょちょいつまみ食べる。口の周りが青くなっている。
そんな私を見ていた孫のつくし(9歳)が、「ジィちゃん! なにたべているの?」と聞く。「つくしじゃ」と言うと、キョトン!(笑)
実は、敬愛する百姓の中島正さん(93)から「大自然の中で暮らしながら、文明病のがん(・・)にかかるとは」と叱られ、「身の周りの野の草食べれば、がんなんか吹っ飛ぶ」と諭された次第です。
生で食べ切れない野草は、さっとお湯通ししたり、我が自然卵と軽く炒めて食べる。お酒が進む。2年半の弟子入りしての陶芸修行を終え帰ってきた娘のちえ(28)に「もうちょっと控えて!」と叱られる。

今夏は、水少なく冷たい!?

この春は、例年になくこぶしの花が咲き、またカメ虫(へこき虫とも)が多い。うかうか踏んづけたりするとなんとも臭い。
お年寄りは「今年の夏は、水が少なく冷たい」とおっしゃる。「そんなの今時当てにならん。花や虫たち、農薬・放射能でおかしくなっているからなぁ」と隣村の知人。
抗生物質など使わないハチ飼いの息子のげん(32)は、昨年全滅し、今年大金をはたいて新たにハチを手に入れた。それが「苗代づくりに気をとられ、熊にやられた!」と…。

母の死

この春、60年安保、沖縄の辺野古・高江の座り込みなどの闘いを行ってきた先輩たちの死亡が、次から次に伝えられる。
6月には、4人の方の合同偲(しの)ぶ会が行われる。
そんな中、4月22日には、母が死す。急の知らせで、真夜中、大阪まで娘のちえの運転で軽トラを飛ばすが、臨終には間に合わなかった。午後11時14分に息を引き取った。93歳である。
2006年の暮れ、脳梗塞で倒れ、大阪にいる妹やその娘(あい・れい)が世話をする。
私が訪れると、「昌(ま)あっちゃん」と、笑顔で迎えてくれる。妹は、「自慢の最愛の息子だからなあ」とやっかむ。
私は、「この山村においで」と誘うが、「私は都会」と言う。
私の山村への移住には、「みんなは、雪が深いから出て行くのに」と心配し危惧し、倒れた母。
7年4ヵ月に及ぶ闘病生活だった。
私は2日間、母の側にいて、寝て、親不孝を詫びる。
葬式は、6人の子どもたち・母の親友・6人の孫たちら家族で行う。「死んだら、からだは冷たくなるんだ」と、孫たちに母の顔に触れさせる。神妙な幼子たち。
幼い孫たちのあたたかい手には、母の“思い”が伝えられたことであろう。

母は、全国水平社(部落解放同盟の前身)創立の1922年、2月に生まれる。(全水は3月に創立)創立50周年記念の京都大会で、母の父は功労者として表彰される。部落差別を正し、「人の世に光あれ! 熱あれ!」を祈願した人生である。
最愛の夫と弟を戦争で殺され、自分も幼い私の手を引き、妹を背負って、命からがら満州から引き上げてきて、2人の子を育て、「婦人民主クラブ」の活動をしてきた人生である。
その“思い”は部落差別を正し、戦争を起こさせない、おんなの解放、である。
(訂正―先月号の最後から3行目、植田たかしさんとあるのは、「槌田たかし」さんの誤りでした。お詫びして訂正いたします)

 

あ~す農場

兵庫県朝来市和田山町朝日767

 

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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

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