自給自足の山里から【144】「思い残すことのないほどの素晴らしいお産」|MK新聞連載記事

よみもの
自給自足の山里から【144】「思い残すことのないほどの素晴らしいお産」|MK新聞連載記事

MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2011年2月1日号の掲載記事です。

大森梨沙子さんの執筆です。

思い残すことのないほどの素晴らしいお産

「思い残すことのないほどの素晴らしいお産」。それがどんなものかは人それぞれだろうが、今の私がそう感じるお産をすることができた。私をとりまく自然、家族、友人たちのおかげで・・・。

2010年、雪が積もったかと思えば、春のような太陽がのぞき、蛙たちが出てくるが、また雪積もるような冬、新しい命を授かったことを感じた。
今度こそ、自分と赤ん坊の感覚を大切にしたお産をしよう。選択肢は1つしかなかった―家族だけでの自宅出産。
妊婦健診も受けない。医者や機械に依存すれば、感覚衰え、赤ん坊との会話が不透明なものになる。
気持ちよく赤ん坊とお話ししていれば、元気なこと、しんどいこと、何でも教えてくれる。それを信じず、機械でのぞくことは赤ん坊に失礼だ。そして、しっかり自己管理。四つん這いの草刈り、身体の軸揃う薪割りなどの百姓仕事は妊婦の身体にぴったり!
腹帯にも頼らずしっかり鍛え、田畑で採れた玄米、野菜中心の食事で過ごす。
プライベート出産、ヨガ、野口整体、断食博士の甲田療法は本や友人から学ぶ。最も大切なことは赤ん坊とゆったり楽しく。数値に囚われず、山とともに過ごし、自宅で迎える出産は母子ともにリラックスし、生きる力を出し切れるお産につながるだろう。

今は技術進み、お腹の子の状態見えすぎ、染色体異常、疾患の可能性まで分かるという。そのため治せる病も増えたようだが、負の可能性に不安抱き、中絶する妊婦も増えたそう。
あくまで可能性に過ぎないのに・・・。現に障害児や死産の可能性を警告されたが産みきり、何ともなかった子もいる。大切なのは技術についていく力でなく、自然より学び、感じ取る力。技術に翻弄され、生きる感性を失っていく人々に辛くなる。

そして自分の直感で数えた十月十日の10月17日。百姓仕事、作品制作にやっときりがつき、「お待たせ。もう出てきても大丈夫だよ」と言うと、よほど待ちわびていたのだろう、その日の午後6時に陣痛くる。
丁度、夫げんの実家、あ~す農場で育てた豚を皆でいただこうとしていた時。軽く食べ、「陣痛きたので産んできま~す!」と8時頃帰ると、その途端どんどん強まる陣痛。
お風呂に入り、柿の葉茶、はちみつジュース、小豆汁を準備し、布団を敷いた薄暗い蚊帳の中で落ち着くと、かなり強まった陣痛に身体は自然と楽な姿勢へと動く。
四つん這いで腰揺らし、痛み逃していると徐々に身体を起こしたくなり、野口整体でいう活元運動でて、膝をついて上半身を起こした姿勢になる。
早くこの子とゆっくり横になりたいな。でも、元気にその時を迎えられるかは分からない。一緒に頑張ろうね、赤ちゃん・・・。

一生懸命見守ってくれていたつくし(6歳)、すぎな(3歳)は10時には眠ってしまい、夫のげんに支えられつつ、赤ん坊と自分を信ずるのみ。
腰に当ててくれるげんの手が温かく落ち着かせてくれる。ここまで生死に真っ直ぐに立ち向かうのは初めてだ。
死と対峙してこそ生き生きと浮かび上がってくる生に、岡本太郎の言葉思い出す。そして、どんどん変化する身体感覚に集中。
パーンッときれいな音とともにパシャッと軽い破水。身体の奥底、真からかかってくる力に赤ん坊が大きく動き出したことを感じる。開いてくる子宮口。
いきむと私の手に赤ちゃんの頭、逆子でないことにほっとしつつ、もう一度いきむと頭がポロンッ!
次の波でまたいきむとクルンクルンッと右回転しつつ、ツルンッ!
げんがしっかり受け止めるとオギャーッ! 元気な赤ちゃん! やっと会えたね! お疲れ様、ありがとう。

ほっとして男か女なんて子とすっかり忘れ、心臓に近い左側に赤ちゃんおき、横になり、後は胎盤だ。
かわいい赤ちゃん眺めつつ、ゆっくり自然にはがれ出るのを待つこと2時間。産後回復よくするので一切れいただき、ボールに入れ赤ん坊の横におく。
げんは赤ん坊に胎脂をすりこむようにマッサージ、皮膚を鍛えるため100分後に服を着せる。
へその緒切るのは遅い方がいいので24時間後、げんが作った竹のヘラで切る。

初乳は胎便をしっかり出しきるため24時間後。それまでは少しの水のみ。でもあまりにぐっすり眠っていたため36時間後となった。
私は産後2日間は小さな玄米むすびと梅干し1つずつに胎盤一切れを1日2食。4日間はトイレにも起き上がらず、尿・便はげんにとってもらい、しっかり横になった(整体出産)。
薄暗い蚊帳の中、赤ちゃんとゆっくり幸せな時間。1ヵ月かけて明るい室内へと慣らしていった。

ストレスのない、いいお産だったため、よく飲みよく食べる赤ちゃん。
三男「かや」。つくしとすぎなもかわいくてたまらないよう。つくしは抱っこしてあやしたり、寝かしつけたり。すぎなは布団に潜り込みあやすうち、一緒に眠ってしまったり。
げんは産後、大忙し。おしめの洗濯に食事作り、子どもの世話にもちろん田畑も。3度目の出産にして、ものすごく感動したらしく、とてもかやをかわいがり、一段と父親に磨きがかかった。
力を合わせて乗り越えたこの出産、夫婦の絆もより深まり、いつまでもお産の話が絶えない。

秋のぽかぽか日和の中迎えた幸せなお産。でも山にはお腹をすかせた熊や猪たち。夏の酷暑、ナラ枯れに木の実少なく、渋柿まで食べにきた熊。熊さんのため、今年は干し柿作り止めると、三晩で食べ尽くした。
猪は道、畑、家周り、あらゆる所をおこし、食べ物探す。山の子どもたちもきっと腹ぺこなのだろう。すくすく育つかやを感謝の思いで眺めつつ、世界の子どもたちに思いを馳せる。どうかあらゆる子どもたちにとって幸せな1年になりますように・・・。

 

あ~す農場

〒669-5238

兵庫県朝来市和田山町朝日767

MK新聞について

「MK新聞」は月1回発行で、京都をはじめMKタクシーが走る各地の情報を発信する情報紙です。
MK観光ドライバーによる京都の観光情報、旬の映画や隠れた名店のご紹介、 楽しい読み物から教養になる連載の数々、運輸行政に対するMKの主張などが凝縮されています。
40年以上も発行を続けるMK新聞を、皆さま、どうぞよろしくお願いします。

ホームページからも最新号、バックナンバーを閲覧可能です。

MK新聞への「あ~す農場」の連載記事

1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)

2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)

この記事が気に入ったらSNSでシェアしよう!

関連記事

まだ知らない京都に出会う、
特別な旅行体験をラインナップ

MKタクシーでは様々な京都旅コンテンツを
ご用意しています。