自給自足の山里から【117】「あなたの笑顔はまるで太陽」|MK新聞連載記事
MKタクシーの車載広報誌であるMK新聞では、縄文百姓の大森昌也さんらによる「自給自足の山里から」を、1998年12月16日~2016年6月1日まで連載しました。
MK新聞2008年9月16日号の掲載記事です。
大森昌也さんの執筆です。
あなたの笑顔はまるで太陽
「ツクツクボーシ、ツクツクボーシ」、茶色の抜け殻残し、山間に、夏から秋をひびかせる。樹々にドングリ、クリ、カキなど、小さな緑の実、木の葉はさみしげに落葉の準備。わが田畑の稲、小豆、大豆、黒豆らも実り、熟成を期す。カボチャがゴロゴロ、うれしい。
「じいちゃん! 家の前の柿の木に、黒い大きな熊が出た! 田んぼにも鹿が入って、稲食べた!」とつくし(4歳)が懸命に訴える。「う~ん、柿はまだじゅくしてないのになあ。よほどお腹がすいていたんやろ。父ちゃん(げん・27歳)のハチ(養蜂)がやられんようにせんとなあ。つくしは「ハチは大丈夫だった」と言う。「『電気柵』しているからなあ。でも鹿は飛び越えて田んぼに入るなあ」と嘆くと、「父ちゃん、網を高くしているよ」と思いやる。
今や、反米大陸と化し、自立、自給、連帯の動き、南アメリカのメキシコ、キューバ、ペルー、ボリビアなどを旅しているので、あい・れい(18歳・双子)・ちえ(22歳)が、あ~す農場を仕切る。
七反の田畑が、七十羽の鶏、二頭の豚、山羊、バイオガス、水力発電、そして常に三~五名の「百姓体験居候」たちの世話に追われる。
「あっ! 白サギが、田んぼに入っている! タニシなんかを食べているんやなあ。稲を痛めんといて!」とあい。れいは、昼間、百姓仕事し、夕方、下の町のビアホールでアルバイト。熊の出る山道をバイクで。この冬、なんでも、南米のちえと合流する資金のためとか。帰宅まで、晩酌を止める私。
武蔵野美術大学の学生ら「百姓体験居候」
夏休みは、学生らの来訪がつづく。
人類移動の歴史を探る旅を十五年前からやっている探険家の関野吉晴さんが、最終章となる東南アジアルートを来年四月に縄文カヌーを作って挑戦。船の材料、食料などは全て自然の中から集めるという。
その「黒潮カヌープロジェクト」の木田沙都紀さんから「あ~す農場の皆さん、お元気ですか。今度8月6日から13日まで武蔵野美術大学の学生、卒業生たちをつれて、十人ほどでうかがいます。関野さんのもとに集った百人の学生、卒業生たちは、カヌーの船体づくり、帆とロープづくり、木を切ったり抜いたりする鉄の道具づくり、航海中の食料づくりに大きく分かれて活動しています。その各班の活動内容を記録し、最終的に映画として発表するつもりです。今度、あ~す農場に向かうのは、食や生活に関心ある人たちです。物をつくること、生活すること、それによって人と人が結びついている安心感や居心地のよさをぜひ知ってほしいと思い、あ~す農場行きをみんなに提案しました。夏のあ~す農場、ワクワクしています」と便り届く。
早速女性十一人男性一人来訪する。一週間「百姓体験居候」する。
「来るまでは不安などたくさんありましたが、来たら、一緒に生活しているうちに、とても素敵な場所で一日一日が豊に過ごせました。百姓という言葉の重さと輝きにひかれました」(山田)。
「ニワトリをほふることができて、命を食べているんだと思えた気がします。映像も頑張って編集します」(渥美)。
「雑草を刈って敷いておくとか、すぐ自分の畑でやってみます」(高林)。
「なんでだろう、なんか最後に涙が出てきた。具体的な“何か”でなく。お父さん、あいちゃん、れいちゃん、ケンタ兄貴家族、げん兄貴家族、一緒に過ごした全てが愛おしくて、皆に出逢えたことに、自分は幸せです」(富賀見)。
「都会生活の中で毒にまみれた体が少しずつ変化していることを肌で感じ、何だか『自分生きてる!』、そんな当たり前のことを身にしみて感じられたことは本当にただただ感動でした。大森家の家族の“キズナ”、そして“愛”にふれ、力みなぎるパワフルな日を過ごせたことは、これからの人生の大きなかて(・・)になると思います」(田井)。
「こんなに“はじめて”の多い毎日ははじめて。あい・れい、どうもおーきに● また▲▲ガールズトーク▲▲しましょー!!」(森)。
「食べものが体を作る。健康な体で、元気な子どもを四人産みたい。来て本当に良かった! 毎食皆で一緒に食べれてうれしかった。ここに来て、ゲバラ、東ティモール、これは刺激的だった。六ヶ所、原発、戦車、部落問題、この私が気になっていることがらについて深まった縁を感じた。清志郎も!」(宮本)。
「居候百姓してみて、今までの自分の生活が、すごく断片的と感じた。食べることをただお腹をみたすだけの行為としてしか見ていない。実は、育ててから食べるまでもかなりの情熱が含まれていて、都会人がインターネットやメディアで流し込まれる以上の体にしみこむメッセージがあるのではないか、そんなことを考えました。大森家の人たちの言葉は、ひとつひとつが、自分たちが体験したことを伝える言葉で、聞いていて素直に受けとめることができました。あ~すのパワーはすごい。これから少しずつ生活の自給へ近づけるようにしていきたい!! ほとんど、あ~すは“ユートピア”だったなぁー」(小池)。
「食に対する労働を直に感じることは、とても貴重な体験でした。あいちゃん、れいちゃんは人間としてあらゆる面ですばらしくて、そこが大きな収穫でした」(木下)。
あなたの笑顔はまるで太陽のよう
「また、きてしまいました。帰ってもあ~す農場のステキな思い出を、ムサビの仲間と語り合えることが嬉しいです。今回は、お父さんの貴重な話をきけたことも、とてもよく、今後の糧にもなりました」(蔵田)。
そして、黒一点(・・・)の狩野君は「それぞれバラバラの方向に向いている都会の家族とは違い、ここでは同じ方向に向かっている。ここには理想とする家族の姿があった。昌也さんの人生の結晶は、種となって、この地に根を生やし、新しい息吹きを運んできた。あなたの笑顔はまるで太陽のようだ」なんて!
木田さんは「また来れてよかった。また来たいな」と。皆さん、「また来ます」「また必ず会いに来ます」「またすぐ来ます」など、おっしゃる。再会がたのしみ。
他にも名古屋の名城大学の農業経済杉本ゼミ7人も8月21~23日、二泊三日で来訪。
あ~す農場
〒669-5238
兵庫県朝来市和田山町朝日767
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MK新聞への「あ~す農場」の連載記事
1998年12月16日号~2016年6月1日号
大森昌也さん他「自給自足の山里より」(208回連載)
2017年1月1日号~2022年12月1日号
大森梨沙子さん「葉根たより」(72回連載)