自給自足の山里から【152】「事実に立ち向かう勇気を」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年10月1日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
事実に立ち向かう勇気を
「この娘、結婚できないのでは?」
山村の山間の西の空は、まっ赤な夕焼け。映えての黄金色の田んぼ輝く中を、黒いカラスが飛んでいく。
秋だというのに真夏のような猛暑続く。葉もの野菜は半ば枯れて無残である。
柿が青いうちからボタボタと落ちて、落ち着かない。放しているニワトリたちがコケッ、コケッとつつく。
落ちたイガを足で踏みつけ、栗を取り出しているのはつくし(7歳)である。「あい(22歳)! くりごはん、つくろう!」。
フクシマの子ども・お母さんは、どんな思いで夕日を見ているのだろう。今夏来訪した母親の「この娘は結婚できないのでは?」のつぶやきが耳を離れない。
半年経っても収束のメドは立たず、放射能はフクシマをこえて、関東一円・東北地方へ。そして、食物流通で日本中に。まきちらされて、取り返しのつかない深刻な汚染が起きている。私たちのからだも多かれ少なかれ放射能汚染=被爆されている。
嫌なこと・悪いことも<事実>として
フクシマで子どもたちをヒナンさせている人は、「3月11日以来、東電・政府・マスコミ・学者らは、ウソ・デマばかり。子どもたちヒナンさせようとしない」「放射能のことを言うと地域でパッシングされ村八分になる。差別を受ける」「授業で“校庭で遊ぶな”とか、“放射能の話”をした教師が辞めていった」「阪神の時もそうだったようですが、ヒナン場で性犯罪が起こっており、警察が配置された」「空き巣狙いの泥棒も多い」「牛には尿検査しても子たちには拒む」「警戒地域で3万頭の豚がいたが、水も食糧も与えられず。200頭が生き残った。豚が豚の死骸を食べて・・・」「第一原発で働く労働者は、孫請けどころか7次8次以上で、東電は涼しい顔」など、次から次に教えてくれる。
「できたら嫌なこと、悪いことは知りたくない。知らずに安心を得たいものである」。しかし、事実は事実として立ち向かう勇気を持ちたいものである。
我が村に、幼い子つれて若夫婦がヒナン
「今の汚染レベルを考えると、新幹線や高速道路を通してはいけないと思う。そこの人々は手厚く保護しながら、九州や北海道などの耕作放棄地や限界集落などに移住させるべきです」と、藤田裕幸(元慶大教員・長崎西海市で百姓)さんはおっしゃる。
我が限界集落に、この9月、岩手のホットスポットから幼い2歳の女の子つれて、若夫婦がげん・りさ子の隣に移住してきた。「自給自足を基にした暮らしをやってゆきたい」と、脱原発の思いが伝わる。
朝来市には他にも2家族がヒナンしており、市当局も歓迎。家屋への道が崩壊しているのを改修する。区長も歓迎。しかし、2~3人が反対。あきれる。
地元の百姓の友人は「今、村は大変。田んぼ・畑・森に入って百姓やる者は老い減り、定年で都会から帰った者や、都会からの移住者が幅を利かせ、都会の風を吹かせ、村をかき回す。ヒナンしての移住に反対する者はどうせそんな連中やろ。大地・森から離れたらダメや」と、的確に指摘しつつ嘆く。
また「先祖が村に何かあった時のために残した金を、廃村に際し村人で分けた話は聞くが、ケンタ君、げん君ら若い者が村で自立した百姓で頑張って、村の再生へやっているのに、旧住民は自分らの子が帰ってこんので、このままだと大森らに金取られると分けてしまったと聞いたが、村を残す気持は全くないのだから情けない。但馬の者としては恥ある」と嘆きつつも、「人としてやってはならないことをすると必ず報い、タタリがある」なんて言う。
そんな折、ケンタらの兄貴分として、都会から移住しての自給自足の百姓が、3人の男の子残して自死した。まわりの何ともいえない視線を感じ、耐えられなくての怒り・抗議ともいえる。
お姫様の指のよう
20年前、学生の時、稲刈りにやってきたことのある名城大学の杉本教員が、ゼミの学生4人をつれて16日から2泊3日の「百姓体験」にやってきた。何とも不安で暗い冴えない表情の学生たちに、私はちっとひるむ。
草取りする。取るというかつまむという様子。手の先の指は白く細く、まるでお城のお姫様のよう。鎌を手にしての稲刈りは、株を切るというかさするよう。ヨキを持っての薪割りは、ただただ薪をポンポンとたたき、枝を折る。
「日常生活で、手の指を使っての作業や、にぎって道具を使いこなすようなことがほとんどないのですから仕方ないです」と杉本さんは言う。コンピューター社会は人間の活力を奪う。
何とか、あいの指導の下、あ~す農場での百姓体験をこなす。
「ここでの経験を忘れずに、毎日の生活のどこかに生かしていけたら」とか「電気を使うために、水源のそうじなど大変な思いをするとは知らなかった」とか「3日間は全て新鮮で、全ての作業が楽しかった」とか「キツかった。トリ捌いて、他の命をいただく大切さを感じた。町に帰っても、命にやさしく生きたい」などの感想をもらす。
「しばらくぶりにやってきて、あ~す農場が成熟しているような気がしました。やわらかく、柔軟に変わってきていると思います。もちろん、よい方向にです」と杉本さん。
帰り際の学生たちの目輝き、すっきりした表情はやはり嬉しい。
あ~す農場
〒669-5238
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)